キム・ギドク(読み)きむぎどく

日本大百科全書(ニッポニカ) 「キム・ギドク」の意味・わかりやすい解説

キム・ギドク
きむぎどく / 金基徳
(1960―2020)

韓国の映画監督。12月20日、慶尚北道奉化(けいしょうほくどうほうか/キョンサンプクドポンファ)の生まれ。17歳から工場で働きはじめ、20歳で海兵隊に志願し5年間を軍隊で過ごす。1990年に画家を志してパリに渡り、帰国後は脚本家を目ざす。1996年『鰐~ワニ~』で監督デビュー。『魚と寝る女』(2000)、『受取人不明』(2001)がベネチア国際映画祭に出品されて国外での評価が高まる一方、『悪い男』(2001)が韓国国内で記録的なヒットとなり、また『春夏秋冬そして春』(2003)はアメリカで韓国映画最高のヒット作となるなど、名実ともに21世紀の韓国映画を代表する監督となる。身体毀損(きそん)などショッキングな描写を通じて人間存在の深奥に迫る作風は他の追随を許さない。『サマリア』(2004)でベルリン国際映画祭銀熊賞、『うつせみ』(2004)でベネチア国際映画祭銀獅子賞を受賞。トラブルがもとで引退を表明するも、自らの隠遁(いんとん)生活そのものを題材にした『アリラン』(2011)でカンヌ国際映画祭「ある視点」賞を受賞して復活。『嘆きのピエタ』(2012)でベネチア国際映画祭金獅子賞受賞。韓国映画史上初の世界三大映画祭受賞監督となった。

[石坂健治]

資料 監督作品一覧

鰐~ワニ~ Ag-o(1996)
ワイルド・アニマル Yasaeng dongmul bohoguyeog(1997)
リアル・フィクション Shilje sanghwang(2000)
魚と寝る女 Seom(2000)
受取人不明 Suchwiin bulmyeong(2001)
悪い男 Nabbeun namja(2001)
コースト・ガード Hae anseon(2002)
春夏秋冬そして春 Bom yeoreum gaeul gyeoul geurigo bom(2003)
サマリア Samaria(2004)
うつせみ Bin-jip(2004)
弓 Hwal(2005)
絶対の愛 Shi gan(2006)
ブレス Soom(2007)
悲夢 Bi-mong(2008)
アリラン Arirang(2011)
アーメン Amen(2011)
プンサンケ Poong-san-gae(2011)
嘆きのピエタ Pieta(2012)

『チョン・ソンイル編著、秋那・南裕恵共訳『キム・ギドクの世界――野生もしくは贖罪の山羊』(2005・白夜書房)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

現代外国人名録2016 「キム・ギドク」の解説

キム・ギドク
金 基徳
Kim Ki-duk

職業・肩書
映画監督

国籍
韓国

生年月日
1960年12月20日

出身地
慶尚北道奉化

本名
Kim Ki-duk Ⅱ

受賞
モスクワ国際映画祭審査員特別賞〔2000年〕「魚と寝る女」,ブリュッセル国際ファンタスティック映画祭グランプリ〔2001年〕「魚と寝る女」,青龍賞最優秀作品賞(第24回)〔2003年〕「春夏秋冬そして春」,ベルリン国際映画祭銀熊賞(監督賞,第54回)〔2004年〕「サマリア」,ベネチア国際映画祭特別監督賞・国際映画批評家連盟賞(第61回)〔2004年〕「うつせみ」,大鐘賞作品賞(第41回)〔2004年〕「春夏秋冬そして春」,カンヌ国際映画祭ある視点賞(第64回)〔2011年〕「アリラン」,東京フィルメックス・コンペティション部門観客賞(第12回)〔2011年〕「アリラン」,ベネチア国際映画祭金獅子賞(第69回)〔2012年〕「ピエタ」,青龍賞最優秀作品賞(第33回)〔2012年〕「ピエタ」

経歴
韓国海浜隊に所属後、1990年画家を目指し渡仏するが、’94年帰国。シナリオの執筆を始め、公募で受賞したことがきっかけとなり、’96年「CROCODILE(ワニ)」で映画監督デビュー。「WILD ANIMALS(ワイルド・アニマル)」(’97年)、「悪い女 青い門」(’98年)、「魚と寝る女」(2000年)が韓国国内のほか世界各国の映画祭に招待され、絶賛される。「魚と寝る女」はモスクワ国際映画祭審査員特別賞、ブリュッセル国際ファンタスティック映画祭グランプリなどを獲得。2001年「受取人不明」をベネチア国際映画祭コンペに出品。2012年「嘆きのピエタ(原題・「ピエタ」)」でベネチア国際映画祭金獅子賞を受賞。韓国映画が三大映画祭で初めて最高賞を獲得した。他の作品に「REAL FICTION(リアル・フィクション)」(2000年)、「悪い男」(2001年)、「コースト・ガード」(2002年)、「春夏秋冬そして春」(2003年)、「サマリア」「うつせみ」(2004年)、「弓」(2005年)、「絶対の愛」(原題・「時間」,2006年)、「ブレス」(2007年)、「悲夢」(2008年,オダギリジョー主演)、「アリラン」(2011年)、「メビウス」(2013年)などがある。2001年8月来日。

出典 日外アソシエーツ「現代外国人名録2016」現代外国人名録2016について 情報

知恵蔵mini 「キム・ギドク」の解説

キム・ギドク

韓国出身の映画監督。1960年12月20日、東部・慶尚北道の山あいの村に生まれる。家は貧しく、農業高校に進学したあと工場で働き、志願して軍の海兵隊に入隊した。5年勤めたのち、30歳で渡仏。路上画家として3年間暮らす。そこで初めて観た映画に感動し、帰国後に映画の道に進んだ。96年、「鰐(わに)」で監督デビュー。飛び降り自殺した人々の遺品を盗んで生活する暴力的な浮浪者の男を描いた。2004年に「サマリア」でベルリン国際映画祭監督賞、同年に「うつせみ」でベネチア国際映画祭最優秀監督賞を受賞。12年には「嘆きのピエタ」で、韓国作品としては初めてベネチア国際映画祭金獅子賞を受賞した。20年12月11日、旅先のラトビアで、新型コロナウイルス感染症のため59歳で死去した。

(2020-12-17)

出典 朝日新聞出版知恵蔵miniについて 情報

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