国際間の決済に広く用いられる通貨のことで、基軸通貨ともいう。国際通貨制度は国内通貨制度に比べて発達が遅れている。一国のなかでは、中央銀行が発行する銀行券や市中銀行の預金通貨は国の信用保証によって通用力をもっているが、国際間では、通貨について権限をもつ世界政府はなく世界中央銀行もない。したがって、それ自体価値を有する金属貨幣(金貨や銀貨)が長い間使用されてきた。制度としては国際金本位制や銀本位制がその典型であった。
しかし、ある時代には、諸外国に対して政治経済上絶対優位をもった国家または都市の貨幣が国際通貨として流通したことがある。古くはローマ帝国のコンスタンティヌス大帝時代のソリドゥス金貨、1251年にイタリアのフィレンツェでつくられたフロリン金貨などがそれであった。
近代になって、世界貿易の決済の大部分がイギリスの政治経済上の勢力を背景としてロンドンで行われるようになると、英ポンドが典型的な国際通貨となり、第一次世界大戦前には金とともに国際間の決済に使用された。しかしイギリスの地位が低下するにつれて英ポンドの地位もまた沈下し、1931年の金兌換(だかん)停止後はポンド圏の域内に限定されるようになり、そして第二次世界大戦後は為替(かわせ)管理が厳しかったのでしだいに国際通貨の資格を失っていった。
第二次世界大戦後、英ポンドにかわって登場したのが米ドルである。米ドルはかつての金本位時代のように完全な金交換性は保証されていなかったが、部分的には外国の公的保有ドルに対しては金1オンス=35ドルで金との交換を約束していた。そしてなによりもアメリカ政府は、世界の大半を占める金準備をもち、しかも背後には巨大な生産力をもつアメリカ経済が控えていたから、諸外国では金よりもむしろ米ドルを選好した。ところが1960年代になり、アメリカ経済の地位が西欧諸国や日本の追い上げによって相対的に低下したのを背景に、国際収支が悪化し、そのためにドル不安がしばしば発生した。そして懸命のドル防衛も功を奏することなく、71年にはついに金との交換性を全面的に停止した。
以上のように、強大国通貨であるポンドやドルが金を補完するものとして国際通貨の役割を果たしてきたが、それも万全ではなくなったので、第三の通貨として国際通貨基金(IMF)にSDR(特別引出権)が誕生した。しかしSDRは使途に制限があったり返済義務があるなどで、まだ完全な通貨にはなっていない。現在のところ国際通貨としては、米ドル、1999年1月に発足したEU(ヨーロッパ連合)の単一通貨ユーロのほか英ポンド、日本円などが使われており、複数通貨体制となっている。
[土屋六郎]
『滝沢健三著『国際通貨入門』(1990・有斐閣)』▽『原信著『国際金融概論』(1992・有斐閣)』
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…国際通貨制度において基軸となっている通貨をいう。基軸通貨はつぎのような機能を果たしている。…
…ドイツをはじめ他の諸国もイギリスにならい,本位貨幣として金貨を鋳造し,発行した。金本位制度を各国が採用し,国際金本位制度が成立したことにより,金はついに法制的に世界貨幣(国際通貨)となった。このようにして金は世界の通貨制度のうえで中心的な地位を確立するにいたったわけである。…
…これら短期債務とは,連邦準備銀行券(日本銀行券に相当),財務省証券,アメリカ国内の民間銀行における預金等のことである。ドルはアメリカ国内における国内通貨であり,また同時に世界において現在最も重要な国際通貨である。このほか国際通貨として重要な役割を果たしているものにユーロカレンシーとくにユーロダラーがあるが,ユーロダラーはアメリカの外に所在する銀行に預けられたドル(ドル預金)のことである。…
※「国際通貨」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新
10/1 共同通信ニュース用語解説を追加
9/20 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新