改訂新版 世界大百科事典 「ワダイ王国」の意味・わかりやすい解説
ワダイ王国 (ワダイおうこく)
アフリカのチャド共和国東部のワダイWadai(Ouaddai)地方に興亡した王国。この地方にはすでに14世紀には非イスラム教徒であるアラブ遊牧民が国家を形成していた。その支配王朝はトゥンジュール王朝で,彼らはエジプトとチャド湖方面を結ぶダルブ・アルアルバイーン(〈40日間交易路〉の意)を介してエジプトと奴隷貿易を行っていた。また彼らは従属民であるマバ族(農耕民)から食物や労役を徴発し,こうして王国が成立していた。ところが1630-40年にこの王朝はイスラムの聖職者であるアブデル・カリームのクーデタで打倒され,イスラム王国となった。彼は山に囲まれたワラという地域を都とし,ここに煉瓦造の王宮とモスクを建て,エジプトやフンジ(現在のハルツーム北方の青ナイル川周辺地域)との経済的・文化的交流の中心とした。王国はこの後19世紀後半まで栄えたが,四つの地域に区分され,それぞれの地域には知事と30人の大土地所有者および軍隊がその統治者として配置された。そして国民からは,その職業に応じてさまざまな物品を貢納によって集め,さらに軍事力で南方の非イスラム教徒たちにも貢納を強要した。
1890年フランスがコンゴおよびチャド湖からこの王国に到達し,99年これを領有した。しかしイスラム教徒の抵抗は根強く,1908年には王がジハード(聖戦)を宣言してフランス軍と戦ったが,12年についに敗れ,王国は滅亡した。
執筆者:井上 兼行
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報