フリッシュ(読み)ふりっしゅ(英語表記)Ragnar Anton Kittil Frisch

日本大百科全書(ニッポニカ) 「フリッシュ」の意味・わかりやすい解説

フリッシュ(地学)
ふりっしゅ
flysch

ヨーロッパアルプス北縁部に分布する中生代白亜紀後期から新生代古第三紀漸新世にかけての厚い海成層で、おもに級化層理のよく発達するリズミカルな砂岩泥岩互層からなる。礫(れき)岩などの粗粒堆積(たいせき)物も挟まれ、互層中の砂岩、泥岩とも石灰質であることが多い。生痕(せいこん)化石を除くと一般に化石の産出はまれである。

 フリッシュ造山運動の初期から主要な時期に、隆起部から大量の砕屑物(さいせつぶつ)が混濁流(乱泥流)などによりもたらされて、堆積盆(堆積盆地)を埋め立てたものとされているが、造山運動後期の堆積物とされる礫岩優勢のモラッセに移り変わることもあり、モラッセとの区別はかならずしも容易ではない。アルプス以外の造山帯でも、このような岩相を示す地層はフリッシュ相または単にフリッシュとよばれ、とくに厚い混濁流堆積物からなる地層はそうよばれることが多いが、あいまいに用いられていることも多い。

[村田明広]


フリッシュ(Karl von Frisch)
ふりっしゅ
Karl von Frisch
(1886―1982)

ウィーン生まれのオーストリアの動物学者。ウィーン大学で医学を、ミュンヘン大学では動物学を学び、魚、とくにハヤのすばやい体色変化が、外界の刺激を視覚ではなく、頭部の半透明の皮膚を通じて感じることにより行われることをみいだし、学位を得た(1910)。いくつかの大学を経て、1925年ミュンヘン大学教授、第二次世界大戦後はグラーツ大学からふたたびミュンヘン大学に戻った。

 1912年、ミツバチが色彩感覚(色覚)をもつことを証明した研究以後、ミツバチに関する多方面の研究を行った。ミツバチが偏光を感じる能力を発見し、さらに1919年に彼をもっとも有名にさせたミツバチダンスを発見し、驚くべきミツバチのコミュニケーションを明らかにした。ミツバチが学習する性質を利用した簡単な野外実験で、感覚生理学または行動生理学的な諸問題を謎(なぞ)解きする彼の研究方法は、エソロジーの創設者の一人であるティンバーゲンの研究方法にも影響を与えた。1973年、ローレンツ、ティンバーゲンとともにエソロジーの優れた研究業績でノーベル医学生理学賞を受賞した。彼らはエソロジーを創設したが、フリッシュは自らについて行動学者ということばは使わなかった。

[川道武男]

『フリッシュ著、内田享訳『蜜蜂の不思議――その言葉と感覚』(1953・法政大学出版局)』『フリッシュ著、伊藤智夫訳『ミツバチを追って――ある生物学者の回想』(1969/新装版・1978・法政大学出版局)』


フリッシュ(Max Frisch)
ふりっしゅ
Max Frisch
(1911―1991)

スイスの小説家、劇作家デュレンマットと並んで現代スイス文学の代表者として名高い。劇作家としてはブレヒトから劇作術と道義的問題とを学びとって『そらまた歌っている』(1946)、『支那(しな)の長城』(1947)、『アンドラ』(1961)などで社会における個人の倫理的責任を問う問題劇を書き、『伝記』(1967)では一転して人間個人の生きざまの可能性とアイデンティティの模索を主題として話題を投げた。アイデンティティの問題は小説家としての彼がつねに追求してきたことであって、『シュティラー』(1954。邦訳名『ぼくではない』)、『ホモ・ファーベル』(1957。邦訳名『アテネに死す』)、『わが名はガンテンバイン』(1964)などで一貫して現代人の自己疎外と自己探求の努力をテーマとした。後の『モントーク』(1975)、『完新世』(1979)などでは狭義の小説の型を脱したスタイルで同じテーマが扱われている。もう一つ見逃せないのは『日記1946―1949』(1950)と『日記1966―1971』(1972)で、現代批判に満ちた省察を多く含んでいる。その批判精神は母国スイスの民主主義の病弊にも向けられて、『学校向けのウィルヘルム・テル』(1971)は中立と平和の神話に安住するスイス人に衝撃を与えた。

[宮下啓三]

『中野孝次訳『ぼくではない』(1959・新潮社)』『中野孝次訳『アテネに死す』(1963・白水社)』『加藤衛訳『戦争が終った時』(『現代世界戯曲選集2 ドイツ篇』所収・1953・白水社)』『加藤衛訳『ドン・ファン』(『現代世界戯曲選集10 ドイツ篇2』所収・1954・白水社)』


フリッシュ(Ragnar Anton Kittil Frisch)
ふりっしゅ
Ragnar Anton Kittil Frisch
(1895―1973)

ノルウェーの経済学者。オスロに生まれる。オスロ大学で学び、1931~71年オスロ大学経済学教授。同大学経済学研究所長を兼任したほか、エール大学(1930)、パリ大学(1933)客員教授なども歴任した。31年に創設された国際的な計量経済学会の創設者の1人で、33年創刊の同学会機関誌『エコノメトリカ』Econometricaの初代主任編集者(~1954)。今日では多くの人々に耳慣れたものになっている「計量経済学」の原名「エコノメトリックス」econometricsもフリッシュの造語である。フリッシュの学問上の主要業績としては、〔1〕比較的初期の、効用理論とその測定、および価格指数に関する研究、〔2〕マクロ・ダイナミックス・モデルの最初の定式化者の1人、〔3〕計量経済学の方法論上の諸問題の開拓、〔4〕第二次世界大戦後の、自国やインド、国際連合などの経済開発モデルや政策決定モデルの開発、などがあげられる。55年に第1回シュンペーター賞を、69年に第1回ノーベル経済学賞を受賞した。

[早坂 忠]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「フリッシュ」の意味・わかりやすい解説

フリッシュ
Frisch, Max

[生]1911.5.15. チューリヒ
[没]1991.4.4. チューリヒ
スイスの小説家,劇作家。チューリヒ大学でドイツ文学を学び,ジャーナリストとしてバルカン諸国やトルコを旅行。 1936年チューリヒ工科大学で建築を学び,40年建築事務所を開く。ヨーロッパ諸国,アメリカ,メキシコなどを旅行したのち,作家生活に入る。小説では好んで日記体を用い,アイデンティティーの問題を追求した。戯曲にはブレヒトの影響が強く,デュレンマットと並ぶ戦後劇壇の代表者とされる。小説『シュティラー』 Stiller (1954) ,『ホモ・ファーベル』 Homo fabel (57) ,『わが名はガンテンバイン』 Mein Name sei Gantenbein (64) ,戯曲『そこで彼らは再び歌う』 Nun singen sie wieder (45) ,『支那の長城』 Die chinesische Mauer (47) ,『ドン・フアン』 Don Juan (53) ,『ビーダーマンと放火犯たち』 Biedermann und die Brandstifter (58) ,『アンドラ』 Andorra (61) のほか,『日記』 Tagebuch1946-49,66-71 (50,72) がある。

フリッシュ
Frisch, Karl von

[生]1886.11.20. ウィーン
[没]1982.6.12. ミュンヘン
オーストリアの動物心理学者。 1910年ミュンヘン大学で学位取得。ロストク (1921) ,ブレスラウ (23) ,ミュンヘン (25) ,グラーツ (46) 各大学教授,のちミュンヘンに居住。「ミツバチのダンス」を発見したことで有名。ミツバチは奇妙なダンスによって情報伝達を行うが,その信号は同族と異族間で異なり,ダンスの仕方で,蜜源を見つけたことを知らせ,蜜源の場所や質についての情報などを伝達していることを明らかにした。 K.ローレンツ,N.ティンベルヘン両動物行動学者とともに 73年ノーベル生理学・医学賞を受賞した。主著『ミツバチの生活』 Aus dem Leben der Bienen (6版,59) ,『ミツバチの踊り言語と方向定位』 Die Tanzsprache und Orientiering der Bienen (65) 。

フリッシュ
Frisch, Ragnar Anton Kittil

[生]1895.3.3. オスロ
[没]1973.1.31. オスロ
ノルウェーの経済学者,統計学者。 1931年オスロ大学教授。 30年計量経済学会の創設に参加し,その機関紙"Econometrica"の編集長 (1933~35) 。国連経済雇用委員会第1回会議議長。計量経済学の発展に大きく貢献。経済過程分析のための動態的モデルの開発と応用により,69年オランダの J.ティンベルヘンとともに最初のノーベル経済学賞を受賞した。主著『経済動学における波及問題と衝撃問題』 Propagation Problems and Impulse Problems in Dynamic Economics (39) ,『完全回帰体系による統計的合成分析』 Statistical Confluence Analysis by Means of Complete Regression System (34) 。

フリッシュ
flysch

造山運動の過程で,地向斜から褶曲山脈が形成されだすと周辺の地向斜に特有の堆積物ができる。一般に級化成層をもった砂岩,頁岩の単調な互層や,チャート,化石に乏しい石灰岩などから成る。山脈の上昇が激しいと礫岩も形成される。ヨーロッパのアルプスなどに代表例がある。 (→モラッセ )  

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