改訂新版 世界大百科事典 の解説
ホモ・ハイデルベルゲンシス
Homo heidelbergensis
中期更新世の旧人の一種。アフリカのホモ・エレクトス(ホモ・エルガスター)から進化した人類種で,ホモ・サピエンスの祖先になった種と考えられている。60万~20万年前のヨーロッパとアフリカに住んでいた。なお,生存期間の後半になって東アジアにまで拡大したかどうか,つまり中国の大茘(ダーリー)や金牛山から出土する旧人段階の化石と同種かどうか議論が続いている。模式標本は,1907年にドイツのハイデルベルク近郊にあるマウエルMauerで発見された下顎骨(Mauer 1)。他に,ザンビアのカブウェKabwe(頭骨と骨盤など),エチオピアのボドBodo(頭骨),ギリシャのペトラロナPetralona(頭骨),スペインのアタプエルカAtapuerca(全身骨多数),フランスのアラゴArago(頭骨と四肢骨)などで保存の良い化石が発見されている。イギリスのボックスグローブBoxgroveでは脛骨が発見されていて,身長180cm,体重90kgほどと推定されている。スペインのアタプエルカで大量に見つかった化石やフランスのアラゴで見つかった頭骨と骨盤などは,およそ30万年前であり,ホモ・ハイデルベルゲンシスか初期のホモ・ネアンデルタレンシスかどうか議論がある。ザンビアのカブウェにあるブロークン・ヒル鉱山で発見された化石は,旧国名ローデシアにちなんでHomo rhodesiensis(通称ローデシア人)とも呼ばれたことがあり,エチオピアのボドとともに,ヨーロッパのホモ・ハイデルベルゲンシスとは別種とみなす意見もある。
ハイデルベルゲンシスは,体が大きく頑丈で,骨盤は極めて幅広く筋肉付着部が発達していた。頭骨も大きく,眼窩上隆起が発達しているので,一見するとホモ・エレクトスに似ている。しかし,頭蓋腔容積(脳容積より10%ほど大きい)は1200~1400mlもあり,脳頭蓋は丸みを帯び,頭骨底の前半部は前後に短縮し,ホモ・サピエンスと似ている部分がある。共伴する石器はアシュール型のハンド・アックスであり,動物の皮や肉を切り裂いたり,骨を割ったり,棒の先を尖らせたりするための万能の利器だったといわれる。約40万年前のドイツのシェーニンゲンSchöningen遺跡から,2.5メートルもある細い木の槍が見つかっているので,各人が数本ずつの槍を持ち,集団で大型動物に向かって槍を投げるような狩りをしたと想像されている。
→旧人 →ハイデルベルク人 →ホモ・エレクトス →ホモ・ネアンデルタレンシス
執筆者:馬場 悠男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報