改訂新版 世界大百科事典 「ベトナム陶磁器」の意味・わかりやすい解説
ベトナム陶磁器 (ベトナムとうじき)
日本で〈安南焼〉あるいは〈安南陶磁器〉と呼ばれる。ベトナムは東南アジアの中で最も中国の陶磁器の影響を強く受け,陶磁器生産も非常にさかんに行われた。ハノイ南方のタンホアで発見された紀元前後の陶磁器が,ベトナムで最初に釉薬をかけて焼かれたものである。壺,奩(れん),高坏など中国漢代の青銅器に酷似した灰釉陶で,中国産かベトナム産か判断の困難なものが多い。3世紀から10世紀ころのベトナムの陶磁器の発達は明らかではない。1009年ベトナムにリ(李)王朝が成立し,再び陶磁器生産は活発となる。このころの陶磁器には青磁,白磁,黒釉など中国の竜泉窯,福建同安窯,景徳鎮窯の仿(ぼう)製品と考えられる一群と,黄釉鉄絵というベトナム独自の器形,文様をそなえた一群の陶磁器がある。
1225年にチャン(陳)氏王朝がリ王朝にとってかわると,いっそう中国の仿製陶磁器生産に力を入れた。中国では元代にコバルトで絵付けを行った染付(青花)が生まれたが,ベトナムでもいちはやく染付を生産している。ただベトナムの染付は素地に白化粧を施しており,高台内には鉄銹(さび)がベッタリと塗られている。赤絵,赤絵金彩なども15世紀になって生まれ,中国写しから,南方的な色彩と文様をもった〈安南陶〉へと変貌していく。日本にも江戸時代にベトナム陶磁器がさかんに輸入され,水指,花生,茶碗,香合などの茶器として愛好された。〈柳営御物(りゆうえいごもつ)〉の染付竜文瓶(銘〈白衣〉),徳川黎明会所蔵の紅安南茶碗,根津美術館所蔵の蜻蛉絵茶碗などは,日本に伝えられたものとして知られている。
執筆者:弓場 紀知
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報