改訂新版 世界大百科事典 「筋緊張」の意味・わかりやすい解説
筋緊張 (きんきんちょう)
muscle tone
muscle tonus
筋肉の中程度の強さの持続的収縮状態をいう。動物の体の姿勢の保持や,消化管,血管などの適度の収縮状態の維持などは筋緊張によるものである。筋緊張には,筋肉を支配する神経のはたらきによる神経原性のものと,筋肉自体の活動による筋原性のものとがある。
骨格筋の筋緊張
脊椎動物や節足動物などの骨格筋の緊張は神経原性である。温血動物の骨格筋の場合,筋緊張はもっぱら遅筋(または赤筋)によっておこなわれ,身体の速い運動は速筋(または白筋)によっておこなわれる。骨格筋は脊髄内の運動ニューロンからのびた運動神経繊維によって支配されているが,個々の運動神経繊維は枝分れして数本から100本以上の筋繊維を支配しており,これらの筋繊維はつねに一体となって活動するため運動単位という。したがって筋肉は多数の運動単位からなる。遅筋の緊張は,個々の運動単位が神経から低頻度のインパルスをうけて不完全強縮をおこし,筋肉全体としてはなめらかな持続的収縮をおこなうことによっておこる。遅筋は速筋に比して疲労をおこしにくく,筋緊張は強縮tetanus(筋肉の強い収縮)よりもはるかに長時間持続しうる。カエルなどの冷血動物や節足動物では速筋と遅筋の区別は明りょうでなく,速い収縮をおこなう速筋繊維と遅い収縮をおこなう遅筋繊維が一つの筋肉内に混在しており,その量比は筋肉によって異なる。
平滑筋の筋緊張
消化管,血管などの筋緊張は消化管壁や血管壁の平滑筋の緊張によるものであるが,神経原性のものと筋原性のものとがある。筋原性の緊張の例としては二枚貝の貝柱の平滑筋があり,静止状態のそれとほとんど同じ代謝速度で大きな張力を長時間発生する。この筋緊張をとくに歯止め機構という。ホタテガイは殻を急速に開閉させ,その際の水流により移動するが,この貝柱は,速い収縮をおこなう横紋筋の部分と,筋緊張をおこなう平滑筋部分とに分かれている。
→筋収縮
執筆者:杉 晴夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報