尿路すなわち腎臓(じんぞう)、尿管、膀胱(ぼうこう)、尿道にそれぞれ発生ないしは存在する結石のことで、尿結石または尿石症ともいう。医学上もっとも古くから知られている疾患の一つであり、紀元前4800年と推定されるエジプト人から膀胱結石が発見されており、古代の記録や聖典などにも治療に関する記述が認められている。ヨーロッパでは100年ほど前まで、日本でも第二次世界大戦前は膀胱結石が多かったが、現在ではストーンベルトとよばれる特定の多発地域(おもに中東、東南アジア)を除いてはほとんどみられなくなった。そのかわりに腎結石が増加しつつあり、最近では90%以上が上部尿路結石である。発生地域もいわゆる先進工業国が主体となってきた。性別では男性が女性より2、3倍多いほか、20~40歳代に発生頻度が高く、再発もこの年代に多くて、5年以内に3人に1人は再発するという統計もある。
結石の成分としてはシュウ酸カルシウム結石がもっとも多く、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウムアンモニウム、尿酸、シスチンなどがこれに次ぐ。結石ができる原因は成分によって異なるが、いずれにしても結石成分が尿中に過剰に排泄(はいせつ)され、尿が過飽和状態になって最初の結晶が形成され、それがしだいに成長して結石となる点は同じである。カルシウム結石の場合、高カルシウム尿症や副甲状腺(せん)機能亢進(こうしん)症など原因疾患がはっきりするのは7割程度である。タンパク質の摂取量が増えるにつれて尿中へのカルシウム排泄量が増えるという説もあり、尿酸結石はもちろんのこと、カルシウム結石の増加も肉食の普及と無縁ではなさそうである。リン酸カルシウムやリン酸マグネシウムアンモニウム結石は慢性腎盂(じんう)腎炎に合併することが多い。シスチン結石は遺伝性のシスチン尿症に特有の結石である。利尿剤であるダイアモックスやトリアムテレンなど薬剤が尿路結石の原因となることもある。
なお、尿路結石の診療に際しては、原因疾患をできるだけ解明し、単に結石の除去だけに終わることなく、再発予防策を講じることが肝要である。
[松下一男]
尿路にみられる結石の総称で,腎結石,尿管結石,膀胱結石,尿道結石などはこれに属する。エジプトのミイラの中にもみられ,古くから医療の対象にされてきた。結石のほとんどは腎臓で形成され,これが下降するにつれて尿管結石,膀胱結石,尿道結石となるのが普通である。一般に,文明度の高いところでは上部の結石が多く,下部の結石は文明度の低いところに多い。比較的多い病気で,とくに青壮年の男性に多い。結石の成分は主としてカルシウム塩で,このほかにシュウ酸,リン酸,尿酸,マグネシウム,アンモニウム,シスチンなどを含むことがある。結石の成因についてはまだ不明な点が多いが,尿中にカルシウムが多く排出される疾患,たとえば血中のカルシウムを調節するホルモンが増加する原発性副甲状腺機能亢進症などでは結石ができやすい。また血中や尿中の尿酸が高くなる痛風や,先天的に尿中にシスチンというアミノ酸の一種が大量に排出されるシスチン尿症などでは,これらを成分とする結石ができやすい。症状は結石の部位によって異なり,疼痛や排尿痛,血尿,尿閉などが結石の位置によって起こる。尿路結石は再発しやすい疾患であるため,結石の成分を分析したり,原因となる上記の種々な病気の有無をよく調べておくことが予防上も大切である。治療法は一般には手術療法と保存的療法に大別され,結石の部位や大きさ,成分や腎機能の障害の程度,感染の有無,疼痛の程度などを総合的に考慮して決められる。最近は体外から衝撃波を結石にあて,細粒状に破砕して自然に排石させる治療法が主流となっている。尿酸結石やシスチン結石のようにアルカリで溶解しやすいものでは,保存的に尿アルカリ化剤(重曹など)で自然に溶解あるいは排出されることがある。結石の成分に応じて種々の食事療法や薬剤を用いることもあるが,十分に水分を取って尿量を多くすることが大切である。
執筆者:上野 精
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
尿路結石の成分として最もよくみられるのはシュウ酸カルシウムで、そのほかリン酸カルシウムや尿酸などがあります。これらの成分は多くの場合、混合してみられます。カルシウムを含んだ結石はX線で写りますが、純粋な尿酸結石は見えません。尿中のカルシウムや尿酸の増加は、結石の危険を増やします。
尿路結石は、一般には男性に多い病気ですが、副甲状腺機能亢進症などの基礎疾患があれば女性にも起こります。
結石が尿管に落ち込んだり、動いたりすると強い腰痛や背部痛を伴う結石発作が起きます。石を取り去れば痛みはなくなりますが、結石が全部出てしまうとは限りませんし、結石をつくりやすい体質や病気が治るわけではないので、放置すればしばしば再発します。ですから、尿路結石の原因になる体質、食事の習慣、基礎疾患をきちんと調べて、可能ならそれを治すことが大切です。
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
…胆汁成分の異常,胆汁鬱滞(うつたい)および感染が加わった場合などに発生する。腎尿路系にできる結石は尿路結石と総称され,シュウ酸カルシウムが主体で種々の割合にリン酸カルシウムが混じたものが圧倒的に多く,次いでマグネシウム,アンモニウムとリン酸の混合物で,まれに尿酸が主成分のものがある。血清カルシウム値が上昇する疾患などでは,尿中のカルシウム量も増加し,結石が生じやすくなる。…
…ある種の菌類,二枚貝の外套膜,人間の尿中にも少量含まれて,尿中のシュウ酸量が増加する症状はシュウ酸塩尿と呼ばれている。シュウ酸は多量に摂取すると,人体からカルシウムを奪い不溶性のシュウ酸カルシウムCaC2O4となり,尿路結石の原因ともなる。酸化の最終産物であるので,特殊な微生物のほかは代謝できない。…
※「尿路結石」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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