化学辞典 第2版 「ヘテロポリ酸」の解説
ヘテロポリ酸
ヘテロポリサン
heteropolyacid
ポリ酸のうち,構成オキソ酸の中心原子種が2種類またはそれ以上のものをいう.従来は,中心原子が金属で,そのオキソ酸(この中心原子をポリ原子または骨格原子という)数分子がつくるかご状構造の中心に,ほかの金属または非金属原子(これをヘテロ原子という)が存在する形式のものとされていた.現在のIUPACの定義では,単に中心原子2種類もしくはそれ以上となっているので,たとえば,H3[O3S-O-PO3]も含まれる.ポリ原子は,V,Mo,Wなどの場合が多く,ヘテロ原子は,P,As,Si,S,Iなどの非金属元素,Al,Gaなどの典型金属,Cr,Fe,Co,Ni,Cuなどの遷移金属のように,多種類の元素が入る.酸,塩ともに多くは安定で,構造はX線回折法で決定されたものが多い.典型的な構造は次の3種類であるが,これ以外にも,たとえば構造の一部が欠けたり,結合方向がかわったりした変種などもある.【Ⅰ】ケギン構造:ヘテロ原子(PⅤ,SiⅣなど)の正四面体型のMO4を中心に,まわりをポリ原子(Mo,Wなど)の正八面体型M′ O6オキソ酸12個が縮合してできたかご状の[M′12O36]がとり囲んでいる.外側のかごはM′ O6 3個が縮合してできたM′ M3O13を4個つないだ形で,中心のMO4とともに全体で正四面体型対称をとっている.たとえば,[PMo12O40]3-,[SiW12O40]4- など.【Ⅱ】ドーソン(Dawson)構造:ケギン構造2個から,それぞれM′3O13を1個とり除き,縮合した形式の構造である(図(a)).たとえば,[P2W18O62]6- など.【Ⅲ】アンダーソン(Anderson)構造:ヘテロ原子による正四面体型のMO6を,6個のポリ原子による正四面体型のM′ O6が平面縮合形をつくってとり囲んだ形の構造である(図(b)).たとえば,[TeMo6O24]6- など.Mo,Wなどのヘテロポリ酸とその塩の多くは,固体でも水溶液中でも安定で,耐熱性のものもある.塩には安定な水和物をつくるものも多い.ケギン構造のヘテロポリ酸のなかには,水溶液中でほとんど完全解離する強酸の性質をもつものや,強い酸化力をもつものもある.したがって,水溶性のものを水溶液系で均一触媒,熱安定性の大きい固体を不均一触媒として,酸化触媒,酸触媒などに工業的に利用されている.たとえば,液相均一系で,ホスホモリブデンバナジン酸塩はアルケンのワッカー過程酸化やシクロアルケンのアセトキシ化に使われる.また,固体触媒ホスホモリブデン酸塩はメタクロレインからメタクリル酸の合成,メタンの酸化に,ホスホタングステン酸はプロペン,ブテンの水和によるプロパノール,ブタノールの製造に用いられている.そのほか数多くの合成反応に利用されている.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報