エナメル上皮腫(読み)エナメルじょうひしゅ(その他表記)Ameloblastoma

六訂版 家庭医学大全科 「エナメル上皮腫」の解説

エナメル上皮腫
エナメルじょうひしゅ
Ameloblastoma
(口・あごの病気)

どんな病気か

 顎骨内に発生する良性歯原性腫瘍(しげんせいしゅよう)です。口腔腫瘍の約10%を占め、歯原性腫瘍のなかでは最も頻度が高い腫瘍です。性差はなく、20~30歳代で診断されることが多く、下顎骨大臼歯(だいきゅうし)部から下顎枝部に好発します(図21)。

 原因は不明です。

症状の現れ方

 初期には無症状ですが、増大すると顎骨の膨隆(ぼうりゅう)を来します。腫瘍が増大して顎骨の吸収が進むと、羊皮紙様感(ようひしようかん)(ペコペコした感じ)や波動(波のような動き)を触れます。また、歯の傾斜、転位、埋伏(まいふく)が認められます。

検査と診断

 診断はX線CTなどの画像診断と、生検病変の一部を採取して顕微鏡で調べること)により確定されます。X線では境界がはっきりした単房性、多房性ならびに蜂の巣状の透過像がみられます。鑑別すべき疾患は、顎骨内に生じるその他の良性腫瘍嚢胞(のうほう)で、画像診断と生検により鑑別されます。

治療の方法

 単房性のものは、患部摘出に加えて周囲の骨を取り除きます。小児では開窓療法(窓を開けて減圧する)を行い、腫瘍が小さくなってから摘出を行います。多房性のものでは、顎骨切除上顎:上顎部分切除、上顎全摘出、下顎:下顎骨辺縁(へんえん)切除、下顎骨区域切除、下顎骨半側切除)を行います。

 エナメル上皮腫は、良性とはいえ局所浸潤性(しんじゅんせい)に増殖するため、時に再発します。繰り返し再発することによって転移したり、悪性化することもあると指摘されています。

病気に気づいたらどうする

 顎骨の無痛性の腫脹膨隆など、疑わしい病変に気づいたら、ただちに口腔外科などの専門医を受診して、精密検査、治療を受ける必要があります。


出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「エナメル上皮腫」の意味・わかりやすい解説

エナメル上皮腫
えなめるじょうひしゅ

顎骨(がくこつ)内に生じる歯系腫瘍(しゅよう)の一つで、エナメル質を形成する組織によく似た構造をもっているため、このようによばれる。発生部位はおもに下顎骨、とくに智歯(ちし)(親知らず)部に多く、上顎骨には少ない。腫瘍は顎骨内部に発生し、周囲の骨を圧迫しながら発育し、大きくなると顎骨の膨隆がみられるようになり、さらに大きくなると顎骨を突き破り、粘膜を通して腫瘤(しゅりゅう)に触れることができる。この疾患は自覚症状がほとんどないので、大きくなるまで発見されないことが多い。通常、良性腫瘍として扱われているが、組織に迷入しながら発育するため、腫瘍摘出後、再発することがある。再発を繰り返すと、ときには悪性化し転移を生じる。治療としては、腫瘍摘出術が施されるが、再発のおそれがある場合には、腫瘍を含めた顎骨切除を行うことがある。

[土谷尚之]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「エナメル上皮腫」の意味・わかりやすい解説

エナメル上皮腫
エナメルじょうひしゅ
ameloblastoma

顎骨,ことに下顎骨の大臼歯部に生じる良性腫瘍で,思春期前後に発生することが多い。顕微鏡で見ると,その構造が歯の発生過程におけるエナメル器に似ているので,歯原性腫瘍として分類される。増大するにつれて顎骨は膨隆し,頬部や口腔内がふくれてくる。腫瘍内部に退行変性による多数の嚢胞を生じる場合が多く,X線による診断の決め手とされる。腫瘍の発育速度は緩慢であるが,骨髄腔内に侵入増殖しているので,摘出後再発することもまれではなく,顎骨部分切除術を行う場合もある。きわめてまれであるが,悪性腫瘍に変化することがある。

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