インスリン(読み)いんすりん(英語表記)insulin

翻訳|insulin

日本大百科全書(ニッポニカ) 「インスリン」の意味・わかりやすい解説

インスリン
いんすりん
insulin

膵臓(すいぞう)のランゲルハンス島のβ(ベータ)細胞より分泌されるホルモンインシュリンともいう。生体内において血糖を降下させる唯一のホルモンである。ヒトインスリンは、21個のアミノ酸からなるS-S結合を一つもつA鎖と、30個のアミノ酸からなるB鎖が、二つのS-S結合によって結び付けられた構造をもつ分子量5734のポリペプチドホルモンである。インスリンは多種の組織、器官でのさまざまな代謝に直接的、間接的な作用を示し、さらにほかのホルモンとも密接な関係を保ちながら、代謝の調節に重要な働きをしている。なかでも、とくに肝臓、筋肉、脂肪組織を主要な標的器官としており、種々の現象が認められる。

 このうち、酵素の誘導には数時間を要するが、その他の作用は非常に速やかに行われる。インスリン欠乏時には、多くの組織でブドウ糖の取り込みが低下し、肝臓でのブドウ糖放出量が増して高血糖状態、いわゆる糖尿病を引き起こす。その結果、細胞内はブドウ糖欠乏状態となり、エネルギー供給源としてタンパク質、脂肪に依存するようになるため、タンパク質からの糖新生、脂肪の異化が促進され、脂質異常症を引き起こし、血管系病変に基づいた数々の合併症をもたらす。

 インスリンの作用の仕組みについては解明されつつあるが、細胞膜表面に特異的な受容体が存在し、インスリンが結合することにより、その作用を発揮するものと考えられている。糖尿病の治療に用いるインスリン製剤は、効果の持続時間の差異により、レギュラー(速効性)インスリン、レンテ(中間型)インスリン、ウルトラレンテ(持続性)インスリンなどに分けられる。

[川上正澄]

『葛谷健編『インスリン――分子メカニズムから臨床へ』(1996・講談社)』『小林正編『インスリン療法マニュアル』第3版(2005・文光堂)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「インスリン」の意味・わかりやすい解説

インスリン
insulin

ホルモンの一種。膵臓のランゲルハンス島のβ細胞から分泌され,糖質の代謝に重要な役割を果す。 1921年に F.G.バンティングと C.H.ベストが発見し,34年に D.スコットが亜鉛添加によって容易に結晶化することを発見するに及んで,純度の高いインスリン製剤が広く供給されるようになった。インスリン製剤は糖尿病の特効薬である。現在,糖尿病に用いられる製剤を大別すると,(1) 血糖を低下させる作用は迅速であるが,効果の持続時間が短い正常インスリン,(2) 効果の発現は遅いが,長時間作用する持続インスリン,(3) 作用時間がその中間の中間インスリン,などがある。インスリンの含有量も 1ml 中に 20,40,80,100単位など各種のものがある。近年,ヒト由来インスリンも開発され,製剤としての純化は完了した。今後は超速効型,水溶性,持続型の開発に関心が高まっている。

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