日本大百科全書(ニッポニカ) 「上限運賃制度」の意味・わかりやすい解説
上限運賃制度
じょうげんうんちんせいど
鉄道や、乗合バスなどにおいて、運賃の上限を決め、それを上回る運賃の設定はできないが、それ以下であれば柔軟に運賃の設定ができるようにする制度。1999年(平成11)に鉄道(鉄道事業法)へ、2002年(平成14)に乗合バス(道路運送法)へ導入された。
たとえば、鉄道運賃の上限は総括原価方式(適正な原価に適正な利潤を加えた総括原価に等しく運賃を設定する方式)によって決定される。従来の運賃規制においては、総括原価主義によって決定された運賃のみで交通サービスの提供が行われており、これは事業者の経営努力のインセンティブを削ぐという欠点があった。しかし、上限運賃制度を採用すると、企業に利潤動機が生まれ、経営努力のインセンティブを与えることができる。また運賃設定の自由度が高まるので、市場の変化に機動的に対応できるという利点がある。
その一方で、運賃が上限に貼り付いてしまうのではないかという懸念もある。この運賃制度はプライス・キャップ規制(改定前の運賃を基準として、それに物価変動を考慮に入れて新しい運賃を設定する規制方式)との関連が深いが、プライス・キャップ規制とは運賃設定の方法が基本的に異なる点に注意する必要がある。
[竹内健蔵]
『山内弘隆・竹内健蔵著『交通経済学』(2002・有斐閣)』▽『塩見英治編『現代公益事業――ネットワーク産業の新展開』(2011・有斐閣)』