エプタメロン(読み)えぷためろん(その他表記)Heptaméron

日本大百科全書(ニッポニカ) 「エプタメロン」の意味・わかりやすい解説

エプタメロン
えぷためろん
Heptaméron

フランスの女流作家マルグリット・ド・ナバール短編連作集。1559年没後刊。10人の男女が毎日一つずつ実話を披露し、一つ聞き終わると各人が感想を述べ意見を戦わせるという構成は、『デカメロン』に想を得たと考えられるが、艶笑(えんしょう)文学的な色と欲とを主たるテーマとしながら、同工異曲中世文学にみられない恋愛感情の分析に立ち入り、作者自身のプラトニズム的恋愛観の投影と相まって、独自の近代性を獲得している。現存総数72編。表題編者がつけたもので「七日物語」の意。

二宮 敬]

『沢木譲次訳『エプタメロン』(1953・河出書房)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「エプタメロン」の意味・わかりやすい解説

エプタメロン
Heptaméron

フランスのナバール王妃マルグリット・ダングレーム (マルグリット・ド・ナバール) の物語集。「七日物語」。 1558年刊。作者自身フランス語訳を手がけたボッカチオの『デカメロン』に構成様式を借り 72の短編を収める。作者の死後刊行者によってこの題名がつけられた。愛欲貞潔葛藤題材と,「話し手」が物語のあとでかわす感想と活発な会話が特徴で,16世紀のこの種の作品のなかで特異な位置を占めている。

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世界大百科事典(旧版)内のエプタメロンの言及

【デカメロン】より

… この《デカメロン》は,手書きとして,イタリア中にひろがり,フランコ・サッケッティ,ロル・ジョバンニ・フィオレンティーノ,マスッチョ・サレルニターノ,マッテオ・バンデロのようなルネサンス短編小説作家に引き継がれたが,16世紀には,教会や聖職者の神聖を冒瀆(ぼうとく)する不敬の書としてローマ教皇庁の禁書目録に加えられた。というものの,写本のままこの小説集がヨーロッパ世界にひろがって愛読された結果,イギリスではチョーサーの《カンタベリー物語》,フランスではナバール王妃マルグリットの《エプタメロン》などが生まれ,近代文学とつながっていった。 日本では明治時代に尾崎紅葉がこの著の一編を翻案して《鷹料理》を著したほか,二,三の翻案が見られたが,肝心の艶笑談は紹介されたこともなかった。…

【マルグリット・ド・ナバール】より

…多忙な公務の余暇に宗教的想念に満ちた抒情詩や宗教劇・俗劇を残したが,いずれも真の愛の探究や愛の渇望,あるいは形式化した信仰の風刺をテーマとする。代表作とされる《エプタメロンHeptaméron》(1559)もまた,《デカメロン》に枠組みを借り艶笑文学的題材を扱いながら,人間的愛憎の諸相に対する鋭い観察と,〈愛とは何か〉という一貫した問いかけによって,近代心理小説への道を開いている。【二宮 敬】。…

※「エプタメロン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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