日本大百科全書(ニッポニカ) 「アイロニー」の意味・わかりやすい解説
アイロニー
あいろにー
irony
日本語では「皮肉」と訳され、遠回しの非難、当てこすりの意味で使われるが、近代西洋語では、自分の意図する意味と反対の意味をもつ表現(たとえば「君はたいしたものだ」)によって、意図する意味(この場合は相手に対する軽蔑(けいべつ))を表す修辞技法を一般にさす。類比関係に基づかないという点で比喩(ひゆ)とは区別され、また肯定、否定を逆にするのでなく、反対概念を意味する点で修辞疑問と異なっている。元来は古典ギリシア語で「意図的に装われた無知」を意味するeirōneiāに共通の語源をもち、プラトンの『対話篇(へん)』中のソクラテスの態度をさすことが多かった。F・v・シュレーゲルは逆に、文学作品において作者の意図が達せられないことを表すために、ロマン的イロニー(アイロニー)という概念を提出した。演劇では、観客にはストーリーの結末がわかっていても、登場人物にはそれがわからないこと(たとえば『オイディプス』におけるように)をさし、転じて一般に意図せざる結末(「運命のいたずら」ironie du sort)を意味することがある。
[土屋 俊]