アメリカの黒人女性シンガー。1970年代に世界的なブームとなったディスコ・ミュージックで長く頂点に立った。ボストンの生まれだが、若いころからヨーロッパで生活し、それが大きなチャンスをつかむきっかけとなった。本名はラドナ・アンドレ・ゲインズLaDonna Andre Gaines。
10代のころから歌と演劇に関心があり、地元ボストンのロック・グループに加わったりしていたが、高校を卒業後プロ・アーティストになるためにニューヨークへ移り住んだ。そこで当時社会的にも話題となっていたロック・ミュージカル『ヘアー』のオーディションに合格する。彼女がキャストの一人となった『ヘアー』はヨーロッパ公演用で、1968年渡欧。ドイツ人を中心とするメンバーと公演を続けながらウィーン・フォルクスオーパー(ウィーン・フォーク・オペラ)などにも参加し、また活動の拠点となっていた旧西ドイツで結婚するなど、サマーは実質的にヨーロッパのシンガーとなった。ちなみに彼女の姓は、夫のヘルムート・ゾンマーHelmut Sommerの姓をSummerと変え、英語読みしたものである。
1974年、彼女に大きな転機が訪れる。それはイタリア人のプロデューサー、ソングライターであるジョルジオ・モロダーGiorgio Moroder(1940― )と知り合い、レコード制作を始めたことだった。「ザ・ホットステージ」「レディ・オブ・ザ・ナイト」は西ヨーロッパ全域でヒットし、そして1975年、ディスコ・ブームの記念碑的一曲「ラブ・トゥ・ラブ・ユー・ベイビー」が発売されるに及んで、彼女のセクシーな歌声は、アメリカや日本にまで知れわたるようになったのである。
サマーとモロダーのコンビは、ヨーロッパ系ディスコ・ミュージックが広大なマーケットをもつことを明らかにした。彼らのサウンドは、複合的なリズム(ポリリズム)を基本とするアメリカ黒人のファンク・ミュージックの流れにはあるものの、多くはエレクトリック・サウンドに移し替えられ、より簡素化されたものであった。「ラブ・トゥ・ラブ・ユー・ベイビー」は1曲が16分48秒もあったが、このような一つの象徴的なリズム・パターンや魅力的なフレーズを延々と繰り返すという手法は、ディスコという特別な空間にぴったり合い熱狂的に受け入れられた。
この時期に、ディスコで流れるダンス・ミュージックには、アメリカ黒人によるファンク系と、サマーらに代表されるヨーロッパ・エレクトリック系との、大きく分けて二つの道筋ができ上がった。ヨーロッパ系ではスウェーデンのアバ、旧西ドイツのボニー・Mがそれにあたる。オーストラリア出身のビージーズも、このような分かりやすいダンス・ビートがどれほどの人気があるかを、身をもって示したグループである。
「ディスコ・クイーン」の称号のもと、サマーは1970年代後半以降立て続けにヒットを放っていった。「トライ・ミー」や、本格的なエレクトリック・ディスコのメジャー・ヒットとして知られる「アイ・フィール・ラブ」、バーブラ・ストライサンドとのデュエット「ノー・モア・ティアーズ」などがその一部である。
1980年代に入り、ディスコ・ブームが去ったあともサマーの人気は続き、モロダーからクインシー・ジョーンズにプロデューサーを変えた1982年のアルバム『ドナ・サマー』も話題を呼んだ。「ディスコのドナ・サマー」という大きなレッテルと関わりなく、その後も彼女は断続的にヒットを飛ばし、1997年に再びモロダーと組んだ「キャリー・オン」は、グラミー賞の「ベスト・ダンス・レコーディング賞」に選ばれている。
[藤田 正]
…ところがイスラム教徒の中にも,もっと積極的に音楽や舞踊そのものを典礼の中にとり入れ,これに陶酔することによってアッラーへの帰一を達成しようと考える一派がある。スーフィーと呼ばれる神秘主義者がそれで,11世紀の神学者ガザーリーの音楽擁護論がその隆盛の誘因となったといわれるが,いわゆるスーフィー教団では修道者(デルウィーシュ)たちが,ジクル(アッラーの名を繰り返し称えること)やサマー(音に聴き入ること)などの儀式において,ひたすら歌い踊ることによって神秘的体験を得て,魂を浄化し,信仰を深める。音楽的見地から重要なスーフィーの伝統として,今日トルコを中心に伝承されているメウレウィー教団の典礼を挙げることができる。…
…後にイスラム神秘主義において,それは一種の称名として,そのような言葉を常にあるいは集団で定期的に一定の所作を伴って繰返し口称し,それによって神を常に念じ,さらに精神の集中によって自己と神との二元的対立を超えた忘我の状態,すなわち神秘的合一体験(ファナーfanā’)に至る方法として実践されるようになる。同様なものとしてサマーsamā‘があるが,ファナーの追求のために歌や音楽を用いるなど逸脱的傾向が強い。【中村 広治郎】。…
…スーフィーたちは修道場で集団生活を行うのであるが,この修道場がリバートribāṭとかハーンカーkhānqāとかザーウィヤzāwiyaと呼ばれているものである。この修道場で神との合一という目標を追求するが,その際に行われる宗教的勤行がジクルとかサマーの名で呼ばれているものである。このようにスーフィーたちが集団生活をするのは,神との合一という究極の目標がスーフィーの個人的努力のみによっては達成されえないと考えられていることによる。…
※「サマー」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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