日本大百科全書(ニッポニカ) 「キーウィタース」の意味・わかりやすい解説
キーウィタース
きーうぃたーす
civitas ラテン語
市民権、都市、国家などを意味する用語で、古代ローマおよび古ゲルマン、ヨーロッパ中世の時代に用いられた。
[弓削 達]
古代ローマ
政治的に組織された人間集団と、ローマ市民権との2通りの意味をもつ。前者の場合、ローマについてはこの語はめったに用いられず、ローマ国民(populus Romanus)というのが普通である。この語は、一般にローマに従属した外国の国家をいうときに用いられた(civitas peregrina等)。ローマについて「キーウィタース」が用いられる場合(civitas Romana)、一般にそれはローマ市民権を意味した。ローマ市民権とは、選挙権・被選挙権によって国家の政治に参加する権利のほか、市民法上の財産所有権、適法な婚姻の締結権、家父長権、相続権、遺言による取得権、訴訟当事者能力などの、私法上の人格であるための要件を含む。ローマ市民権は、適法なローマ市民間の婚姻からの出生(非適法な婚姻の場合は、出生子の身分は母の身分を継ぐ)、ローマ市民による奴隷解放、個別的・集団的な市民権付与などによって獲得され、死亡、敵への捕虜、出国、刑罰によって喪失される。
[弓削 達]
古ゲルマン時代、中世
古ゲルマン民族の最高の政治単位=国家。古ゲルマン民族は多くの部族に分かれていた。タキトゥス時代に、部族は宗教的統一体ではあったが、政治単位ではなく、政治的にはより小さな単位に分かれていた。この政治単位を、タキトゥスは、キーウィタースとよび、約50のキーウィタースを数えている。キーウィタースはさらにパーグスに分かれる。キーウィタースの大きさは一定ではなく、唯一のパーグスからなるものと、いくつかのパーグスを統合したものとがあった。キーウィタースには、世襲的王をいただくものと、民会で選ばれる首長に統治されるものとがあったが、両者の相違はそれほど大きなものでなく、両者とも政治的に重要な決定は、全員の集まる民会においてなされた。
民族移動期に、ガリアやローマ領ゲルマニアのほとんどの都市は、防備のため城壁によって囲まれていた。中世初期には、これらの都市もキーウィタースとよばれた。この都市的キーウィタースの特徴は、かつてのローマ属州都市としての市民権をもっていたこと、また、その多くが司教座の所在地でもあったことの2点である。
[平城照介]