白色磁胎に透明釉(とうめいゆう)をかけた磁器の総称。中国で発明されたが、その母体は青磁で、青磁の素地(きじ)と釉(うわぐすり)の中から鉄分を除去して白磁がつくられた。実際にはカオリナイトAl2O3・2SiO2・2H2Oとよばれる組織をもつ、ケイ酸とアルミニウムを主成分とする白色の粘土で素地をつくり、鉄分を含まぬ植物灰とカオリナイトから精製した透明釉をかけ、1250℃以上の還元炎で焼き上げる。
[矢部良明]
北斉(ほくせい)時代の562年(太寧2)に没した庫狄廻洛(こてきかいらく)の墓(山西省寿陽県)の出土品に、低火度の鉛釉(呈色剤を入れないと透明体である)を白素地に施したものがみえる。ほどなく高火度釉のくふうがなされたらしく、575年(武平6)に没した范粋の墓(河南省安陽県)から白磁壺(つぼ)と碗(わん)が出土していることから、560~570年代が白磁の濫觴(らんしょう)期といえよう。6世紀以前には高火度釉陶磁の伝統がまったくなかった華北の地で、国運の隆盛を背景に白磁が創造されたと推察できる。したがって、続く隋(ずい)・唐・宋(そう)時代は華北が白磁の主産地となり、唐代の邢州窯(けいしゅうよう)、唐・宋時代の定窯(ていよう)などの名窯が輩出した。とくに北宋時代の定窯では、白磁の絶頂期を示す優作が焼かれ、牙白(がはく)色の高貴絶妙な名品に白磁の完成をみたのである。
一方、江南で白磁が焼かれ始めたのは五代のころで、北宋初頭の1000年ごろ、江西省の景徳鎮窯(けいとくちんよう)で釉薬に青みのある青白磁、いわゆる影青(いんちん)が盛んに焼かれて一派を形成し、福建、広東(カントン)の白磁窯も台頭して一様に青白磁を焼き、東アフリカにまでも輸出された。吉州窯、潮州窯、徳化窯なども宋代の大きな白磁窯である。元代には景徳鎮窯で宮中の御用品としての白磁が焼かれ、枢府(すうふ)窯の名で知られる。元代後半、白磁の素地にコバルト顔料(がんりょう)で文様を加えた染付(そめつけ)(青花(せいか))が始まり、銅で釉裏紅(ゆうりこう)を開発し、さらに明(みん)代になると上絵付(うわえつけ)を施した赤絵(五彩)も発達して、景徳鎮の成長は目覚ましいものがあった。白磁はこれら絵付磁器の素地として使われるようになり、主流の座は降りたが、宮廷御器を焼く景徳鎮窯では、明代・清(しん)代とも白磁は祭器の基本として重視されていた。とくに明前期の官窯白磁は、白玉のような滋潤な釉調の名磁である。清代では景徳鎮とともに各地の窯で量産が行われ、白磁は一般の日用品として広く普及した。
[矢部良明]
白磁づくりは早くから手がけられ、9~10世紀ごろに、現在の仁川(じんせん)広域市において、陶胎で、白みの勝った焼物が焼かれ、高麗(こうらい)時代の12世紀には全羅北道扶安(ふあん)郡柳川里では美しい白磁がわずかながら試焼され、一部には赤土の象眼(ぞうがん)文様をもつ象眼白磁も認められる。これらが世に高麗白磁として珍重されるものである。1392年に建国された李(り)王朝は明朝を宗主国と仰いだため、明官窯白磁の流れをくみ、京畿道広州郡の官窯では純良な白磁が15世紀以来20世紀に至るまで焼造された。とくに後期の18世紀ごろ分院窯で焼かれた白磁は、清楚(せいそ)な美の頂点ともいえるものである。
[矢部良明]
16世紀末の文禄(ぶんろく)・慶長(けいちょう)の役のおり、北九州にきた朝鮮の陶工がその技術を伝えたといわれ、1616年(元和2)ごろ、有田の泉山(いずみやま)(佐賀県)に白磁鉱が発見されて李参平(りさんぺい)が焼造したとされる。当時すでに世界は絵付白磁の全盛期で、純然たる白磁にはほとんどみるべきものがなく、すべては絵付磁器のための素地としたもので、有田でもまもなく白磁・染付の量産が始まり、また赤絵も制作されるようになった。赤絵の素地としての柿右衛門(かきえもん)の濁し手(で)の白磁は名高い。また古九谷(こくたに)、姫谷(ひめたに)などのほか、平戸や薩摩(さつま)などでも白磁が焼かれ、幕末の文化・文政年間(1804~30)には日本各地でつくられ、日用品として普及したが、明治になって京都の3代目清風(せいふう)与平が白磁の美を追求して一つの頂点を樹立した。
[矢部良明]
ベトナムでは14世紀に白磁がつくられたが素地は半磁胎で、以後も染付に押され、白化粧地白磁が若干焼かれているが主流にはなっていない。
結局、西アジアでは白磁は創成できず、日本の輸出伊万里焼(いまりやき)の刺激を受けて1710年代にドイツのマイセン窯で初めて焼造され、ヨーロッパ全土に白磁窯がおこった。ボーン・チャイナとよばれる軟質の白磁もつくられたが、美術性では東洋に及ばず、主流はやはり絵付磁器用の白磁胎として展開した。
[矢部良明]
『『世界陶磁全集12 宋』『世界陶磁全集19 李朝』(1977、1980・小学館)』
灰白もしくは白色の胎に透明釉ないしは乳白色,白色の釉薬をかけて高火度で焼き上げたやきもの。鉄分を少量含んだ胎で焼いた半磁器のものをいわゆる白磁と区別して白瓷と記すことがある。
後漢時代に華南の長沙漢墓から灰白釉陶がみられ,同じような灰白釉陶がベトナムのタンホアからも出土している。本格的な白磁焼造は,北斉後半の6世紀ごろ,河北,山西,河南で始まった。鉄分の少ない胎に乳白色の失透釉をかけたもので,唐代にはこれに緑釉,藍釉をかけた三彩陶が河南省で焼造された。唐代後期,河北省臨城県の邢窯で硬質の白磁が焼造され,華南の越州窯青磁とならんで高い評価を受けたことが《茶経》などに記されている。五代・北宋時代は邢窯にかわって河北省曲陽県の定窯が白磁焼造の中心となり,薄胎で象牙のように白い器の白磁がつくられ,金・元代の名窯として活動をつづけた。明代には定窯は衰退し,山西省の霍県(かくけん)窯などでわずかに仿定器の白磁がつくられたにすぎない。
一方,華南では江西省景徳鎮窯が五代,北宋の初めに白磁を焼造していたが,北宋中期には,青みをおびた青白釉の磁器を完成し,輸出陶器として国外に大量に輸出された。青白磁,インチン(影青)などと呼ばれるものであるが,胎の中に含まれた微量の鉄分が,還元炎で焼成されたために青みを帯びたのであり,厳密には白磁と呼ぶべき磁器である。景徳鎮窯をはじめとして福建省の徳化窯などが華南白磁生産の中心となった。元時代には景徳鎮窯では〈枢府窯〉と呼ばれる青みのない純白の白磁と,青白釉の白磁の2種があり,前者は明時代初めに脱胎磁といわれる紙のごとく薄い白磁となる。後者の青白釉白磁は青花(染付)となり,元・明・清時代の景徳鎮窯磁器の主流となる。徳化窯も元・明・清代に景徳鎮とともに白磁を焼造し,日常の什器をはじめ,観音像,羅漢像などがヨーロッパに輸出された。
高麗時代に白磁が焼造されているが,李朝には青磁にかわって白磁が磁器焼造の中心となり(李朝白磁),広州などがすぐれた白磁を焼造した。白磁は宮廷の祭器,什器としてのみ使用され,司膳院で生産がきびしく監督されたが,広く一般にも愛好され,その堂々とした量感と奔放な姿は,中国白磁の端正な姿とは異なった味わいのあるものである。
17世紀初め,李参平によって有田の泉山で白磁鉱が発見され,白磁焼造が始まったといわれる。17世紀半ばには中国磁器にかわって伊万里がヨーロッパを中心とした輸出磁器の中心となり,白磁染付や色絵磁器が発達する。加賀国では17世紀後半~18世紀初めに白磁に上絵付を行った〈古九谷〉(九谷焼)が生産され,このほか備後の姫谷(ひめたに),薩摩などでも白磁染付,色絵白磁を生産した。
執筆者:弓場 紀知
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中国および周辺アジア諸国で発達した白色の素地に透明な釉(ゆう)をかけ,高火度で焼いた磁器。魏晋以降各地に発達し,宋の定窯(ていよう),宋,明,清の景徳鎮の影青(インチン)は特に名高い。
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…第1は無釉の椀・皿類や一部の貯蔵容器を焼いた山茶碗(やまぢやわん)窯で,東海地方一円に広がっている。椀・皿類は前代の灰釉陶器の系譜を引くものがしだいに影をひそめ,11世紀以降の輸入中国製白磁を写したものが主体となり,新器種としての四耳壺が焼かれるようになった。第2は壺,甕,擂鉢の3種を主として焼いた窯で,常滑(とこなめ),渥美(あつみ)(ともに愛知県),湖西(静岡県)などの東海諸窯と,その影響下に成立した北陸の越前窯,加賀窯から東北南部一帯にかけての多数の窯業地,さらに信楽,丹波など西日本の一部に広がった窯業地がある。…
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[陶磁器]
李朝時代の陶磁は高麗時代のそれとは大きな違いを見せている。高麗ではもっぱら青磁が好まれて特異な発達を示したが,李朝初期に高麗末期の象嵌(ぞうがん)青磁が引き続き焼成されているものの,やがて面目を一新して,白磁一辺倒となったのである。作風に多様さが見られるのも特徴で,その製作期を前・中・後期の3期に大別するが,絵画における区分とは若干異なっている。…
※「白磁」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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