ヨーロッパ・アルプス北縁部に分布する中生代白亜紀後期から新生代古第三紀漸新世にかけての厚い海成層で、おもに級化層理のよく発達するリズミカルな砂岩泥岩互層からなる。礫(れき)岩などの粗粒堆積(たいせき)物も挟まれ、互層中の砂岩、泥岩とも石灰質であることが多い。生痕(せいこん)化石を除くと一般に化石の産出はまれである。
フリッシュは造山運動の初期から主要な時期に、隆起部から大量の砕屑物(さいせつぶつ)が混濁流(乱泥流)などによりもたらされて、堆積盆(堆積盆地)を埋め立てたものとされているが、造山運動後期の堆積物とされる礫岩優勢のモラッセに移り変わることもあり、モラッセとの区別はかならずしも容易ではない。アルプス以外の造山帯でも、このような岩相を示す地層はフリッシュ相または単にフリッシュとよばれ、とくに厚い混濁流堆積物からなる地層はそうよばれることが多いが、あいまいに用いられていることも多い。
[村田明広]
ウィーン生まれのオーストリアの動物学者。ウィーン大学で医学を、ミュンヘン大学では動物学を学び、魚、とくにハヤのすばやい体色変化が、外界の刺激を視覚ではなく、頭部の半透明の皮膚を通じて感じることにより行われることをみいだし、学位を得た(1910)。いくつかの大学を経て、1925年ミュンヘン大学教授、第二次世界大戦後はグラーツ大学からふたたびミュンヘン大学に戻った。
1912年、ミツバチが色彩感覚(色覚)をもつことを証明した研究以後、ミツバチに関する多方面の研究を行った。ミツバチが偏光を感じる能力を発見し、さらに1919年に彼をもっとも有名にさせたミツバチダンスを発見し、驚くべきミツバチのコミュニケーションを明らかにした。ミツバチが学習する性質を利用した簡単な野外実験で、感覚生理学または行動生理学的な諸問題を謎(なぞ)解きする彼の研究方法は、エソロジーの創設者の一人であるティンバーゲンの研究方法にも影響を与えた。1973年、ローレンツ、ティンバーゲンとともにエソロジーの優れた研究業績でノーベル医学生理学賞を受賞した。彼らはエソロジーを創設したが、フリッシュは自らについて行動学者ということばは使わなかった。
[川道武男]
『フリッシュ著、内田享訳『蜜蜂の不思議――その言葉と感覚』(1953・法政大学出版局)』▽『フリッシュ著、伊藤智夫訳『ミツバチを追って――ある生物学者の回想』(1969/新装版・1978・法政大学出版局)』
スイスの小説家、劇作家。デュレンマットと並んで現代スイス文学の代表者として名高い。劇作家としてはブレヒトから劇作術と道義的問題とを学びとって『そらまた歌っている』(1946)、『支那(しな)の長城』(1947)、『アンドラ』(1961)などで社会における個人の倫理的責任を問う問題劇を書き、『伝記』(1967)では一転して人間個人の生きざまの可能性とアイデンティティの模索を主題として話題を投げた。アイデンティティの問題は小説家としての彼がつねに追求してきたことであって、『シュティラー』(1954。邦訳名『ぼくではない』)、『ホモ・ファーベル』(1957。邦訳名『アテネに死す』)、『わが名はガンテンバイン』(1964)などで一貫して現代人の自己疎外と自己探求の努力をテーマとした。後の『モントーク』(1975)、『完新世』(1979)などでは狭義の小説の型を脱したスタイルで同じテーマが扱われている。もう一つ見逃せないのは『日記1946―1949』(1950)と『日記1966―1971』(1972)で、現代批判に満ちた省察を多く含んでいる。その批判精神は母国スイスの民主主義の病弊にも向けられて、『学校向けのウィルヘルム・テル』(1971)は中立と平和の神話に安住するスイス人に衝撃を与えた。
[宮下啓三]
『中野孝次訳『ぼくではない』(1959・新潮社)』▽『中野孝次訳『アテネに死す』(1963・白水社)』▽『加藤衛訳『戦争が終った時』(『現代世界戯曲選集2 ドイツ篇』所収・1953・白水社)』▽『加藤衛訳『ドン・ファン』(『現代世界戯曲選集10 ドイツ篇2』所収・1954・白水社)』
ノルウェーの経済学者。オスロに生まれる。オスロ大学で学び、1931~71年オスロ大学経済学教授。同大学経済学研究所長を兼任したほか、エール大学(1930)、パリ大学(1933)客員教授なども歴任した。31年に創設された国際的な計量経済学会の創設者の1人で、33年創刊の同学会機関誌『エコノメトリカ』Econometricaの初代主任編集者(~1954)。今日では多くの人々に耳慣れたものになっている「計量経済学」の原名「エコノメトリックス」econometricsもフリッシュの造語である。フリッシュの学問上の主要業績としては、〔1〕比較的初期の、効用理論とその測定、および価格指数に関する研究、〔2〕マクロ・ダイナミックス・モデルの最初の定式化者の1人、〔3〕計量経済学の方法論上の諸問題の開拓、〔4〕第二次世界大戦後の、自国やインド、国際連合などの経済開発モデルや政策決定モデルの開発、などがあげられる。55年に第1回シュンペーター賞を、69年に第1回ノーベル経済学賞を受賞した。
[早坂 忠]
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ノルウェーの経済学者。経済学へ数理的・統計的手法を導入した先駆者の一人。オスロ大学卒。同大で博士号を取得。イェール大学を含むいくつかの大学の講師を経てオスロ大学教授(1931-65)。1969年に〈経済過程分析のための動学モデルを開発し応用〉することに貢献したことをたたえられ,オランダのJ.ティンバーゲンとノーベル経済学賞を分けあった。彼の業績は一部しか公刊されていないが,公刊されたものの多くは理論経済学,計量経済学,経済計画の分野の古典となっている。論文《動的経済学における伝播問題と衝撃問題》(1933)では,経済を経済量の時間推移を表す定差=微分方程式の体系として分析し,その後の景気変動論や経済成長論に大きな影響を与えた。また,彼の〈意思決定モデル〉やその他の経済計画モデルは第2次大戦後に広く応用された。彼自身,発展途上国(とくにインドとエジプト)の経済計画のアドバイザーとして活躍したこともある。計量経済学の分野では,方法論をはじめとする先駆的業績を残した。エコノメトリックスeconometrics(計量経済学)という名称は彼の命名によるといわれる。
執筆者:西村 清彦
アルプス地域で白亜紀初期~第三紀漸新世の砂岩・泥岩互層堆積物を指して用いられた語。その後,地向斜-造山運動の概念により,地向斜と呼ばれる沈降帯に厚く堆積した海成砕屑岩(さいせつがん)層を一般的に指すようになった。この砕屑相は砂岩と泥岩がほぼ同じような厚さで交互に繰り返す互層で特徴づけられ,全体の厚さは数千~1万5000mにも達する。互層をなす砂岩層は単層の厚さが横方向にほとんど変化がなく,級化層理を示すとともに,堆積時の水流の作用による堆積構造が発達しており,乱泥流によって堆積したとみられている。九州日南海岸の“鬼の洗濯板”で代表される四万十帯の堆積岩はフリッシュの好例である。フリッシュ相は造山帯を特徴づけているが,現在の海洋底では島弧-海溝海域のように地殻活動が活発な地域(造山帯)のみでなく,大河川が開口した構造的に安定な大陸縁辺海域でも大規模な海底扇状地堆積物としてよく発達している。
執筆者:岡田 博有
スイスの作家。チューリヒに生まれ,建築家として社会人生活のスタートをきったが,アメリカとメキシコへの旅行(1951-52)をきっかけに独立の作家となった。現代における罪,権力,正義といったテーマがさまざまな様式によってとりあげられている。たとえば,戯曲《アンドーラ》(1961)では迫害されるユダヤ人に対する一般市民の無力さとその罪を問うている。小説では,さまざまな方法で生きる可能性をもちながら,一つの生活様式しかもちえない人間の限界を好んでとりあげる。社会批判と自己批判とをおりまぜる作風に魅力がある。主要な作品として,戯曲では,《戦争が終わったとき》(1945),《シナの長城》(1947),《小市民と放火犯》(1958),《伝記》(1967),小説では,《シュティラー》(1954),《ホモ・ファベル》(1957),《モントーク》(1975)など。
執筆者:宮下 啓三
オーストリアの動物学者。ウィーン大学で医学を,ミュンヘン大学で動物学を学び,1925年ミュンヘン大学教授に就任。母方の祖父がユダヤ人であったためにナチスから迫害を受けた。ミツバチの感覚生理と行動の研究で知られ,動物行動学の確立者の一人として,K.ローレンツ,N.ティンバーゲンとともに73年ノーベル医学生理学賞を受賞。魚類をはじめ多くの動物について,一貫して感覚生理学的な立場から研究した。とくに,ミツバチがダンスによってみつの場所などを仲間に知らせることの発見,およびそのコミュニケーションの解析の成功という業績は,今なお言語の本性をめぐる哲学的関心をひきつけるなど,その重要性は失われていない。また《ミツバチの不思議》などの啓蒙的な著作がある。
執筆者:小林 伝司
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…ただしこれらは,動植物どちらも個体数の増減を基本としたものであった。 動物の行動に注目する研究は,初期(1920年代)のものとしてはK.vonフリッシュによるミツバチのダンスと太陽コンパスに関する研究があったが,K.ロレンツとN.ティンバーゲンによって動物行動学(エソロジー)が基礎づけられた。1973年にこれらの学者に異例のノーベル賞が与えられたことは,この分野の発展を象徴するものであった。…
… ファーブルを代表とする在野の研究者の間に伝えられた行動研究の博物学的な側面は,O.ハインロート,C.O.ホイットマン,J.S.ハクスリーらに受け継がれ,やがて1930年代から40年代にかけて,K.ローレンツによって,動物行動学の理論づけがなされる。そして1973年のローレンツ,N.ティンバーゲン,K.vonフリッシュのノーベル医学生理学賞受賞によって,自然科学としての認知を得た。ローレンツ流の動物行動学は,人間の行動の生物学的基盤を明らかにするという一面があり,ローレンツ自身やD.モリスらの著作は大きな反響を呼ぶと同時に,強い批判をも巻き起こした。…
…経済の諸関係式を量的に計測するために数学や統計学の手法を適用する経済学の一分野。近年は日本でもエコノメトリックス(R.フリッシュが命名)の語が使われることも多い。およそ経済学で扱う概念は,個別商品の需要や供給や価格にしても,社会全体の所得や消費や投資にしても,すべて数量的に規定され計測可能なものである。…
…(1)第1段階(地向斜期) 地向斜と呼ばれる狭長な地帯に緩慢な沈降運動が継続し,その結果,ときには20kmにも達するような厚い堆積岩が形成される。堆積岩は砕屑岩を主体とし,チャート,石灰岩などを含むが,なかでも,この時期の末ごろに多いフリッシュといわれる砂岩,泥岩の規則的な互層が特徴的である。海底火山の活動を伴うこともあって,その場合は玄武岩など塩基性のものが多く,オフィオライトと総称される。…
※「フリッシュ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
〘 名詞 〙 年の暮れに、その年の仕事を終えること。また、その日。《 季語・冬 》[初出の実例]「けふは大晦日(つごもり)一年中の仕事納(オサ)め」(出典:浄瑠璃・新版歌祭文(お染久松)(1780)油...
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