日本大百科全書(ニッポニカ)「カボチャ」の解説
カボチャ
かぼちゃ / 南瓜
[学] Cucurbita
ウリ科(APG分類:ウリ科)の一年生つる草。カボチャ属の野生種は新大陸のみに分布し、その多くはメキシコおよび中央アメリカで、11種に及ぶ。栽培種5種のうちニホンカボチャ、クリカボチャ、ペポカボチャは世界で広く栽培されている。このほか、唯一の多年生種であるフィチフォリアC. ficifolia Boucheがキュウリ栽培の台木として利用される。英名は主として利用法の違いによるもので、植物学上の種とはかならずしも対応しない。完熟果をパイに利用するものをパンプキンpumpkinといい、飼料用の品種もある。未熟果を料理用にするものをサマースクワッシュsummer squashという。完熟果を料理用に使うものをウインタースクワッシュwinter squash、クッショウcushow(C. mixtaについた名)、マローmarrow(C. pepo, C. maximaについた名)といい、これにも飼料用がある。以下によく栽培される4種を記す。
ニホンカボチャC. moschata Duch.は一般にカボチャと称され、トウナスともいう。つるは太く、地面をはい、粗い毛があり、稜(りょう)または溝がある。花は濃黄色、雄花と雌花があり、夏の早朝に開く。葉は掌状に浅く5裂し、葉脈に沿って白斑(はくはん)があるものが多い。果柄は木質化して5~8稜があり、果実への付け根が開いていわゆる「座」になるのが特徴である。日本への渡来はカボチャの仲間のうちでもっとも古く、16世紀中ごろポルトガル船によってもたらされた。江戸後期の作物栽培や育種を記した『艸木(そうもく)六部耕種法』(1832)に、「南瓜は最初東印度亜陳坡塞(ひがしいんどあかんぽちあ)国に生じたものであるから『かんぽちゃ』ともいう。このものがわが国に渡来したのは西瓜(すいか)が渡来するよりも100年ほど前、天文(てんぶん)年間(1532~1555)のことで、西洋人が船で豊後(ぶんご)の国にやってきて、国主大友氏に種子を献じた」とある。ニホンカボチャの品種は多く、1921年(大正10)の農事試験場報告には143品種があげられている。これらは品種群として菊座(きくざ)、三毛門(みけかど)、居留木橋(いるきばし)、見付(みつけ)、西京(さいきょう)などに分類される。西京(鹿ヶ谷(ししがたに))は京都産、晩生(おくて)の大果でひょうたん形、茶褐色で白粉をふく。果肉は柿色。白菊座は東京産の古い品種で、果実は中形。Yokohama gourdという名前で欧米に紹介されている。
クリカボチャC. maxima Duch.はセイヨウカボチャともいう。茎の断面は円く、葉は切れ込みが浅く、淡緑色で白斑がない。果柄は円筒状で条線があり、ニホンカボチャと違って成熟しても柔らかい。果実はおもに大形で表面が滑らか。果肉はやや粉質。渡来は1863年(文久3)アメリカから。冷涼地の栽培に適し、北海道、東北地方、長野県などに多い。現代の食の嗜好(しこう)にはニホンカボチャよりクリカボチャが適するので、ニホンカボチャの栽培は減り、クリカボチャのほうが増えている。品種群にはハッバード、デリシャス、ターバン、マンモス、芳香青皮甘栗(東京早生(わせ))などがある。
ペポカボチャC. pepo L.は茎が短く、つるにならないものもある。葉は切れ込みが深く、緑色で白斑はない。品種によって果実の形はさまざま。茎にも果柄にも5稜がある。冷涼地での栽培に適するが、日本での栽培は少ない。品種は、ソウメンカボチャ系、ベジタブル・マロー系、ポンキンに大別される。果実の色と形のおもしろさから装飾用にされる品種もある。
ミクスタC. mixta Pang.は、従来ニホンカボチャのなかに含めて分類されていたものであるが、果柄が果実につく部分は座をつくらず、肥大してコルク化し、いぼ状になるので別種とされた。ニホンカボチャに類似するが、両種間の交雑は困難である。
以上の4種のほかに近年では、クリカボチャとニホンカボチャの一代雑種も栽培されており、代表品種に新土佐がある。
早春、苗床で苗を育て、霜が降りなくなってから本畑に定植し、つるをはわせる。
[星川清親 2020年2月17日]
食品・利用
ニホンカボチャは、熟果を煮物、汁の実にする。貯蔵がきき、冬至に食べる風習がある。これは、昔は冬至のころ、野菜がいちばん少なくなるときであったので、健康維持に役だつ有色野菜として、貯蔵のきくカボチャが利用されたのであろう。未熟果は漬物にする。なまの果実100グラム中に、タンパク質1.3グラム、脂質0.1グラム、糖質7.9グラムのほか、カロチン620マイクログラムを含む有色野菜で、ビタミンA効力は340IUである。第二次世界大戦後の食糧不足時代には主食の代用にされた。種子はタンパク質、脂肪を多く含み、煎(い)って間食用のナッツとされる。
クリカボチャの果肉はやや粉質で甘味が多く、煮物、てんぷら、みそ汁の実にする。なまの果実100グラム中、タンパク質1.7グラム、脂質0.2グラム、糖質17.5グラム、カロチン850マイクログラムを含み、ビタミンA効力は470IUである。若い葉も食べられる。また海外では花も食用とされ、市場で売られている。おもな品種はクリカボチャ、芳香青皮、ハッバードなど。
ペポカボチャではソウメンカボチャ(キンシウリ、アダコ瓜(うり)、金冬瓜(きんとうがん))が古くから栽培されており、黄色の中形果で、果実を輪切りにしてゆでてから果肉をほぐすと、そうめんのようになり、これを三杯酢などにすると酒の肴(さかな)に適する。ベジタブル・マロー系は、花が咲いて約1週間目の若果を蒸したりゆでたりするほかフライにし、また肉詰めにして天火で焼いて食べる。
カボチャといえば、アメリカの感謝祭につくるハローウィンパンプキンパイのお化けの面が有名である。パンプキンパイにはクリカボチャとポンキンの系統が使われる。くりぬいてお化けの面をつくるカボチャは、ポンキンの飼料用の品種で、果実は大きく、10キログラムにもなる。ただし繊維が多くて人間の食用には適さないが、貯蔵性があり冬の間の家畜飼料として重要である。
カボチャを多量に食べると、黄色の色素が体内にたまって、白目の部分などに現れることがあるが、健康上の心配はない。
[星川清親 2020年2月17日]
文化史
カボチャ類のもっとも古い記録はペポカボチャで、メキシコのタマウリパスの紀元前7000~前5500年の地層からは種子と果皮の一部が出土している。ペポカボチャは考古学的資料からはメキシコとアメリカ西部に限定され、逆にクリカボチャはアンデスの高原地帯しか知られていない。ニホンカボチャはペルーのワカ・プリエタの前4000~前3000年、ついでメキシコのタマウリパスの前1440~前440年の地層から発掘され、有史以前に南北アメリカに広がっていたことが知られる。新大陸の発見後、16世紀前半に世界に伝播(でんぱ)され、日本にもいくつかの経路で渡来したことが異名からわかる。九州の方言ボーブラはポルトガル語のアボーボラに、ナンキン(南京)、トウナス(唐茄子)、カボチャ(カンボジア)はそれぞれ地名に由来する。
[湯浅浩史 2020年2月17日]
ニホンカボチャ(菊座)
ニホンカボチャ(黒皮)
ニホンカボチャ(西京〈鹿ヶ谷〉)
クリカボチャ(えびす)
クリカボチャ(赤皮栗)
クリカボチャ(打木赤皮甘栗カボチャ)
クリカボチャ(ターバンスクワッシュ)
ペポカボチャ(錦甘露)
ペポカボチャ(サマースクワッシュ)
ペポカボチャ(ソウメンカボチャ)
ペポカボチャ(おもちゃカボチャ)
カボチャのおもな品種〔標本画〕
カボチャの発祥地と伝播経路
カボチャの雄花
カボチャの子房
カボチャの果実
カボチャの種子