日本大百科全書(ニッポニカ) 「ムシュク」の意味・わかりやすい解説
ムシュク
むしゅく
Adolf Muschg
(1934― )
スイスの作家。現代文学の理解者として高名なワルター・ムシュクの異母弟。東京の国際基督(キリスト)教大学の外国語講師として2年間日本に滞在し、その体験を踏まえて書いた長編小説『兎(うさぎ)の夏』(1965)で文壇にデビューした。ドイツのゲッティンゲン、スイスのジュネーブ、アメリカのコーネルの諸大学を経て、1970年以来チューリヒのスイス連邦工科大学のドイツ文学教授。かたわら、フリッシュとデュレンマットに次ぐ第二次世界大戦後最大のスイス人作家として活躍が目覚ましく、欧米各国に翻訳された作品も多い。きわめて繊細な感受性と、巧みな言語表現によって、人間の心理の機微をうがつ。短編集『恋物語』(1972)、評伝『ゴットフリート・ケラー』(1977)、長編小説『バイユーン』(1980)、評論『精神治療法としての文学?』(1981)など話題作が多い。中世騎士物語中の大作『パルチバル(聖杯伝説)』に現代的な解釈をほどこした長編小説『赤騎士』(1993)によって1994年ビュヒナー賞を受賞。スイス連邦立工科大学の教授職を定年退職したあともスイス文壇の第一線で健筆をふるっている。
[宮下啓三]
『宮下啓三訳『兎の夏』(1972・新潮社)』▽『谷口廣治監訳『照らし出された戦後ドイツ――ゲオルグ・ビューヒナー賞記念講演集(1951―1999)』(2000・人文書院)』