日本大百科全書(ニッポニカ) 「ポルトガル語」の意味・わかりやすい解説
ポルトガル語
ぽるとがるご
ロマンス諸語の一つ。ポルトガル、ブラジルのほか、アフリカのアンゴラ、モザンビーク、ギニア・ビサウ、サントメ・プリンシペ、カーボベルデの公用語。歴史的にいえば、イベリア半島の北西部、つまり現在のスペインのガリシア地方とポルトガル北部において、俗ラテン語を母として9世紀中葉までには誕生していたと考えられるガリシア語―ポルトガル語(galego-português)が、「国土回復運動」の進展に伴って南下し、ポルトガル中央部・南部のことば――いうまでもなく俗ラテン語を母とすることばであるが、その実体はほとんど不明――を吸収しながら、12、3世紀ごろ共通ポルトガル語として成立して現代に至ったことばである。ポルトガル王国の成立に伴い、ガリシア地方とポルトガル北部が政治的に分離したこともあって、14世紀中葉以降、それまでのガリシア語―ポルトガル語はガリシア語とポルトガル語に分かれた。ガリシア語―ポルトガル語の時代にあっては、この言語はイベリア半島の大半における文学言語、とくに韻文のための言語として大きな権威をもっていた。カスティーリャ王国のアルフォンソ10世賢王による「聖母マリア讃歌(さんか)」もこの言語で書かれている。14世紀後半以降、ガリシア語はスペイン国内の狭いガリシア地方の言語の地位に後退し、少数の人々の日常言語の役割を果たしながら現在に至っている。最近この言語の「再興運動」が積極的に進められている。ポルトガル語のほうは豊かな文学作品を背景としてロマンス諸語のなかの重要な一言語として現在に至っているのであるが、大航海時代にはアフリカ、ブラジルへも「移住」して、それぞれの地に定着した。
ポルトガル語は、全般的にみれば、他のロマンス諸語と大きく異なるところはない。だが音韻面ではフランス語と等しく、口母音のほかに鼻母音を有するが、それだけでなくフランス語に存在しない二重鼻母音を有する点が一つの特徴である。文法面では他のロマンス諸語にみられない「準不定詞」が大きな特徴として指摘できる。これは不定詞的性格と定詞的性格をあわせもつ、言語学的に興味ある言語現象である。
ポルトガルとブラジルのそれぞれで話されているポルトガル語の差異は主として音韻面に認められるが、これは19世紀にポルトガルでかなり大きな音韻変化が生じたためである。したがって、16世紀に日本へきたポルトガル人は、現在のブラジルのポルトガル語に近いことばを話していたと思われる。
[池上岺夫]