染付(読み)そめつけ

精選版 日本国語大辞典 「染付」の意味・読み・例文・類語

そめ‐つけ【染付】

  1. 〘 名詞 〙
  2. そめつけること。また、その色や模様、布地など。藍色を用いることが多かった。
    1. [初出の実例]「唐綾(からあや)のそめつけなる二衣(ぎぬ)を纒頭(てむとう)にしてき」(出典:梁塵秘抄口伝集(12C後)一〇)
  3. 呉須(ごす)というコバルト顔料で藍色の模様を描き、その上に無色の釉(うわぐすり)をかけて焼いた陶磁器。中国で青花といわれるもの。そめつけやき。
    1. [初出の実例]「又大学方へ茶垸一〈染付〉送之」(出典:康富記‐嘉吉二年(1442)八月一日)

そめ‐つき【染付】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 染物の染まりぐあい。
  3. 思いそめること。恋しはじめること。
    1. [初出の実例]「あづまにふかくそめつきの、龍田やおきつしら浪の、太こもつれずけふも又、通ひ木辻の吉田屋の」(出典:浄瑠璃・淀鯉出世滝徳(1709頃)下)

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改訂新版 世界大百科事典 「染付」の意味・わかりやすい解説

染付 (そめつけ)

白色の胎土で成形した素地に,酸化コバルト呉須)の顔料で絵付し,その上にガラス質の透明釉(釉(うわぐすり))をかけ,1300~1350℃前後の火度で焼きあげた陶磁器の日本での呼称。磁器に用いられる場合が多く,文様は上釉の下で藍青色に発色し,染物の藍染(あいぞめ)に色彩効果が似ているため,江戸時代初期ごろからこう呼ばれた。中国では青花(青い文様の意),また釉裏青と呼ばれる。

 染付は中国で元代に大成され,以後中国陶磁の主要な陶技として発展し,安南(ベトナム),朝鮮,日本など東アジアやヨーロッパの陶芸にも大きな影響を与えた。中国におけるコバルト顔料の使用例は唐三彩や唐代長沙窯など軟陶にみられるが,釉裏(下絵)に用い,高火度で焼成したものは元代14世紀に入ってから盛行した。現在知られる最も早い紀年銘作品は,イギリスのデビッド財団にある至正11年(1351)の竜文象耳大花瓶(りゆうもんぞうみみだいかへい)1対である。しかし近年中国の浙江省竜泉県金沙塔(977・太平興国2建立)や同紹興県環翠塔(1265・咸淳1建立)の塔基壇などから青花磁片が採集された報告があり,中国における青花磁器の初源は宋代にさかのぼる可能性を示している。元代の青花はペルシア方面から輸入された蘇麻離青(スマリチン)または蘇勃泥青(スポニチン)と呼ぶ青料を用い,美しい青藍色で複雑な竜,波濤,牡丹唐草,蓮池魚藻文などを描き力強い器形とともに創草期の迫力があふれている。しかしこの青料は明初後半15世紀中ごろに輸入が絶え,これに代わって中国内地で発見された無名異とか画焼青と呼ぶ青料(土青)を加えるようになったため,青花の色調は変わった。明中期の初頭16世紀はじめには再び西方より青料がもたらされるようになったが,これがイスラム教圏からもたらされたため,中国で回青(かいせい)と呼んでいる。

 明代に入ると江西省景徳鎮に御器厰が設けられ,明初の永楽~宣徳期(1403-35)には技法もいっそう洗練され様式化も進み,そのころから〈大明宣徳年製〉の官窯銘も用いられた。成化期(1465-87)には器胎も薄く精巧で青花も淡く繊細で気品に満ちた作品が作られ,正徳期(1506-21)にはイスラム世界との交流も盛んでアラビア文字文のある製品などがあり,嘉靖期(1522-66)には社会経済の発達とともに生産量も膨大化し,海外にも盛んに輸出された。嘉靖の官窯では新たに輸入された回青が用いられ,明るい菫青色(きんせいしよく)(バイオレット・ブルー)を呈している。しかし万暦期(1573-1619)には政治の乱れとともに濫作が行われ,質的にも低下し,絵付も土青をいっそう混ぜた暗くにごったものが用いられた。

 朝鮮半島では,記録によると1464年(世祖9)に青花(華)磁器の焼造が行われたと伝える。初期には明初の青花の影響下に始められたためそれと見まがうものがあり,17~18世紀前半以降には,秋草文に代表される李朝独特の青花磁器がソウル近郊広州の金沙里窯,分院里窯を中心に焼造された。また安南でも元末・明初の青花磁器の影響をうけ,15世紀初めには始められたが,17世紀ころに作られた安南絞手(しぼりで),蜻蛉手(とんぼで)と呼ばれる染付は,日本の茶人のあいだでことに珍重された。日本で染付が作られるようになるのは,朝鮮半島からの帰化陶工李参平によって有田泉山で磁石が発見され,1616年(元和2)有田上白川(かみしらかわ)天狗谷窯で焼成されたのがはじめとされてきた。しかし近年天狗谷古窯址の発掘調査によって,有田における磁器焼成は慶長年間(1596-1615)から始められていたものと推定されている。また初期の作品も器形・文様とも李朝風なものとされてきたが,器形は古唐津風なものを残しながら,当時日本に多量に舶載されていた中国青花磁器の影響が著しいことも指摘されている。

 17世紀後半には急激に発展し,伊万里染付として海外にも輸出され,また延宝~元禄期(1673-1704)には鍋島藩窯で精巧な鍋島染付が製作された。江戸時代後期には京焼でも染付磁器が作られ,次いで瀬戸でも加藤民吉が文化年間(1804-18),肥前磁器の法を導入して染付磁器をはじめ,急速に発展して伊万里と比肩できるほどになった。これら伊万里,瀬戸,京都の染付磁器の影響は,各地の窯業地に及び,以後染付磁器は日本人の用いる陶磁器の代表的なものとなっている。またヨーロッパでも染付風の陶器は中国,日本の影響をうけて17世紀ころから始められ,オランダデルフトの染付陶はオランダ染付として日本にももたらされた。しかし本格的な磁器焼成は18世紀後半に入ってからであった。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「染付」の意味・わかりやすい解説

染付
そめつけ

陶磁器の装飾技法の一つで、その製品をもさす。白地に藍青(らんせい)色の絵文様のあるもので、中国では青花(チンホワ)(または釉裏青(ゆりせい))とよび、朝鮮半島では青華白磁、英語ではblue and whiteまたはunderglazed blueと称する。白色胎の器面に筆で呉須(ごす)・茶碗(ちゃわん)薬(以上日本)、あるいは回々(かいかい)青(中国・朝鮮半島)とよばれる酸化コバルトを主成分とする顔料で文様を描き、その上に透明釉(ゆう)をかけ、強力な還元炎(1300~1350℃)で焼成した加飾陶磁器である。

 世界で初めて染付を発明したのは中国、ペルシアのいずれかとみられている。ペルシアでは9世紀に錫(すず)白釉の釉下にコバルトで文様を表す染付陶器が試みられたことは確実であり、中国では10世紀には存在していたようだが、ペルシアに先行すると断定することはできない。ペルシアではその後文様の一部に染付を用いることはあっても、大きな発展がみられなかったのに対し、中国では14世紀の元(げん)代後期に画期的なくふうが江南の景徳鎮(けいとくちん)窯(江西省)で進められ、純良の白磁胎に清冽(せいれつ)な青の文様がくっきりと浮かび上がる染付磁器が開発された。俗に「元の染付」とよばれるものがそれで、西アジア伝来の釉薬(蘇麻離青(スマリチン)など)を使って細密画風に竜、蓮池(れんち)藻魚、波濤(はとう)などの文様を大胆かつ細心に濃藍で表す魅力は、とくに外国の貴紳に注目された。東洋はもちろん、西は東アフリカに至る世界各地に輸出されて大好評を博した。ベトナムではすぐその直模が行われ、日本では瀬戸窯が、朝鮮半島では高麗青磁(こうらいせいじ)の窯が、それぞれ従来の技法で形や文様をまねたものをつくりだし、ペルシアのメシェド窯やトルコのイズニーク窯では、16世紀になってから景徳鎮窯の染付磁器を盛んに模倣している。

 しかし元代につくられた景徳鎮窯の染付磁器は、当の中国では文人や宮中で高い評価を得ることもなく、明(みん)代の15世紀初頭に初めて官窯が手を染めてから様式化も進み、宮廷御器として認知された。以後いよいよ洗練されて精妙さと卓抜な発色を得た染付磁器は、名実ともに中国陶磁の代表的存在となり、明清(みんしん)陶磁の基幹となった。

 朝鮮半島で染付磁器を焼造する気運がおこるのは、李朝(りちょう)の15世紀中ごろである。すでに白磁づくりに習熟していた官窯の広州窯(京畿(けいき)道広州郡)などでは、16世紀初頭までには確かに宮廷画師か絵付専門の絵師が染付磁器の絵付に携わるようになっているが、当初は顔料の回々青の入手に困難を極めたようである。そして17世紀には、秋草文などに代表される李朝独特の清雅な絵模様の染付様式が完成した。

 日本では17世紀の初めごろ、それまで輸入されていた中国の染付磁器に刺激されて伊万里(いまり)焼(佐賀県有田町)が初めて染付磁器を手がけた。この初期の染付は「初期伊万里」とよばれ、その雄渾(ゆうこん)で愛憐(あいれん)な絵模様の評価は高い。1659年(万治2)にヨーロッパ輸出が開始されると、陶技は一段と洗練され、和様と中国様の染付様式も確立され、ついで鍋島(なべしま)藩窯、京都、瀬戸などでも製作が始まり、江戸後期には全国各地で焼かれるようになった。

 ヨーロッパでは西アジアの染付陶器の技法を受けて、イタリアのマジョリカ焼やオランダのデルフト窯において陶胎染付が16~17世紀にくふうされ、18世紀後半からは本格的な磁器焼成が始められて近代陶芸の一つの柱となった。

[矢部良明]

『藤岡了一・長谷部楽爾編『世界陶磁全集14 明』(1976・小学館)』『矢部良明著『名宝日本の美術26 染付と色絵磁器』(1980・小学館)』

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百科事典マイペディア 「染付」の意味・わかりやすい解説

染付【そめつけ】

中国では青花。白色の素地に酸化コバルトを顔料として文様を描き,ガラス質の透明な(うわぐすり)をかけて焼いた陶磁器。一般には磁器の製品をさす。藍青(らんせい)色や青紫色を呈し,染織の藍(あい)染に色彩が似ているのでこの名称が起こったといわれる。中国では元末〜明初のもの,朝鮮では李朝が名高く,日本では初期伊万里に始まり,瀬戸,京都など各地で焼かれるようになった。
→関連項目安南焼伊万里焼景徳鎮窯呉須呉須手古染付酒井田柿右衛門祥瑞瀬戸焼姫谷焼釉裏紅

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「染付」の意味・わかりやすい解説

染付
そめつけ

陶磁用語。白地の素地に酸化コバルト (→呉須 ) を用いて下絵付けを施し,さらにガラス質の透明釉をかけて焼き,文様を藍色に発色させた陶磁器の日本における呼称。中国では青花 (せいか) または釉裏青という。元代から始り,主要な陶磁技法として発展し,朝鮮,日本,東洋諸国,ヨーロッパの陶芸にも大きな影響を与えた。日本では江戸時代初期に有田で焼かれてから盛んになった。

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「染付」の解説

染付(そめつけ)

藍(あい)色顔料の下絵に,ガラス質の透明な釉薬(うわぐすり)をかけて焼き上げた磁器。中国では青花(せいか),日本では染付という。宋末から元朝に始まる。コバルト顔料(回青(かいせい))がイスラーム世界からもたらされるなどの改良により,明朝宣徳年間(1425~35年)に景徳鎮において完成した。のちに回青の輸入が滞ると,中国産の黒褐色顔料(本呉須(ごす))を用いたため,呉須と呼ばれた。

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旺文社世界史事典 三訂版 「染付」の解説

染付
そめつけ

白磁に酸化コバルトの顔料で絵付けし,ガラス質の釉 (うわぐすり) をかけ,高温で焼いた陶磁器
染付は日本での呼称で,中国では青花(青い文様の意)と呼ばれた。中国の元代に大成され,朝鮮・日本・ヴェトナムの陶芸に大きな影響を与えた。江西省の景徳鎮産のものが有名。

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世界大百科事典(旧版)内の染付の言及

【陶磁器】より

…その契機は佐賀県有田における磁器の発生と,京都における色絵陶器(京焼)の焼造であって,江戸時代の窯業は瀬戸・美濃,有田,京都の3地域を中軸に展開した。1616年(元和2),李参平によって有田の白川天狗谷窯で,日本で初めての染付磁器の焼造が開始された。当初は李朝風の素朴な染付磁器であったが,寛永末年から正保年間(1640年代)にかけて,明末の染付,赤絵の影響を受け,酒井田柿右衛門によって赤絵の焼造が始められると,有田の窯業は急速な成長をみた。…

【ベトナム陶磁器】より

… 1225年にチャン(陳)氏王朝がリ王朝にとってかわると,いっそう中国の仿製陶磁器生産に力を入れた。中国では元代にコバルトで絵付けを行った染付(青花)が生まれたが,ベトナムでもいちはやく染付を生産している。ただベトナムの染付は素地に白化粧を施しており,高台内には鉄銹(さび)がベッタリと塗られている。…

【李朝白磁】より

…白磁は,白の清潔感を愛する李朝人に最も好まれた。青花白磁つまり染付が出現した後も,《光海君日記》にみえるように,17世紀の前半ごろ,一時は染付が王世子用であるのに対して,白磁が王の専用品として規定されたことさえあった。白磁【西谷 正】。…

【李朝美術】より

…前期を太祖元年から仁祖末年(1392‐1649),中期を孝宗元年から英祖27年(1650‐1751),後期を英祖28年から高宗20年(1752‐1883)とする説が有力である。前期には良質な白磁が生まれ,青花(染付)も現れ,粉青沙器(ふんせいしやき)(三島手(みしまで))が盛行した時期であるが,この期を代表するものは高麗象嵌青磁の流れをくむ粉青沙器である。これは白土で器面を化粧する技法と施文法に特徴があり,日本では三島手とよばれ,彫三島(ほりみしま),刷毛(はけ)目,彫刷毛目,絵刷毛目,粉引(こひき)などと分類されている。…

※「染付」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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