翻訳|nutrient
生物が生命を維持するために栄養(食物)として外界から取り入れる物質を栄養素という。これは基本的には,(1)炭水化物,タンパク質,脂肪などエネルギー源や体構成物の材料となる物質,(2)ビタミン,無機塩類(ミネラル)などで前者にくらべて必要量ははるかに少ないが生命の維持に不可欠な役割をはたす物質に大別される。このうち炭水化物,タンパク質,脂肪はもっとも多量に要求される高分子で,三大栄養素と呼ばれる。これらの物質1gが酸化分解されることによって炭水化物は4.2kcal,タンパク質は4.3kcal,脂質は9.4kcalのエネルギーを生じる。エネルギー源としては炭水化物あるいは脂肪だけでも要求は満たされるが,体構成タンパク質の素材であるアミノ酸を供給するためには,タンパク質は不可欠である。取り入れられた栄養素はいつもすぐに全部が利用されるとは限らず,要求量を満たした余分のものは貯蔵型の物質であるグリコーゲンや脂肪として蓄えられ,必要に応じて転換・使用される。
執筆者:佃 弘子
植物は有機化合物を利用することができるが,自然状態ではふつう外界から有機化合物は取らず,無機化合物を取り植物体内で有機化合物を合成する。植物の正常な生長には炭素C,酸素O,水素H,窒素N,リンP,カルシウムCa,カリウムK,マグネシウムMg,硫黄S,鉄Fe,亜鉛Zn,マンガンMn,銅Cu,ホウ素B,モリブデンMo,塩素Clの合計16種類の元素が必要で,これらは必須元素と呼ばれる。これらの元素はいずれも無機化合物の形で取り込まれる。必須元素のうち比較的多量に必要とされるC,O,H,N,P,Ca,K,Mg,Sの9種類の元素は多量元素と呼ばれ,少量で足りるFe,Zn,Mn,Cu,B,Mo,Clの7種類の元素は微量元素と呼ばれる。ある元素が植物にとって必須であるかどうかは,その元素が下記の四つの規準をすべて満たすかどうかで判定される。(1)その元素がないと植物が生育しない,(2)その元素の不足で症状が現れたときにその元素を加えると症状が回復する,(3)その元素が特異的に要求されるのであり,他の元素では代用されない,(4)他の過剰元素による害を拮抗的に取り除くというような間接的効果ではなく,植物の代謝に対してその元素の直接の効果が現れるものでなければならない。この規準に対して十分には証明されていないが,上記の必須元素のほかに特定の元素が多量に含まれている植物がある。例えば,イネではケイ素Siが多量に取り込まれるが,この場合はSiがイネの生育に有効な働きをしていると考えられている。
C,H,Oの3元素は,主として水H2Oおよび空気中の二酸化炭素CO2と酸素O2から取られるが,それ以外の元素は土壌中の塩から取られるので,それらを栄養塩類と呼ぶ。栄養塩類は,水生植物では体表面から,陸上植物では根から取り込まれる。植物は空気中の分子状の窒素(N2)を直接利用することはできないので,植物が利用できるNはもとをただせば窒素固定を行う微生物が固定したNに由来している。
1843年にドイツの農芸化学者J.F.vonリービヒは〈植物がどれだけ生長できるかは,必要な元素のうち最も不足しているものの量で決められる〉(リービヒの最小律)ことを示した。施肥は,この最小のものの量を増大させて増収をはかろうとしていることにほかならない。現在では,土壌を使う代りに,必須元素を適切な割合に含む植物のための〈メニュー〉が作られている。このような溶液に植物の根を漬けて,まったく土なしで植物を育てることができる。これは水耕法と呼ばれ,実験に用いられるばかりでなく,実用化も行われている。これについて詳しくは〈水耕〉の項目を参照。
→栄養
執筆者:辻 英夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
…生物は外界からとり入れた種々の物質を材料にして体の構成物質を作り,また体内で物質が分解するときに生じる化学的エネルギーを利用してあらゆる生活活動を行っている。このような体外からの栄養物質(これを栄養素という)の摂取と体内でそれを利用する過程を栄養という。 摂取する栄養素の質によって栄養型が分類される。…
…腸管で消化を受けた残りの難溶性の物質は直腸を経て肛門から排出される。 体が食物として摂取するおもな栄養素は,糖質,タンパク質および脂質である。糖質としては,デンプンが大部分を占めるが,これが加水分解されてブドウ糖になって吸収される。…
※「栄養素」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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