レッシュ・ナイハン症候群(読み)レッシュ・ナイハンしょうこうぐん(その他表記)Lesch-Nyhan syndrome

六訂版 家庭医学大全科 の解説

レッシュ・ナイハン症候群
レッシュ・ナイハンしょうこうぐん
Lesch-Nyhan syndrome
(代謝異常で起こる病気)

どんな病気か

 細胞のなかの核酸(かくさん)という物質のなかに含まれているプリン体を再利用するためには、ヒポキサンチングアニンホスホリボシールトランスフェラーゼという代謝酵素が必要です。この酵素のはたらきが先天的にほぼ完全に欠けている場合、ヒトの体で尿酸が過剰に産生されて高尿酸血症(こうにょうさんけっしょう)痛風(つうふう)となります。この病気をレッシュ・ナイハン症候群と呼んでいます。

 レッシュ・ナイハン症候群の発症頻度は、男児10万人に1人とされています。ヒポキサンチン・グアニンホスホリボシールトランスフェラーゼの遺伝子は、性染色体のX染色体上に存在することがわかっているため、患者さんの母親が保因者となり、患者さんは男性に限られるはずですが、まれに女児の発症例が報告されています。

症状の現れ方

 レッシュ・ナイハン症候群は、舞踏病(ぶとうびょう)アテトーゼ不随意(ふずいい)運動のひとつ)、筋硬直(こうちょく)、精神運動発達遅滞(ちたい)、唇や指先をかみちぎる自傷(じしょう)行為などの特異的な症状が現れます。そのほか、高尿酸血症が認められます。

 また、ヒポキサンチン・グアニンホスホリボシールトランスフェラーゼの部分欠損(酸素活性が低下している状態)の時は、これらの症状がなく、高尿酸血症や痛風だけのこともあります。

 乳児期の早期から哺乳異常や発育の不良がみられ、その後、運動発達の遅延が明らかになってきます。1歳を過ぎるころより不随意運動が現れ、2歳を過ぎるころに自傷行為が現れてきます。

 高尿酸血症は、生後まもなくから認められます。おむつ赤褐色の尿酸結晶が付着することもあります。

検査と診断

 診断は、舞踏病様アテトーゼを伴う精神運動発達遅滞や自傷行為などから疑い、高尿酸血症を確認できれば、この病気の可能性が高くなります。高尿酸血症は尿酸産生過剰型を示します。

 確定診断のためには、ヒポキサンチン・グアニンホスホリボシールトランスフェラーゼの酵素活性を測定する必要がありますが、最近では遺伝子診断も可能になったため、出生前診断や家族診断も比較的容易にできるようになりました。

 区別すべき病気として、自傷行為を伴う男児精神遅滞やアテトーゼ型脳性麻痺(のうせいまひ)などがあげられます。しかし、これらの病気に高尿酸血症を合併することは極めてまれです。

治療の方法

 対症療法が主体となります。自傷行為に対しては抗けいれん薬向精神薬などが有効で、リップガードやマスクをつけるなどの工夫も必要です。

 高尿酸血症に対しては、尿酸生成抑制薬であるアロプリノールを服用させることにより、腎障害の進行や痛風関節炎の発症を予防することが可能です。腎結石(じんけっせき)尿路感染症の予防のために、十分な水分をとることも大切です。

岡部 英明, 細谷 龍男


レッシュ・ナイハン症候群
レッシュ・ナイハンしょうこうぐん
Lesch-Nyhan syndrome
(遺伝的要因による疾患)

どんな病気か

 核酸代謝に関与するヒポキサンチン­グアニンフォスフォリボシルトランスフェラーゼの欠損によって、尿酸が蓄積するX染色体劣性(せんしょくたいれっせい)遺伝疾患です。

症状の現れ方

 生後2~3カ月ごろに筋緊張低下と嘔吐が認められ、その後、運動発達遅延、アテトーゼ(不随意(ふずいい)運動のひとつ)、痙性麻痺(けいせいまひ)、知能障害がみられるようになります。最も特徴的な症状は、口唇や指をかみちぎるなどの自損行為を行うことです。高尿酸血症による痛風(つうふう)や腎結石、腎障害もみられます。

治療の方法

 尿酸合成阻害薬の投与による高尿酸血症の治療が行われます。

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

レッシュ‐ナイハン症候群
れっしゅないはんしょうこうぐん

先天性代謝疾患の一つで、男児の高尿酸血症のうち、もっとも重要な伴性潜性遺伝病である。1964年アメリカの医師レッシュMichael Lesch(1939―2008)によって発見され、その後ナイハンWilliam L. Nyhan(1926― )ら生化学者や遺伝学者の共同研究によってその全貌(ぜんぼう)が明らかにされた。この先天性代謝疾患と一般の代謝疾患である痛風との共通性について注目されている。

 レッシュ‐ナイハン症候群は、高尿酸血症のほか、筋緊張の異常と舞踏病様の不随意運動、および自分の唇や指をかむ自虐性の習癖がみられる男性の遺伝病であるが、生化学的にはヒポキサンチングアニンフォスフォリボシルトランスフェラーゼhypoxanthine guanine phosphoribosyltransferase (HG-PRTase)の先天的な欠損が本態とされている。すなわち、核酸を構成するプリン塩基の成分(アデニンやグアニン)とイノシン酸の塩基成分であるヒポキサンチンは、体内でキサンチンを経て結局は尿酸となり尿中へ排出されるが、その一部はもう一度ヌクレオチドとなり核酸の生合成などに用いられている。この回収経路のうち、ヒポキサンチンとグアニンをそれぞれイノシン酸とグアニル酸として回収する酵素(HG-PRTase)が欠けていると、プリン体の生合成が著しく促進されて高尿酸血症をおこしてくる。これがレッシュ‐ナイハン症候群であり、プリン体が生合成される速度は痛風患者のそれよりも速やかである。

 症状としては、血中および尿中の尿酸値が上昇し、生後半年以内に運動発達の遅れや筋緊張の低下がみられ、その後に不随意運動が現れ、知能障害も進行性に悪化する。自虐的習癖は幼児期から学童期に多くみられる。また、おむつに尿酸が粉のように付着することがあり、成長とともに尿酸結石が高率にみられ、痛風様症状である関節炎や尿路結石なども現れる。予後は腎障害の程度に左右される。なお、尿酸結石の予防には、十分な水分摂取と尿酸阻害剤であるアロプリノールの投与が行われる。

[山口規容子]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

世界大百科事典(旧版)内のレッシュ・ナイハン症候群の言及

【先天性代謝異常】より

…(8)金属代謝異常 ウィルソン病,メンケス病など。(9)核酸代謝異常 レッシュ=ナイハン症候群,先天性痛風など。(10)転送機構異常 シスチン尿症,尿細管性酸血症など腎再吸収障害と腸管吸収障害がある。…

※「レッシュ・ナイハン症候群」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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