インターネット上に展開され、パソコンやモバイル端末で閲覧する広告。サービス利用者から収集したデータを基に、個人の興味に狙いを絞った内容を表示する「ターゲティング広告」は効果が高いとされる一方、個人情報の扱いを懸念する声がある。米グーグルなど巨大IT企業の影響力が強く、各国の競争当局が警戒を強めている。
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インターネットを介した広告の総称。ポータルサイトをはじめ、ウェブサイト、ブログ、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)、電子メール、オンラインアプリケーションなどに掲載される。ネット広告、デジタル広告、オンライン広告、ウェブ広告ともいう。閲覧できる通信機器がパソコン、携帯電話、スマートフォン、タブレット型端末などに広がり、市場が急拡大している。電通の調査によれば、日本国内のインターネット広告市場は、1996年(平成8)に初めて約16億円と推計された後、急成長を続け、2004年(平成16)にラジオ広告、2009年に新聞広告、2019年(令和1)にテレビ広告をそれぞれ上回り、同年2兆1048億円に達した。インターネット広告は、閲覧データなどから消費者に適した商品を宣伝できるターゲティング性、クリック回数などの指標から広告効果がわかる計測性、ゲームや動画コンテンツなどを広告に盛り込むことで楽しみながら広告の理解を深めてもらうインタラクティブ性(双方向性)などの特徴をもつ。
[矢野 武 2021年1月21日]
インターネット広告は表示形式、配信手法、課金方法、掲載媒体などによって多様な種類があり、技術革新につれて新たなタイプが次々と生まれている。表示形式には、指定サイトの一定場所に期間・時間などを固定して宣伝する「バナー型(純広告)」、文字だけの「テキスト型(純広告)」、記事一覧や検索結果に自然な形で挿入する「ネイティブ型(インフィ―ド型)」、記事広告形式の「タイアップ型」、動画や音声を流したりマウスの動きに反応したりする「リッチメディア型」などがある。配信手法では、閲覧画面と関連性の高い広告を表示する「ターゲティング型」、検索ワードに関連した広告を宣伝する「検索連動型(リスティング型)」、モバイル端末の位置情報に連動する「位置連動型」、サイトやブログ、SNSなどの多数の媒体に広告を配信する「アドネットワーク型」などがある。課金方法では、特定サイトへの掲載時間を保証する「期間保証型」、商品購買や会員加入などの成果に報酬を払う「アフィリエイト型」、クリックごとに課金が発生する「クリック型」、表示回数(通常1000回を1単位)で広告主への課金がきまる「インプレッション型」、クリックのほか、コメントを残すなど閲覧者の行動(エンゲージメント)が広告主への課金対象となる「エンゲージメント型」などがある。掲載媒体では、SNSの一般投稿と一緒に表示される「SNS型」、ユーチューブ(YouTube)やニコニコ動画などに掲載される「動画型」などがある。
[矢野 武 2021年1月21日]
インターネット広告市場は、先端広告技術であるアドテクノロジーと、多数媒体へ広告配信できるアドネットワークの登場で、拡大にはずみがついた。2008年のリーマン・ショック後、失業した金融工学の技術者らが大量に広告業界へ転職し、高度なアドテクノロジー開発が加速した。ITに統計学や心理学を組み合わせ、閲覧・検索・購買履歴や位置情報などを分析して瞬時に、性別、年齢、趣味などの人物像を推定し、好みにあった最適な広告を表示できるようになった。広告を掲載する場所やタイミングを最適化し、関心の高い消費者への接触率を高める技術で、リターゲティングともよばれる。
2008年ころから運用されたアドネットワークによって、広告主や広告代理店は、アドネットワーク事業者との一度の契約で、サイト、ブログ、SNSなど多数の媒体への広告配信が可能となり、顧客との接触率(リーチ率)を高めることが期待できるようになった。また、アドネットワーク事業者が広告の受注、配信、課金などを一手に引き受けるので、課金方法が統一され、広告配信による効果測定などもリアルタイムでできる。一方で、配信するウェブサイトを指定したり、表示場所を決めたりするのがむずかしく、広告内容によっては、ユーザーに対してマイナスイメージを与える可能性も否定できない。
[矢野 武 2021年1月21日]
市場拡大で、プラットフォーマーとよばれる巨大IT企業による寡占、プライバシーの侵害、フェイク情報などの入った不正広告の掲載などの問題が生じ、世界でインターネット広告に対する規制の動きが広がっている。情報量や交渉力で強い立場にあるIT企業が検索広告市場を事実上支配しているとして、独占禁止法制に基づく調査や規制の動きが相次いでいる。ヨーロッパ連合(EU)ヨーロッパ委員会は2017年以降、IT検索大手グーグルに対し、支配的地位を乱用し競合企業の広告を規制したなどとしてEU競争法違反でたびたび制裁金を科してきた。アメリカ司法省は2020年、グーグルが端末メーカーと検索エンジンの初期設定契約を結んでいるのは反トラスト法違反であるとして、アメリカ連邦地方裁判所に提訴した。
プライバシー保護では、サイトの閲覧履歴などの個人データから需要を推定し宣伝商品を表示するターゲティング広告が普及したが、検索・購買履歴や位置情報から個人データが多くの企業へ拡散するうえ、病歴、趣味・嗜好、政治信条などが割り出されるリスクがある。このためEUが2018年、個人データの収集・処理からヨーロッパ域外への持ち出しまでを広範に規制し、企業に厳格な情報管理を求める一般データ保護規則(GDPR)を施行、世界各国の当局は個人データを入手する際の当事者への通知義務などの規制に乗り出した。日本の公正取引委員会も2019年、IT企業を独占禁止法で規制する指針案を公表、自動表示された広告を消費者の意思で表示できなくする対策づくりに取り組んでいる。アップル、グーグルなどのIT企業も広告向け閲覧履歴データ「クッキー」を制限するよう方針を転換した。
フェイクニュースが世界各国の選挙戦に影響するように、フェイク広告ともいうべき誤った情報を盛り込んだ広告、根拠不明の広告、不快感を与える悪質広告などが増えている。アメリカ、ヨーロッパ、日本を含むアジア各国とも、SNS事業者やプラットフォーマーに対し、フェイクニュースを流布する広告主の排除など、広告の審査基準や掲載規約を設け、フェイク広告対策をとるよう強く求めている。グーグルは2018年に約23億件の悪質広告を削除し、ヤフー・ジャパンも2019年に2.3億件の広告を却下した。
[矢野 武 2021年1月21日]
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