スカンジナビア主義(読み)すかんじなびあしゅぎ(英語表記)skandinavisme

日本大百科全書(ニッポニカ) 「スカンジナビア主義」の意味・わかりやすい解説

スカンジナビア主義
すかんじなびあしゅぎ
skandinavisme

19世紀、北欧諸民族間の連帯を求める時代認識および運動をさす。基本的にはかつての「輝かしき一つなる北欧」への民族ロマンチシズムに由来する。各国のスカンジナビア主義の展開はそれぞれに異なり、いわばそれは時間的同一性を有する同音異義語であって、時代のキーワードとして存在していたといえる。その内容において文化的傾向が強い1830年代までのものを「文学的スカンジナビア主義」とよび、またそのころを揺籃(ようらん)期として育った40年代以降60年代までのものを、政治的統合を目ざす「政治的スカンジナビア主義」とよぶ。

 もっとも積極的であったデンマークでは、自由主義者が、スリースウィ(シュレスウィヒ)公爵領をめぐる対ドイツ闘争の切り札として北欧諸国の支援を求めうる根拠にそれを利用し、またスウェーデンでは王室が、内・外政イニシアティブの強化にそれを利用し、「統一スカンジナビア」の王家になることをもくろんだ。フィンランドでも、スウェーデンを中心とする「北欧連合」にロシア支配から脱する可能性を求めようとして動いた政治組織が少数者ながら存在した。一方ノルウェーでは、知識人らがこの運動に心情的な共感を寄せる程度であった。

 1864年の第二次スリースウィ戦争は、北欧諸国のスカンジナビア主義の最大試金石であった。デンマークは他の北欧諸国の協力を得られず、単独でドイツの前に屈し、北欧統合の可能性はここに消滅した。

[村井誠人]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「スカンジナビア主義」の意味・わかりやすい解説

スカンジナビア主義
スカンジナビアしゅぎ
Scandinavianism

北ヨーロッパ諸国が伝統的に有する相互協力ないし統合志向。アイスランド,スウェーデン,デンマーク,ノルウェーの 4ヵ国はすべてノルド語(→ノルド諸語,北方ゲルマン語)を用い,祖先を共有し,フィンランドもまた歴史上その深い影響を受けている。すでに 14世紀末のカルマル同盟にみられるような統合傾向はあったものの,近代初期には,それぞれが国民国家として発展するための相互確執が強まった。ところが 19世紀になると,北ヨーロッパの知識人はバイキング時代の神話と歴史への回顧を通じて連帯意識をもつようになり,それが政治にも及んで,シュレースウィヒ(→シュレースウィヒホルシュタイン州)をめぐるデンマーク,ドイツ間の 2度にわたる戦争で北欧同盟も考えられていた(→汎スカンジナビア主義)。これは失敗に終わり,以後はそれぞれが自立した国家としてゆるい連帯を組んでいく傾向が生まれた。第1次世界大戦における共通の中立政策や,第2次世界大戦後またも企画された中立同盟構想が失敗したのちに非軍事面の統合を目指す北欧会議が生まれた事実がこれを示している。

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知恵蔵 「スカンジナビア主義」の解説

スカンジナビア主義(北欧)

スカンジナビア諸国とされるのは、アイスランド、デンマーク、フィンランド、ノルウェー、スウェーデンの5カ国で、いずれもノルド語を公用語としている。かつてこの5カ国間には紛争が絶えなかったが、19世紀には同一民族(ノルド人)としての連帯意識がスカンジナビア主義として自覚されるようになった。国際政治の場でも、第1次大戦では一致して局外中立を貫き、第2次大戦後は、安全保障政策(NATO加盟問題)やEC加盟問題で立場が分かれつつも(中立政策をとるスウェーデンと、ソ連〈現ロシア〉との共存を最優先にするフィンランドが非加盟)、北欧会議などを通じて非軍事的立場での協力関係を深めてきた。1954年から開かれている北欧会議では、国会議員、政府閣僚が年に1回会合をもち、社会、環境、交通、法律、文化などについて話し合う。この会議により、54年には北欧労働市場が発足し、域内の労働者の自由移動が認められた。58年からは北欧人以外の外国人であっても国境でパスポートを示す必要がなくなった。91年の不況と冷戦の終結による中立政策の基盤崩壊の中で、スウェーデンとフィンランドが経済・政治的な孤立を避ける方向に転換し(中立政策の見直し)、95年1月にEU加盟を果たした。

(渡邊啓貴 駐仏日本大使館公使 / 2007年)

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