内科学 第10版 「インクレチン」の解説
インクレチン(インクレチンとエネルギー代謝)
インクレチンとは消化管由来のインスリン分泌促進因子である.上部小腸などに存在するK細胞からはGIP(gastric inhibitory polypeptideまたはglucose-dependent insulinotropic polypeptide),下部小腸などに発現するL細胞からはGLP-1(glucagon-like peptide-1)が産生・食事に伴い分泌される.いずれも,膵β細胞に発現する受容体(GIP受容体,GLP-1受容体)を刺激してインスリン分泌を促進する(図12-16-1).インクレチンの膵作用によってインスリンが増加すると,インスリンの同化作用により脂肪細胞への中性脂肪蓄積などが生じ,エネルギー代謝は蓄積に傾く.一方,インクレチンの受容体は膵外組織にも発現しており,GLP-1受容体とGIP受容体の組織発現様式は異なる.これらの組織への作用(インクレチンの膵外作用)によって,GLP-1とGIPはエネルギー代謝に異なる役割をもっている.
a.GLP-1とエネルギー代謝
GLP-1受容体は中枢神経系や胃に発現している.これらを薬理的な高濃度のGLP-1で刺激すると,食欲抑制や胃運動抑制が生じる.その結果,摂取エネルギー量の低下につながる.
b.GIPとエネルギー代謝
GIP受容体は脂肪細胞に発現している.GIP受容体を欠損したマウスでは肥満が抑制される.すなわち,GIPシグナルが抑制された状態では,栄養素は脂肪細胞に蓄積しないで,肝や筋などでエネルギーとして消費される(Miyawakiら,2002).逆に,増強されたGIPシグナルは脂肪細胞への栄養素の蓄積を促進し,消費エネルギー量を低下させる.[山田祐一郎]
■文献
Miyawaki K, Yamada Y, et al: Inhibition of gastric inhibitory polypeptide signaling prevents obesity. Nat Med, 8: 738-742,2002.
Narita T, Katsuura Y, et al: Miglitol induces prolonged and enhanced glucagon-like peptide-1 and reduced gastric inhibitory polypeptide responses after ingestion of a mixed meal in Japanese type 2 diabetic patients. Diabet Med, 26: 187-188,2009.
Seino Y, Rasmussen MF, et al: Efficacy and safety of the once-daily human GLP-1 analogue, liraglutide, vs glibenclamide monotherapy in Japanese patients with type 2 diabetes. Curr Med Res Opin, 26: 1013-1022, 2010.
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報