ドル危機(読み)ドルきき(英語表記)dollar crisis

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ドル危機」の意味・わかりやすい解説

ドル危機
ドルきき
dollar crisis

第2次世界大戦後の国際通貨制度であった金為替本位制度の基軸通貨ドルが,その役割を果すことが困難になった状況をいう。アメリカは 1950年代の中頃にいたって,国際収支の黒字幅が減少,そして赤字に転落した。これによって発生した対外債務は赤字の増大とともに累増し,金準備比率を低下させ,金・ドル交換の確保も困難になった。ドルの国際的な信認は低下しはじめ,その帰結としてドルの金への激しい逃避が激発した。ドルは国際通貨としての機能を果せなくなっただけではなく,国際通貨制度の円滑な機能を失うという重大な事態に直面した。アメリカはいわゆるドル防衛のためのさまざまな政策,すなわち国際収支改善のための輸出促進,海外援助,海外投資の規制などを発動し,また諸国との間のスワップ協定締結,ローザ・ボンドの発行,国際通貨基金 IMFにドルによる返済を依頼するなど防衛協力を得た。しかし国際収支改善の最も有力な手段とみられた国内インフレーション対策には強力な政策をとらず,国際収支改善は失敗に終った。そのため対外債務の累積はやまず,ついに金準備額をはるかに上回るにいたり,ニクソン政権は 71年8月 15日金・ドル交換停止を断行した。ドルは金の裏づけを喪失し,なお事実上の国際通貨の地位を維持したが,その安定をアメリカの国際収支,国内の総需給状態に依存するようなまったく不安定な地位に転落した。

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旺文社世界史事典 三訂版 「ドル危機」の解説

ドル危機
ドルきき

ドル−ショック

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世界大百科事典(旧版)内のドル危機の言及

【SDR】より

…SDRの創設は1960年代初めに生じた国際通貨危機,具体的にはドルの危機と密接に関連する。ここで注意すべきは,ドル危機の認識についてアメリカと欧州諸国とで大きく異なっていたことである。アメリカはドルに対する信認の低下を認めず,むしろ国際通貨問題の中心は国際流動性の供給方法の改善にあると主張した。…

※「ドル危機」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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