日本大百科全書(ニッポニカ) 「イオン化異性」の意味・わかりやすい解説
イオン化異性
いおんかいせい
ionization isomerism
組成式が同じ塩あるいは錯塩が、溶液中で電離した際に異なるイオンを放出する異性現象。錯塩においての例が多い。組成式がCoClSO4・5NH3となる錯塩には、赤紫色のペンタアンミンクロリドコバルト(Ⅲ)硫酸塩とバラ色のペンタアンミンスルファトコバルト(Ⅲ)塩化物の2種類があり、それぞれ水溶液中で次のように電離する。
[CoCl(NH3)5]SO4
→[CoCl(NH3)5]2++SO42-
赤紫色
[Co(NH3)5(SO4)]Cl
→[Co(NH3)5(SO4)]++Cl-
バラ色
同じような例としてCoCl2(NO2)・4NH3では、
[CoCl(NH3)4(NO2)]Cl
→[CoCl(NH3)4(NO2)]++Cl-
赤色
[CoCl2(NH3)4]NO2
→[CoCl2(NH3)4]++NO2-
このように2種のイオン化異性があるが、後者では配位構造の違いによって、緑色(trans‐テトラアンミンジクロリドコバルト(Ⅲ)亜硝酸塩)と、紫色(cis‐テトラアンミンジクロリドコバルト(Ⅲ)亜硝酸塩)の2種の幾何異性体が存在する。これまでの例は、原子団やイオンの組合せが異なる場合であるが、さらに広義の組成式を考えると、CoH15N6O6Sの組成式をもつ錯塩には[Co(NH3)5(SO3)]NO3と[Co(NH3)5(NO2)]SO4の2種類があって、これらもイオン化異性であると考えることができる。
[岩本振武]