香を入れる蓋(ふた)付きの器。茶器のなかではもっとも小器ながら、きわめて多くの愛玩(あいがん)的資質を備え、古来茶人たちに珍重されてきた。普通は炭手前(すみでまえ)の際、客の鑑賞に供されるのであるが、炭手前が略される茶会の場合などは、香合だけを待合(まちあい)や席中に飾ることもある。換言すれば、あらかじめ香合を飾っておくことによって炭手前を省略することがある。その場合、香合は古袱紗(こぶくさ)や紙釜敷(かみかましき)などにのせて飾ることが習いとされている。香合は炉用、風炉(ふろ)用のほか、炉・風炉兼用があり、材質も陶磁器をはじめ漆器、木地(きじ)、貝、金属、竹のほかに、自然の果実を加工したものなど実に多岐にわたる。またその産地から大きく和物と唐物(からもの)に分けられる。そして用法上、炉用は練香(ねりこう)を用いるため陶磁器が、風炉用は香木を用いるため木地、漆器が、また炉・風炉兼用は貝、金属、象牙(ぞうげ)などがそれぞれ使われる。炉用の香合は、和物、唐物いずれも数量膨大であり、その形だけをみても幾百種にも上るため、これを整理選択した『形物(かたもの)香合一覧』が、1855年(安政2)に刊行された。いわゆる形物香合番付であるが、わけても賞賛された形物香合に交趾(こうち)、染付(そめつけ)、青磁などがあり、和物にも楽焼(らくやき)、仁清(にんせい)、志野(しの)、織部(おりべ)、伊賀、信楽(しがらき)などの優れたものがある。風炉用は唐物に堆朱(ついしゅ)、堆黒(ついこく)、存星(ぞんせい)、倶利(ぐり)、螺鈿(らでん)などが、また和物には蒔絵(まきえ)、鎌倉彫、一閑張(いっかんばり)などが好まれた。そして兼用香合としては、貝合(かいあわせ)などの蛤(はまぐり)や檜扇貝(ひおうぎがい)が、金属では砂張(さはり)や毛織(モール)、七宝(しっぽう)が好んで使われた。
[筒井紘一]
2種の香を比べ、その匂(にお)いのよさを競う遊び。香は本来仏供養に用いられるものであったが、平安時代には、その匂いを楽しむ風が貴族社会に広まり、数種の香料を調合した薫物(たきもの)を合わせて優劣を競う薫物合(あわせ)が物合の一つとして行われるようになった。薫物は一種の練香(ねりこう)で、梅花・荷葉(かよう)などの名がつけられており、平安時代の貴紳らが処方の伝授者に擬せられているが、人ごとに調合法には多少の差がある。他の物合同様に判者が置かれ、単なる匂いの優劣のみならず、その銘の文学的興趣も判定の対象となった。室町時代に至り、薫物のかわりに沈香(じんこう)などの香木が用いられるようになったが、これを名香合と称する。
[杉本一樹]
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香を入れる蓋付きの器。献香,聞香,茶の湯の三つの場合に分けられるが,本来香炉に添っていたものである。香合のもっとも早い例は正倉院に伝来する塔鋺といわれ,その後中国製の堆朱,存星など漆物を中心に大小の合子(ごうす)が使われている。日本の漆物としては鎌倉彫や蒔絵がある。茶の湯の香合の場合は,大別すると漆物と陶磁器で,ほかに木地物,金属,貝などが用いられ,献香用,聞香用に比べると種類が多く,造形的にも変化にとんでいる。漆物には中国製と日本製があり,陶磁器としては中国製の交趾(こうち),染付,祥瑞(しよんずい),赤絵など,日本製は志野,織部のほか,桃山から江戸時代にかけて日本各地の窯で焼かれ,また素人の手造りのものもある。
執筆者:赤沼 多佳
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