日本大百科全書(ニッポニカ) 「世界保全戦略」の意味・わかりやすい解説
世界保全戦略
せかいほぜんせんりゃく
World Conservation Strategy
1980年に国際自然保護連合(IUCN)が各国政府を通じて全世界に発信した自然保全のための戦略。略称WCS。国連環境計画(UNEP)の委託を受けて、IUCNと世界野生生物基金(WWF。現、世界自然保護基金)が協力して作成した。いかに自然資源の開発を行うかに関する戦略で、自然保護活動家や研究者だけでなく、政府や開発当事者などにも活用されることを目的としている。ここでいう自然資源は、野生動植物を含む自然の生態系で、土地、鉱物、石油などの天然資源とは区別し、乱獲や乱用を避ければ再生可能なものをさしている。
1991年、ふたたび三者で協議し、世界保全戦略の概念をより発展させた新世界環境保全戦略「かけがえのない地球を大切に――持続可能な生活様式実現のための戦略」Caring for the Earth――A Strategy for Sustainable Livingを発表した。ここでは、環境を圧迫している自然資源の消費を食い止め、持続可能な社会を実現するために、(1)生命共同体を尊重し、大切にすること、(2)人間の生活の質を改善すること、(3)地球の生命力と多様性を保全すること、(4)再生不能な資源の消費を最小限に食い止めること、(5)地球の収容能力を越えないこと、(6)個人の生活態度と習慣を変えること、(7)地域社会が自らそれぞれの環境を守るようにすること、(8)開発と保全を統合する国家的枠組みを策定すること、(9)地球規模の協力体制を創り出すこと、の9原則をあげ具体的な行動規範を示している。この戦略は、その後の生物多様性条約などにも影響を及ぼしている。
[加瀬信雄]