日本大百科全書(ニッポニカ) 「サーモクロミック材料」の意味・わかりやすい解説
サーモクロミック材料
さーもくろみっくざいりょう
thermochromic materials
加熱または冷却により、物質の色が変化する現象をサーモクロミズム(熱変色性)といい、その性質を示す材料をサーモクロミック材料という。コレステリック液晶は、本来は無色透明の物質であるが層状構造をとりやすく、その層の間隔が温度によって変化する性質がある。層間隔が可視光の波長(200~700ナノメートル)程度になると、干渉などの物理的な相互作用によって着色するサーモクロミズムを示す。温度変化を色の変化で示す室温計、簡易体温計、冷蔵庫用温度計などとして利用されている。このように、色素以外の物質の構造的な変化による色を構造色とよぶことがある。
色素とは、特定波長域の可視光を選択的に吸収または発光することにより色覚をおこさせる物質のことである。サーモクロミズムの性質を示す色素をサーモクロミック色素という。無機系のサーモクロミック色素は高温に耐えるため、モーターやフライパンの過熱を防ぐインジケーターとして実用化されており、示温塗料ともよばれている。感熱色素と類似した分子骨格をもつ有機系色素は、可逆的な色変化をさせることも可能なため、消しゴム状の摩擦剤の発する熱で消色できる筆記具や、ビールやワインの飲みごろを示すラベルなどに利用されている。代表的なサーモクロミック色素としては、ほかに、ビアントロン類、スピロオキサジン類、サリチルデンアニリン類などがある。ビアントロン類は炭素‐炭素二重結合まわりの立体構造の変化、スピロオキサジンはメロシアニン型への異性化に基づく着色である。サリチリデンアニリン類は粉末固体でサーモクロミズムを示す。そのメカニズムは長い間、互変異性(2種の異性体が容易に変化しあう異性現象)に基づくとされていたが、東京大学教授の小川桂一郎(1952― )らの研究により、結晶の色変化の原因には温度変化に伴う蛍光の変化が重要な役割を演じていることが明らかとなった。
[時田澄男]
『飛田満彦著「サーモクロミック色素」(入江正浩監修『機能性色素の最新応用技術』所収・1996・シーエムシー出版)』▽『玉置信之著「コレステリック液晶のサーモクロミズムとフォトクロミズムを利用する記録表示」(『光技術コンタクト』2007年10月号所収・日本オプトメカトロニクス協会)』▽『飯沼芳春著「可逆発色の応用」(中澄博行監修『CMCテクニカルライブラリー281 機能性色素の技術』所収・2008・シーエムシー出版)』▽『原田潤・小川桂一郎著「有機結晶の色変化を理解する――サリチリデンアニリン類のサーモクロミズムの真相」(『現代化学』2009年1月号所収・東京化学同人)』▽『J. Harada, T. Fujiwara, K. OgawaCrucial Role of Fluorescence in the Solid-State Thermochromism of Salicylideneanilines(in “J. Am. Chem. Soc. 129(51)” pp. 16216-16221, 2007, ACS Publications)』