翻訳|mineral
天然に産する物質で、ほぼ一定の化学組成と原子配列をもつ、現在生命力をもたない均質物質をさす。少数の例外(自然水銀および水)を除いて常温で固体である。
[加藤 昭 2016年8月19日]
2013年(平成25)12月時点で、世界全体で約5000種、うち日本国内で約1300種知られており、年平均60~80種増加している。
[加藤 昭 2016年8月19日]
類別した各類に重複配置を許す非系統分類と、重複配置を許さない系統分類とが可能である。前者には、たとえば成因的分類、応用的分類などがあり、後者には結晶学的分類、化学的分類などがある。
[加藤 昭 2016年8月19日]
現在広く用いられているものは、化学的分類と結晶学的分類の組合せであって、鉱物種の定義において化学組成と原子配列とが重視されていることに対応している。最初の提唱者はスウェーデンのベルツェリウスで、その後幾多の改良を経て、現在はドイツのシュツルンツHugo Strunz(1910―2006)およびオーストラリアのニッケルErnest Henry Nickel(1925―2009)によるものがもっとも広く用いられている。ここではこれをさらに改良した筆者の分類を紹介する。
鉱物はまず無機鉱物と有機鉱物に分類される。
〔1〕無機鉱物
無機鉱物は次の3種類に大区分される。
(1)基本的に単一種の元素からなる鉱物
(2)基本的に2種の、性質の異なる元素からなる化合物の鉱物
(3)基本的に3種の元素からなり、その1種は酸素であるような化合物の鉱物
無機鉱物を構成する単位は次のようなものである。
(1)元素鉱物
(2)硫化鉱物、炭化・窒化・珪(けい)化・燐(りん)化鉱物、酸化鉱物、ハロゲン化鉱物
(3)硝酸塩鉱物、炭酸塩鉱物、硼(ほう)酸塩鉱物、亜硫酸塩鉱物、亜セレン酸塩鉱物、亜テルル酸塩鉱物、亜ヒ酸塩鉱物、ヨウ素酸塩鉱物、硫酸塩鉱物、クロム・モリブデン・タングステン酸塩鉱物、リン酸・ヒ酸・バナジン酸塩鉱物、珪酸塩鉱物
これらのうち、硼酸塩鉱物と珪酸塩鉱物とは、原子配列に重点を置いた細分が可能である。炭化・窒化・珪化・燐化鉱物は元素鉱物に含められることもある。異なった元素をもつ塩類鉱物が一括されているのは、単一種で複数の塩を端成分とした固溶体が存在するためである。
これらの類名となる酸基を特徴づける陽イオンは、すべて3個あるいは4個の酸素原子(一部のヒドロキシ基を含むフッ素原子の場合は6個まで)によって囲まれている。つまり対酸素配位数が3あるいは4ということである。したがって燐モリブデン酸塩鉱物のようなヘテロポリ酸塩鉱物の帰属は、現在知られているものではリン(P)の配位数は4、モリブデン(Mo)の配位数は6であるため、これはリン酸塩鉱物のなかに入れられている。化学的には酸基とされる多重バナジン酸塩の鉱物は、そのなかのバナジウム(V)の大部分の配位数が5あるいは6であるため、酸化物に含められる。化合物の名称としては、メタニオブ酸第一鉄塩である鉄コルンブ石の帰属が酸化物となっているのも、ニオブ(Nb)の配位数が4ではなくて6であることによる。
鉱物の系統分類単位への帰属が問題となる場合が発生するのは酸素が含まれている場合であるが、その酸素は特定の陽イオンの周囲に多少とも規則性(対称要素の保有など)をもった原子団をつくる傾向が強いので、その原子団の中心となる陽イオンの種類で系統分類体系を構築すると、酸素を含む鉱物全体に共通して同じウェイトで作用する内容のものにすることができる。
このような場合、原子団がつくられているかどうかの判定基準は、問題となる陽イオンの周りに何個の酸素イオンがあるか、その数字に求められ、4個であれば形態的に原子団の存在が認められる。しかし、6個になると原子団としての挙動、たとえば酸基として隠イオンをつくるようなことは、一部の例外を除いて存在しない。なお例外はTe6+(6価のテルルイオン)で、これは明らかに[TeO6]6-という原子団を構成する。Nb5+(5価のニオブイオン)やTa5+(5価のタンタルイオン)は酸化物中では6配位の形をとり、形態上は酸基を構成しないので酸化物として扱われる。
5配位の原子団は正方錐(すい)の中心にV5+(5価のバナジウムイオン)が位置し、これが底面の一辺をなす稜(りょう)で2個結合した[V2O8]6-がほとんど唯一のものであり、この形をもった酸基の存在で特徴づけられる一群のバナジン酸塩があるので、かつてはバナジン酸塩に含められたが、シュツルンツ分類Strunz and Nickel classification(2001)では酸化物のなかにバナジン化合物という特殊枠が設けられ、このなかに入れられている。
〔2〕有機鉱物
有機鉱物は数が少ないこともあって(約50種)、後述したような無機鉱物の大区分に相当する区分はない。
有機鉱物には有機酸塩鉱物、炭化水素鉱物、炭水化物鉱物がある。
[加藤 昭 2016年8月19日]
鉱物名は従来から存在するものと、新鉱物として発見されて命名されたものとがある。原記載者は論文発表に先だって、国際鉱物学連合International Mineralogical Association(IMA)の新鉱物・命名・分類委員会の承認を受ける必要がある。原則的には、産地名や人名あるいは化学記号の英語読みなどの単語のあとに接尾語-iteをつけて鉱物名とするが、もちろん同一名称は使用できないし、多少の制限がある。なお、類似の化学組成をもつ複数の鉱物が系列を構成している場合、とくに希土類元素を主成分とする種については、その英名はゼノタイムのxenotime-(Y)、xenotime-(Yb)のように、そのなかでもっとも多量に存在する元素の元素記号を括弧(かっこ)でくくった接尾語を使って区別するという規定となっている。なおこの規定はパンペリー石などについても用いられ、pumpellyite-(Al)のように表される。また、成分が複雑な場合は、ジャーンザイトjahnsite-(CaMnMg)のように複数の元素記号が列記される。一方これとは別に、多型polytype(層状の構造単位に分割される場合、その単位の積み重なり方が異なる相)を区別する必要が生じた場合は、石墨のgraphite-2H、graphite-3Rというような接尾語を用いることで処理してきた。最初の数字は単位格子が基本的な原子配列単位の何倍になっているかを示し、あとの文字は結晶系の略号で、それぞれ六方晶系、菱面体(りょうめんたい)晶系を示す。
その後、結晶軸の各方向に倍数の格子をもつ相が数多くの種について発見され、これまでの表現方法では不十分になってきたので、ポリバス鉱polybasite-M2a2b2cというように拡張記号が使用されるようになった。これが適用される相では、これまで、繰り返される単位の構成内容が同一であったため問題は生じなかったが、2002年に発見されたferrohögbomite(Fe2+3ZnMgAlAl14Fe3+TiO30(OH)2)では、2種の異なった構造単位の集積からなることが明らかにされ、種の識別上それら構造単位の内容まで限定する必要が生じた。これに対応するため、-2N2Sという構造単位接尾語をつけたferrohögbomite-2N2Sという名称が正式名称として承認されている。なお、このなかの記号Nはノーラン鉱nolanite=(V, Fe, Ti)10O14(OH)2の原子配列を原型とする構造単位、Sはスピネルspinel=MgAl2O4のそれを原型とする構造単位である。
[加藤 昭 2016年8月19日]
(1)色 鉱物の色は、光に対して透明な鉱物は透過光の吸収された余色、不透明なものは反射光の色である。すなわちその物質に当たった白色のなかで吸収されず、反射された種々の波長をもった光が混合したものである。無色透明なものでも、多結晶の集合体となれば、粒間の界面で反射がおこって白色を帯びた色になるため、鉱物自身の状態によって多少変化する。着色した陽イオンをつくる重金属を含む鉱物では、その色が鉱物自身の色に反映されることも多い。
(2)光沢 それぞれの外観の光沢によって、無光沢(土状光沢とほぼ対応する)、ガラス光沢、真珠光沢、絹糸光沢、樹脂光沢、脂肪光沢、亜金剛光沢、金剛光沢、亜金属光沢、金属光沢などの用語を用いて記載される。
(3)条痕(じょうこん) 条痕板と称する磁器製の白色の板の上にこすりつけた色を観察する。条痕板より硬度の高い鉱物については、別の方法で粉砕した粉末について観察する。ただし、このような硬度の高い鉱物の条痕は無色か白色である。なお、条痕streakは色があることによってその所在が確認できるため、色はその本質的な性質であり、「条痕色」という表現は適正でない。英語でもstreak colorとはいわない。鉱物の条痕は一般にはその色が淡くなったものであるが、たとえば鉄電気石は見かけは黒色、条痕は白色に近い。若林鉱は外観は黄色であるが、条痕は外観にまったく出てこない橙色(とうしょく)味を帯びる。
(4)硬度 鉱物の硬度の測定に関しては、指準鉱物を用いて鉱物相互間の相対的な擦過(さっか)硬度を決定するモース硬度Mohs hardnessと、重量をかけたダイヤモンド針(実際には正方錐(せいほうすい))を平らに磨いた鉱物の表面に押し込み、その跡の大きさを測定して得られる、嵌入(かんにゅう)硬度の一つであるビッカース硬度(ビッカース硬さ)Vickers hardnessの二つがよく用いられ、両者の間にはある関数関係がある。本事典の鉱石・鉱物のデータノートではモース硬度を採用している。
(5)劈開(へきかい) 結晶質物質の単結晶には、機械的な力が加わったとき、一つあるいはそれ以上の平らな面に沿って割れる性質がある。その面を劈開面という。その程度は、完全、明瞭(めいりょう)、良好、不完全、不明瞭の5段階に分けて記述され、その方向は結晶面と同様の方法で決定される。方位の記述はミラー指数と同じ方法を用いる。劈開はその鉱物の原子配列と密接な関係がある。同一種の鉱物では原則として同一方向の劈開が存在するが、その程度は固溶体の化学組成によってやや異なることがある。閃(せん)亜鉛鉱では、亜鉛を置換する鉄の量が多くなると、劈開の発達の程度は下がる傾向にある。
(6)裂開(れっかい) 劈開の発達しない鉱物、あるいは劈開のある鉱物でも、本来劈開の発達しない方向に、産地あるいは産状によって、一見劈開様の一方向に平行に発達する面がみられることがある。これを裂開といい、劈開と同様の方法で記載される。
(7)断口(だんこう) 劈開のない鉱物、あるいは劈開以外の方向にある、鉱物の割れ口を断口という。これを記載するには、平滑と不平滑に大別し、不平滑の場合を貝殻状、折鋼(せきこう)状、鋸歯(きょし)状などの用語で表現する。
(8)比重 通常の比重の概念と同様であるが、鉱物の場合、その個体が包有物を含んでいたり、空隙(くうげき)をもっていたりすることがあるので、見かけ比重と真比重を使い分ける必要が生じる場合がある。通常は鉱物の重量と、それと同体積で3.98℃の水の重量との比で示され、単位はつかない。密度も比重同様に用いられるが、これには単位をつける必要があり、多くはグラム/立方センチメートル(g/cm3)で与えられる。
(9)その他 ここまでに述べたものは、多くの鉱物の記載の際、その鉱物を特徴づける属性として、かならず観察の対象となるものであるが、これら以外にも、場合に応じて重要となるものがある。すなわち、熱的性質(生成熱・熱伝導度・熱膨張係数・比熱・溶解熱・加熱減量曲線・示差熱分析曲線など)、電気的性質(電気伝導度・熱電気・焦電気・圧電気など)、磁気的性質、粘靭(ねんじん)性(脆(ぜい)性、柔性、展性、延性、靭(じん)性、撓(とう)性など)である。またこれらに属さないもので、触感・臭気(打撃、加熱、あるいは息を吹きかけた際などによる)、味なども物理的性質に加えられることがある。
[加藤 昭 2016年8月19日]
可視光線に対して鉱物が与える諸性質で、透明鉱物に対しては、屈折率、複屈折、光学的方位、光軸角、光軸分散、光学記号、多色性の有無、軸色など、不透明鉱物に対しては、反射色、反射能などがある。これらのなかで定量的に示されるものは、同定上重要である。
[加藤 昭 2016年8月19日]
鉱物は化学物質であると同時に、その化学組成が定義に直接関与しているため、化学的性質のうち、実験式、理想化学組成式、化学成分などは記載上必須(ひっす)の性質である。また、簡単な化学反応は同定上重要なことがある。
(1)実験式 理想的には、完全化学分析によって鉱物の成分とそれらの含有量を求め、結晶化学的に一括できるものは一括し、各成分の比率を計算する。分析方法によっては、原子量の小さい元素である水素、リチウム、ベリリウムなどについては、定性・定量分析ができない場合、これらの存在を定性的に確認した後、含有量を推定して化学分析値に換えることもある。鉄のように単一の元素で異なった原子価をもつものの場合も原子価状態が決定できないことがあると、それらの比率を推定あるいは予想して算出する。原則的には、このような操作の結果で得られた類似性質の組成集団の間の整数比の成立をもって、実験式を作成することもある。厳密には、この部分は実験によって裏づけられていないわけであるが、記述としては実験式empirical formulaという表現が許されている。
(2)理想化学組成式 実験式中、少量成分を除外し、必須成分と判断されるもののみを用い、それらが理想的な量比を満足しているとした場合の化学式をいう。これが実際に通用するかどうかは、結晶構造の決定によらなければならないが、構造の記載前でも作業仮説的な利用価値を有する。ただし、ペントランド鉱(化学式(Fe,Ni)9S8)のように、ある幅をもった不定比のFe・Niがどちらも必須成分である場合、両者の比率を表示しないままのものに「理想」という形容詞は用いられないとして、この種の鉱物への適用は不適当とする意見もある。
(3)構造式 結晶構造の決定により、理想化学組成式あるいは実験式から導かれる式で、鉱物の結晶学的な分類の際の基礎的な参考情報となるものである。また、そのなかの原子の配位数などから、その生成条件の推定につながる場合もある。
(4)試薬に対する性質 試薬となるものは、塩酸・硫酸・硝酸などの酸、アルカリ、水などで、これらを用いて鉱物との反応をみる場合が多い。たとえば、炭酸塩の多くは酸で分解され、二酸化炭素を放出し、いくつかの硫化物は酸と反応して硫化水素の悪臭を発する。こうした結果は同定の際に役だつ。
[加藤 昭 2016年8月19日]
結晶学と関係する鉱物の諸性質として、次のようなものがあげられる。
(1)形態 鉱物の外側は、結晶系に支配されたある法則によって与えられる平面に囲まれていることがある。この面を結晶面といい、その集まりを結晶形態あるいは結晶外形という。結晶面は、その内部の規則正しい原子配列の反映である。鉱物の形態は、原則的に結晶面の発達の仕方によって支配され、その記載には、毛状、針状、柱状、板状、錐(すい)状、葉片状、粒状などの用語が用いられ、必要に応じてこれに短あるいは長という表現を添える。また複数個の結晶が集合する場合は、規則性を示すもの(たとえば平行連晶・双晶など)と、放射状、球顆(きゅうか)状、房状、皮膜状、繊維状、樹枝状、集落状のような、規則性を示さない、やや不特定な用語と、葡萄(ぶどう)状、腎臓(じんぞう)状のように事物に例える用語とがある。
(2)原子配列 結晶質物質の原子配列は結晶構造とよばれ、鉱物の原子配列の多くはこれに相当する。配列の記述は、原子を単一原子として取り扱う場合と、一つの原子を中心とした原子団として取り扱う場合とがある。この原子団を一つの多面体あるいは多角形とみなすと、その形は対称の要素をもつことが多く、そのために中心原子は、対称の要素である対称心・対称面・対称軸などの上に乗ることが多い。
(3)結晶化学的性質 原子と原子の間の化学結合には、イオン結合、共有結合、金属結合、ファン・デル・ワールス結合の四つの型があり、原子を球とみなした場合、ある結合半径をもって隣の原子と接しているとして取り扱うことができる。結合半径が近似していて、原子価の差が少ないか同一であり、化学的性質が近似した原子は、鉱物全体の原子配列を保ったまま置換しあうことがあり、同形置換とよばれる。これは鉱物の化学組成の複雑化の一原因でもある。一方、構成する元素の種類や量比が同じでも、異なった原子配列をとる鉱物もあり、これは同質異像とよばれる。この関係にある複数鉱物種、たとえば石墨とダイヤモンドは、それぞれが異なった生成条件(この場合は物理的に異なった条件)を示すことが多い。
[加藤 昭 2016年8月19日]
鉱物には、海水を構成する水分や、隕石(いんせき)の成分鉱物、あるいは宇宙塵(じん)の構成物のように、成因不明のものもあるが、通常、鉱物の成因としては次の三つが考えられる。
(1)気体、液体、溶融体など流体から生成される場合
(2)既存の鉱物あるいは固体物質と(1)の流体との反応によって生成される場合
(3)既存の鉱物あるいは固体物質間の反応、転移、あるいは結晶化などによって生成される場合
具体的には、火山ガスからの昇華、熱水溶液からの沈殿、溶岩の固化などが(1)の場合に属し、熱水変質作用やスカルンの生成、地表での鉱物風化、二次鉱物の生成などが(2)の例である。(3)の場合には変成作用による変成鉱物の生成などが含まれる。
[加藤 昭 2016年8月19日]
産状とは、産出状態の短縮語といわれるが、本当にその場所で生み出されたものでないものも含まれるため、かつてはこの用語は排斥され、「現出状態」という用語が正しいとされたこともあった。現在では「産状」のほうが用いられている。鉱物は地殻を構成する最小単位であり、つねに集合をなして産するので、その集合の仕方を記述したものが産状であるということができる。したがってその記述は、その鉱物自身の状態と、集合がつくっている状態の双方の説明が表現されていることが望ましいといえる。たとえば「一造岩鉱物としてこういう種類の岩石からなる岩体を構成する」というように、地質単位に重点を置く方法もあれば、それが初生鉱物か二次鉱物かというように、生成過程を配慮する方法などがあり、これらを組み合わせることでいっそう具体化できる。すなわち、造岩鉱物を、火成鉱物、堆積(たいせき)鉱物、変成鉱物、交代作用生成鉱物などというように細分すれば、地質現象の産物としての集合体の構成物という性格をより鮮明にすることができる。現在、鉱物の産状の記述に関しては、できるだけ自由に、問題とする鉱物の存在意義がもっとも強調される方向に行われるべきであると考えられている。
[加藤 昭 2016年8月19日]
鉱物資源としては、われわれの日常生活に欠くことのできない有用金属元素の鉱物のほか、化学工業用、窯業原料用、エネルギー源用など、鉱物のもつ物理的・化学的特性を応用して利用されているものが数多く存在し、その範囲は多岐にわたっている。鉱物資源の利用については古代より研究・開発されてきたが、世界的な人口増加がみられる昨今では、それら資源の有効な利用が望まれることはもちろん、未利用の鉱物資源の開発や新しい利用方法の開拓も今後に残された重要な課題といえよう。
[加藤 昭 2016年8月19日]
鉱物の採集は、鉱物を対象とする活動のうち、もっとも基本的なもので、それに引き続く作業の土台ともなるものである。もちろん、一つの科学的な作業として行う場合と、趣味的な活動として行う場合とでは、その重点の置き方が違うので、当然準備の仕方も異なってくるが、ここでは主として後者の場合について述べる。
まず目的地の選定であるが、とくに目的地を設定せず、文献や地質図などで見当をつけていく方法と、産地に関する情報によって目的地を絞る方法とがある。後者についてはとくに説明を要しないと思われるので、前者について説明する。この方法でも、最低限、地質の概略に関する知識は必要である。対象として考慮に値する地質単位ならびにその組合せとしては、花崗(かこう)岩ペグマタイト(ペグマタイト鉱物・造岩鉱物)、花崗岩接触帯とくに石灰岩、苦灰岩などとの接触部(接触変成鉱物・スカルン鉱物・金属鉱物)、超塩基性岩(蛇紋石鉱物・脈鉱物)、広域変成岩(変成鉱物・脈鉱物)、変成層状マンガン鉱物(初生マンガン鉱石鉱物・二次生成マンガン鉱石鉱物・変成鉱物)、火山岩あるいは火砕岩(沸石・空隙(くうげき)鉱物)などがある。
次に採集用具である。まず採集のため直接必要なものは岩石ハンマーで、大小両方あれば便利であるが、最初は小さなもの(1.5ポンドか2ポンド)から慣れていくのがよい。ハンマーはもちろん打撃で岩石を壊す道具で、正方形の断面の上側の稜(りょう)で打ち、なるべく狭い面積が当たるように振る。振り方は、振り上げてから途中までは腕全体で、その先は手首を使い、当たる瞬間握りを緩める。次に必要なものはたがねで、丸たがねと平たがねとがある。前者は方向性の乏しい岩石に、後者は方向性のある、あまり堅くない岩石に対して有効である。採集したものをよりよく観察するには、ルーペ(虫めがね)が必要である。これは1枚レンズの天眼鏡式のものより、2枚のレンズが短い筒の両端についたもののほうが使いやすい。観察したものの記録には、筆記用具、野帳(やちょう)を用意する。写真機、ビデオ撮影機などが有効なこともある。この種の作業にあたって、産地の確実な位置の決定を可能にするため、地形図は必携であり、方向磁石や高度計、GPS機器があればさらによい。
標本について、多数採集した際の識別のため、番号、記号を記入する。これにはフェルトペンを用いるが、火山岩、超塩基性岩、含有機物堆積岩など、のちにガス分析などに使用される可能性のある標本の場合には、フェルトペンや新聞紙を用いると汚染の原因となるので、ポリエチレンの袋に入れて密封し、その表面に番号を書く。普通の採集品の場合には、新聞紙、木綿袋、ポリエチレン袋などを用い、他の標本と接して破損のおそれのないものは、なるべくひとまとめにしておく。破損しやすいものは、ちり紙、脱脂綿などで包装し、最後にセロファンテープなどで固定し、これに番号を入れる。以上は普通の場合であるが、椀(わん)または盆のような容器を用いて流水中で川砂をより分け、比重の大きい鉱物を採取するパンニング(椀掛け)とよばれる作業で得たものについては、これを入れるポリエチレン袋、選別用マグネット、ピンセットなどが有効である。
[加藤 昭 2016年8月19日]
採集した標本は全部保存するより、十分観察し、必要なものを保存すべきであろう。選別の基準は、普通は粒度の大きいもの、新鮮なもの、外形のよく発達したものなど、目的とする鉱物自身に重点を置く場合と、産状のよくわかるもの、共存関係が明らかなもの、生成順がわかりやすいもの、それ以外の要素を考慮する場合などがあり、これ以外にも珍しい鉱物、未決定鉱物などを対象とする場合もある。いずれの場合も、保存する主旨ははっきりしていなければならない。
標本の保存のためには、整理しやすい形、すなわち整形を施されて不必要な部分を落とした形とし、洗浄して汚れがないようにしたものを適当な小箱や容器に収納したうえで、整理たんすなどに保存する。
標本は実物とラベルがそろって初めて成立する。ラベルには、鉱物名、産地など必要情報を記入する。また必要に応じて、標本とラベルに共通の番号をつけ、台帳をつくって整理することもある。
整理方法として、産地別、分類別、成分別、産状別など多くの方法があり、それぞれ一長一短がある。いずれの方法をとるにしても、標本として利用する際もっとも使いやすい方法で統一するのがよい。また、まったく分類せず、カード、コンピュータなどを用いて分類する方法もある。
[加藤 昭 2016年8月19日]
自分が実際に観察した現場での採集品をさらに詳しく観察する場合であれば、特別な場合(たとえば砂鉱中の鉱物など)を除き、問題とする鉱物を含む標本の地質学的な情報はある程度与えることができる。採集、標本化、観察は、問題とする鉱物自身の情報と、またそれを含む標本のよりよい地質学的な情報を得ようとする意図が実現されるための活動である。複数の鉱物が含まれている標本になれば、単一鉱物の標本では得られない前後関係や化学組成の違いといったものが情報として獲得できる。参考標本の有無、参考文献の有無も重要であるが、それとともに、分析判断する思考能力もまた標本の有効利用上留意しておく必要のある事項の一つであろう。
[加藤 昭 2016年8月19日]
『加藤昭他著『鉱物採集の旅』全5巻(1972~1983・築地書館)』▽『松井義人・坂野昇平編『岩石・鉱物の地球化学』(1992・岩波書店)』▽『地学団体研究会編『新版地学教育講座3 鉱物の科学』(1995・東海大学出版会)』▽『クリス・ペラント著、砂川一郎監修『岩石と鉱物の写真図鑑――オールカラー世界の岩石と鉱物500』(1997・日本ヴォーグ社)』▽『日本鉱物倶楽部編著『地球の宝探し――全国鉱物採集ガイド』改訂版(1998・海越出版社)』▽『飯山敏道著『地球鉱物資源入門』(1998・東京大学出版会)』▽『堀秀道著『楽しい鉱物学――基礎知識から鑑定まで』新装版(1999・草思社)』▽『松原聰監修『鉱物カラー図鑑』(1999・ナツメ社)』▽『牧野和孝著『カラー版 鉱物資源百科辞典』(1999・日刊工業新聞社)』▽『和田維四郎著『本邦鑛物標本』『日本鑛物誌』復刻版(2001・東京大学出版会)』▽『磯部克著『人生を豊かにする鉱物の博物誌』(2002・文芸社)』▽『木股三善・宮野敬編『原色新鉱物岩石検索図鑑』新版(2003・北隆館)』▽『八川シズエ著『元素でわかる鉱物のすべて』(2011・中央アート出版社)』▽『エリック・シャリーン著、上原ゆうこ訳『図説 世界史を変えた50の鉱物』(2013・原書房)』▽『松原聰監修・野呂輝雄編著『鉱物結晶図鑑』(2013・東海大学出版部)』▽『寺島靖夫著『探検!日本の鉱物』(2014・ポプラ社)』▽『松原聰著『美しすぎる世界の鉱物――カラー図鑑』(2014・宝島社)』▽『ジェフリー・E・ポスト監修、ロナルド・ルイス・ボネウィッツ著、伊藤伸子訳『ネイチャーガイド・シリーズ 岩石と鉱物――手のひらに広がる岩石・鉱物の世界』(2014・化学同人)』▽『松原聰監修『鉱物・宝石大図鑑』(2014・成美堂出版)』▽『キンバリー・テイト著、松田和也訳『美しい鉱物と宝石の事典――ロイヤル・オンタリオ博物館名品コレクション』(2014・創元社)』
自然界に産出する均一な物質(多くは無機質)でほぼ一定の化学組成をもつもの。多くは結晶状態であり,原子は独自の規則正しい配列の原子構造を保つ。原子配列が外形に現れ,結晶面と呼ばれる平面でかこまれた規則正しい凸多面体を示すことも多い。自然界に産出するという面からいえば,鉱物はそれ以上小さい単位に分解することのできない単一の相を形成するものである。岩石は1種類または2種類以上の鉱物が集合し形づくる多相系の集合体をなすものである。もともと地球の外殻をなす地殻の構成物が主要なものであるが,金星,火星,月などの固体の外殻,また隕石なども鉱物の集合により成り立っているので,地球以外の天体の鉱物に,例えば隕石鉱物とか月鉱物などの名称をつけ,地球の鉱物とは区別するが,鉱物に含めて扱う。このように鉱物は本来,天然の物質を対象としたものであるが,一方,人為的に製造される無機結晶があり,これらは人工鉱物(あるいは人造鉱物,合成鉱物)の名称で呼ばれる。そのなかには,それを目的として合成される場合,例えば人造ダイヤモンドなどの場合と,二次的に発生する場合,例えば製鉄操業に伴って発生する高炉スラグの構成鉱物などが存在する。なお天然産出の物質のなかには,前に述べた鉱物の本来の定義とは異なるものでも,便宜的に鉱物とほぼ同等に取り扱われるものが少数ある。例えばアルミナシリカゲルのように天然産無機物質であって非晶質であるもの,また常温では液状を呈する自然水銀,またグアノ堆積中に産出する含水シュウ酸アンモニウムのような有機質結晶などである。
鉱物が自由な空間において結晶した場合は,本来その鉱物の示す規則正しい対称性をもつ凸多面体の結晶形態を示し,この場合を〈自形〉を示すという。岩石の空隙(晶洞)中に熱水より生じた水晶の結晶はその例である。これに対し,岩石を構成する鉱物の多く,例えば花コウ岩中の石英などは,他の鉱物の間をみたして結晶し,〈他形〉を示している。
結晶はその示す独特な外形により次のような呼び方がある。すなわち一方向に延びた場合,結晶が大きく成長していると柱状,やや細くなると針状,さらに細くなると毛状,一方向に扁平である場合,結晶が大きく成長すると板状,やや細くなると葉片状,さらに細くなると鱗片状と呼ぶ。また球状を示す場合,さらに球が集合した魚卵状,表面が半球の集合によって構成されたブドウ状などの形状がみられるが,これらの場合は針状結晶が放射状に集合してその形をつくることが多い。毛状結晶は集合して羽毛状,樹枝状を示す場合もある。自形結晶の規則的集合状態の特殊な例として,2個以上の結晶が結晶軸を互いに平行にして集合する平行連晶の例がある。また,2個以上の結晶がおのおの規則的な方位の下に接合結晶することがある。これを双晶と称する。その接合の方位は結晶の結晶構造と密接な関係をもつものである。
外形が特殊な状態を示す場合として,結晶生成後の地質環境の変化などのため,原子配列の変化,化学組成の変化が起こり,もとの外形を保ったまま異種鉱物に変化した仮晶もある。
一つ一つの鉱物種はそれぞれ特有の物理的性質をもつ。それらには後述する鉱物の鑑定に有効に使用されるものもある。次に代表的な物理的性質を示す。
(1)比重 鉱物はその化学組成,結晶構造の相違により幅広い比重の分布がみられ,1以下より20くらいのものも存在するが,2~4の範囲のものが多い。
(2)へき開,裂開,断口 鉱物を破壊した場合にその破面は鉱物ごとに異なる状態を示す。へき開はその鉱物の結晶方位に関係のある特定の方向に平面を示して割れる現象であり,結晶構造,化学結合などと明瞭な関係をもつ。裂開とは,通常へき開がみられない鉱物で,特定の結晶だけが特定の結晶面にそって割れやすいことをいい,その破面が平面を呈することにおいてへき開と同様であるが,その結晶構造などとはそれほどの関係はなく,集片双晶,内部に生じた応力,包有物の配列などにより発生するものと考えられる性質である。また不規則な破面を示す場合を断口と呼び,ガラスの破面に現れる不整形の同心円状の形となる貝殻状断口(水晶などにみられる),木材を折った状態の裂木状断口のほか,平滑状断口,土状断口などがある。
(3)硬度 鉱物は一般にもろく,いろいろ異なった硬さを示している。通常は硬度の標準となる10種の鉱物を用い10段階の表示を行うモース硬度(モース硬度計)を用いて示している。
(4)磁性 鉄属元素を含有する鉱物の一部には,磁性を示すものがあり,磁性鉱物と呼ばれる。磁鉄鉱はその代表例である。
(5)焦電気 加熱することによって,例えば電気石などの結晶の両端に異種の静電気を帯電する焦電性(焦電気)を示すものもある。
(6)圧電気 圧力(衝撃)を加えた場合,結晶の両端に異種静電気の帯電がみられる圧電性(圧電気)を示すものもある。
(7)ルミネセンス 蛍石のように鉱物の一部には,光,熱,電子線などのエネルギーを与えた場合,これを吸収してその鉱物特有の波長の光を発生する特性(ルミネセンス)をもつものがあり,外部よりエネルギーを受けている間のみ発光する場合を蛍光,その後もしばらく発光が持続する場合をリン光と呼ぶ。約200種の鉱物は紫外線の照射により蛍光またはリン光を発生するため,鉱物の鑑定,特別の鉱石の探鉱などに利用されている。
(8)電気伝導度 金属元素鉱物はすべて良好な電気伝導性をもつが,金属の硫化鉱物の多くも導電性を示す。また硫化鉄鉱物の一つである黄鉄鉱の一部には半導体としての特性を示すものもあるが,その性質は結晶に含有される微量成分によるものとされている。
(9)光学的性質 鉱物はそれぞれ独自の結晶を形成している。そのため一つ一つが特有の光学的性質を示し,それぞれの結晶光学性をもつ。(a)透明度 通常数mmの厚さを基準に,光の通過する度合に応じ,透明,不透明,その中間を半透明と呼ぶ。またこれにより鉱物を不透明鉱物と透明鉱物に分けることがある。前者は金属元素鉱物,一部の金属硫化鉱物,酸化鉱物などであるが,それらのなかには赤外部の波長を通過させる種もある。また透明鉱物も多くは薄くした場合に可視光線の透過性を示す種であり,一部には生成後の変化により透過度の弱くなる場合もある。(b)透過光についての色彩 特に通過する方向により色彩を異にする性質を多色(たしき)性という。(c)複屈折 透過光に関して結晶の方向により特定の屈折率をもち,さらに方向により異なる値の複屈折を示す現象も認められる。(d)色 鉱物はそれぞれ異なった色彩をもつが,それはそれぞれの鉱物の結晶構造,化学組成などの相違により現れるものである。その鉱物が本来もつ色を自色と呼び,これに対し,化学組成は同じでも,微量成分の存在などのため示す他の色を他色と呼ぶ場合もある。例えば方解石は無色透明または白色の結晶として産出するが,その成因の特殊性によって,カルシウムの一部をマンガンにより置換することにより桃色,紅色を呈する場合がある。しかし鉱物の呈色にはその原因が不明の場合もある。例えばルビーの紅色の原因については,少量含有されるクロムによるものとする説と,結晶中に散在する異種微少結晶の包有物に起因するとする説もあり,問題が残されている。(e)光沢 鉱物の呈色は表面における反射光だけが観察される場合と,照射された光線の一部が鉱物内に透過し,その内部より反射された光と表面の反射光とが重複して観察される場合とがある。この現象は鉱物の光沢として明瞭に認められる。すなわち鉱物表面において可視光線が大部分反射される場合は,金属の表面で観察されると同様な光沢,すなわち金属光沢を示す。金属鉱物,多くの金属の硫化鉱物などの示す光沢である。普通の透明鉱物の多くは,表面の反射光と一部内部に透過した光とが混合したための光沢,すなわちガラス光沢(はり光沢)を示す。多くのケイ酸塩鉱物,例えば長石類はその代表的なものである。ただしこの場合,屈折率の高い鉱物,例えばダイヤモンドなどは特有の強い光沢を現しダイヤモンド光沢(金剛光沢)を示す。白雲母のように一方向に明瞭なへき開の認められる鉱物では,その方向に垂直方向より観察した場合,真珠光沢を示す。また透明度のやや低い鉱物表面に現れることの多い,油の表面にみられるような光沢を樹脂状光沢と呼ぶ。(f)星彩,変彩 鉱物と光との関係についてはいくつかの興味深い現象が存在する。例えばスタールビー,スターサファイアのように特定の方向より強い光をあてると六方の細い光の筋を示す現象があり,星彩と呼ばれる。また鉱物の方向が変化するのにともなってその色彩に変化の生じることがある。例えばダイヤモンドのように著しい光の分散のために現れる色の変化やオパール(貴タンパク石)のように内部構造に起因する色彩の変化が認められるが,このような現象を変彩と呼ぶ。また普通のタンパク石にみられるような乳濁色はタンパク光とも呼ばれている。
このような各種の光学性は鉱物によりそれぞれ特有の値と性質も示すものであるため,偏光顕微鏡下に薄片を用いて鉱物を観察し,既知の光学性を利用することによって鉱物種を決定することも可能である。この方法は鉱物の決定を行うにあたり長年にわたって用いられてきた手法であって,現在並用されているX線粉末回折法とともに鉱物学に欠くことのできない方法である。
(10)放射性 鉱物のなかにはウラン,トリウムなどを含有し放射性をもつものもあり,放射性鉱物と呼ばれている。センウラン鉱,モナザイトなどいくつかの鉱物がこれに属する。またこのようなウラン,トリウムを含有する鉱物では,放射線のためそのもっている結晶構造を破壊され(放射線損傷),可視光線およびX線に対し非晶質化した現象を示すことがある。このような変化をメタミクト化作用といい,その状態となった鉱物をメタミクト鉱物と呼ぶ。多くは結晶構造に複雑な結合をもつ鉱物にみられるものであって,代表的な鉱物としてはサマルスキー石があげられる。
鉱物の化学的性質は主としてその化学組成によるものである。例えば方解石などの炭酸塩鉱物は,塩酸などの無機酸を用いればその多くは二酸化炭素を発生して溶解する。また鉱物の化学的特性として陽イオン交換性を有する種のあることがあげられる。例えば粘土鉱物のモンモリロナイト類および沸石類鉱物群がそれである。沸石類では100~200meq./100g(eq. は当量)程度の値を示す特性をもつ。この性質はこれらの鉱物を無機工業材料として利用する場合の特性ともなる。
鉱物の生成にはいろいろの場合がある。それは鉱物の生成される地球における位置とも密接な関係をもち,その環境が高温・高圧の状態から常温,1気圧の状態の範囲で著しい相違がある。前者は地球深部での,後者は地表近くでの状態にほぼ一致する環境である。しかし,温度,圧力はそれぞれ独立に変化することもあり,そこから複雑な鉱物生成の環境が導き出される。各鉱物はそれぞれの環境に対応して,かつその場において供給された化学組成により晶出形成される。地質現象の方面よりそれらの場合を示すと大略次のようになる。(1)マグマ(液相)より鉱物(固相)の生成する場合にみられる火成岩の造岩鉱物(岩石を構成している鉱物)の生成。その一部には,残存する揮発性成分に富むマグマよりのペグマタイトの形成も含められる。(2)地下深所においてマグマより分離した高圧揮発体と岩石との反応による接触交代作用,揮発体の主成分である水蒸気の熱水化にともなう熱水作用などによる鉱物の生成。(3)地表における風化作用などによる鉱物の生成の場合。地表における水中の溶存成分の沈殿による鉱物の生成,鉄バクテリアなど生物の作用もともなう鉄鉱床の生成などの例を含む。また地表における水分の蒸発による蒸発岩の生成,岩塩層の形成などの場合もある。(4)さらにこれらの鉱物生成の場合に加え,地下においてすでに形成されていた岩石の構成鉱物相が,その環境において発生する高圧・高温によりその環境に合致するよう変成する場合もある。変成作用,続成作用による鉱物生成の場合である。
鉱物はその生成の時期により,初成鉱物すなわち一次鉱物と,これら一次鉱物が生成後その存在する環境に著しい変化が生じ別種鉱物に変化して形成された二次鉱物に分けられる。例えば一次鉱物である硫化鉱物類の集合体が天水または地表近くでの熱水などのように酸素を溶存する水により酸化分解を受け,硫化鉄鉱物が針鉄鉱などの含水酸化鉄鉱物に変化する場合,さらに反応を行った水中に溶出した成分がふたたび晶出する場合がある。
この例としては含銅硫化物の分解により生じた水溶液より晶出するタンバンや,硫化鉱物中に含ヒ素硫化鉱物を含有する場合に生じるスコロダイト,オリーブ銅鉱などがあげられる。また酸性火成岩類の風化作用により生じた粘土鉱物のハロイサイト,カオリナイト,さらにそれらの風化作用により生じたギブサイトなども二次鉱物の一種である。その分解過程の一部を,長石類を出発物質として示せば次のようになる。
この分解過程はアルミニウム鉱石ボーキサイトの成因の一端を示すものでもある。このように二次鉱物の成因は粘土鉱物の生成,また含水鉱物の成因とも関連の深い地質現象である。ただし粘土鉱物,含水鉱物ともに一次鉱物として熱水より生成する場合もあるので留意が必要である。
すでに述べたように鉱物はいろいろの特徴によって区分されているが,鉱物種の分類としては,それぞれの化学組成と結晶構造の類型を組み合わせて行う方法が用いられている。化学組成としては,簡単な種よりあげると,元素鉱物,酸化鉱物,硫化鉱物,ハロゲン化鉱物,塩類鉱物(ケイ酸塩を含む),その他となる。
鉱物のなかには同一化学組成をもつがその結晶構造に異なる形式を示すものがあり,多形あるいは同質異像と呼び,この関係にある鉱物も別種の鉱物となる。このような根拠のもとに約3500種(亜種などを含め5000種ともいわれる)の鉱物を分類しているが,その代表的なものを,表に示す。なお,主として火成岩や変成岩を構成する造岩鉱物を有色鉱物と無色鉱物に区分し,その割合により分類を行うことがある(色指数)。
鉱物の命名にあたっては,その鉱物の特性,化学組成などを考慮した場合が多い。例えば輝安鉱は主成分であるアンチモンとその示す鉛色を呈する輝度の強い金属光沢により命名されたものである。また古い歴史をもつものとして水晶の例がある。石英の透明結晶を一般に水晶と呼ぶが,これはあたかも水晶が水の結晶であるとして名称が生まれ,現在までも使用されているのである。このほかには産地名による場合がある。スペインのアンダルシア地方の産出鉱物であることによる紅柱石の英名andalusiteや,日本の阿武隈石の例などがあげられる。また人名に由来する例もあり,著名鉱物研究者を記念してその名前を用いる場合,例えば小藤石などの例がある。また亜種を示す場合にその化学成分の一部を前置するものがあり,含ヒ素四面銅鉱をヒ四面銅鉱と呼ぶのがその例である。
X線結晶学が発達する以前においては,鉱物種の決定は,その化学組成と,結晶形態に基づく結晶学的な性質によって行われてきた。現在,鉱物種の決定は化学組成とその結晶構造の類型とを合わせて行っている。化学組成の決定は精密な化学分析法を用いてその全分析を行い,次いでその化学式をつくり,さらに別途検討した結晶構造に基づきその構造式を定める。一方,主としてX線を用いて行うその鉱物の結晶構造の解析により,鉱物の属する結晶系,空間群の決定,単位格子の形状の決定を行う。このように化学構造式および結晶構造の特性を明らかにしたのち,既報の鉱物のデータに対比してその同定ならびにその属する鉱物種としての特徴を明らかにする。ただし,まれには既報の鉱物種に同定されない種である場合もあり,その鉱物は新鉱物(種)となる。この場合は,国際的な組織である国際鉱物学連合にその鉱物の性質を報告し,新種であることが確認されたのち新たな鉱物種として記載されることとなる。現在,全世界では1年間に数十種類の新鉱物が報告されている。
鉱物種の決定は以上の方法で行われるが,通常鉱物を取り扱う場合はより簡単な手法により行われ,鉱物鑑定と呼ばれる。その操作の大半は鉱物の観察結果によって行うものである。すなわち,色彩,光沢,外形,結晶形態などの観察その他の肉眼鑑定に加え,手に取り上げた場合の大略の比重,冷たさなどの触感その他を用いた方法,さらに簡単な鑑定用器具を用いた方法,例えば条痕板を用いての条痕色の観察,モース硬度計による硬度の測定などを加えて行う。この場合,鉱物の諸性質の記憶によって行うものであるが,さらに鉱物鑑定表を活用して行うことも多くみられる。鑑定表はいくつかの方法によって作成されているが,一例を示せば次のようになっている。第1段階に鉱物の光沢別にし,それぞれのなかで第2に硬度--簡単に区別可能な方法,すなわち爪,銅貨,ナイフの刃のそれぞれで傷がつくもの,次いでナイフの刃では傷がつかないもの--,第3として色彩,透明・不透明,比重,形態,へき開,断口などの諸性質により順次決定を行うよう配慮されたものである。なおこの場合に条痕色を用いて鑑定の手法としているが,この条痕色とは鉱物を粉末にした場合に示す色彩のことであり,特に不透明鉱物の区別を行う場合に有効である。例えば黄金色ないし真鍮(しんちゆう)色,金属光沢の鉱物について,その条痕色は金は黄金色,黄銅鉱は緑黒色,黄鉄鉱は黒色である。また透明鉱物であっても濃色を呈する場合に有効なこともある。
造岩鉱物の鑑定には,岩石薄片から偏光顕微鏡下の観察により行うことが多い。この方法は薄片中の鉱物の光学性を観察することを中心にして,その形態,色彩(特に多色性のある種については重要である),屈折率,複屈折などの諸性質を利用して行う。また鉱石などの構成鉱物の鑑定には,鉱物の研磨面を反射偏光顕微鏡下に観察して鑑定を行っている。その場合は反射光によって観察するものであって,各鉱物の反射光の強度,色彩に加え,鉱物種別の硬度差による研磨面の凹凸などの観察も併せて行われる。
鉱物の鑑定にあたって,それぞれの鉱物の化学組成や化学反応を用いてその補助的方法とする場合がある。例えば簡単な定性分析法としての吹管分析法を鑑定に利用することは古くから行われていた方法であるが,さらに鏡検分析法の併用も行う場合がある。また反射顕微鏡下の鑑定で,特殊試薬を用いてのエッチング試験を併用することもその例である。
第2次大戦後は,自記記録式X線粉末回折装置の利用発展にともない,X線粉末回折結果を鉱物鑑定に活用する例が多くなり,特に最近は常法とされつつある。それぞれの鉱物のそれぞれの回折線の面間間隙と強度の表示資料(例えばASTM回折表)を対比して鉱物を決定する方法である。特にこの方法は粘土などの微粉末試料の鑑定,さらに混合物の鑑定に有効である。
鉱物はきわめて多岐にわたり,われわれ人類の生活面に利用されてきた。その実態をわずかな紙面において述べることは不可能であるが,その一端を示す。まず,有用金属元素を含有する鉱物が,それぞれの元素の原料鉱物として利用されていることである。次いで,鉱物の物理性を利用する場合があげられる。すなわち,耐火度の高いカオリン類を焼成して耐火煉瓦として利用する場合,また他の粘土類と混合焼成し各種陶磁器原料として利用する場合,さらにその微粉末性,滑性などを利用する製紙用クレーとしての利用,また化粧品,薬品類の混合材としての利用も知られている。また特殊な物理性の利用例として,硬度の高いルビーを時計などの精密機械の軸受石として利用するほか,硬度が高く美麗な鉱物の宝石,飾石としての利用は人類の歴史上に周知のことである。このほかに鉱物に含有される成分の化学薬品,無機化学肥料への利用,例えば前者の例としての蛍石中のフッ素のフッ素化合物への利用,後者の例としてのリン灰石中のリン酸分のリン酸肥料としての利用などがあげられる。なお,最近は人工鉱物の利用も活発であって,合成ルビーの精密機械の軸受石,宝石,またレーザー発光体,さらに人造ダイヤモンドの高級研磨材としての利用などがあり,天然鉱物の利用面を置換しつつあることも明らかである。また人工鉱物の利用として,天然には存在しない結晶,例えば超高純度のゲルマニウムおよびシリコンの単結晶を成長させ,これを薄板とし,極微量のホウ素,リン,ヒ素などをドープしてIC,LSI,超LSIの基盤とする用途があげられる。さらに人工鉱物の新技術として,主として酸化物の高純度微結晶焼結体を工業材料として利用するファインセラミックスの分野がある。
執筆者:湊 秀雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
地殻やマントルを構成する最小単位であり,物理化学系での一つの相(phase)という意味での均質な物質.地殻やマントルの物質を問題にする場合は,鉱物を最小単位とする.鉱物のなかにはダイヤモンドや自然金のように,単一の元素でできているものもあるが,ほとんどの鉱物は数種類の元素が結合した化合物の形をとる.鉱物の種類は,大きく次のように分けられる.( )内にその代表例を一つ示す.元素鉱物(ダイヤモンド,C),酸化鉱物(磁鉄鉱,Fe3O4),ケイ酸塩鉱物(石英,SiO2),含水ケイ酸塩鉱物(白雲母,K2Al4[Si6Al2O20](OH)4),硫化鉱物(黄鉄鉱,FeS2),ハロゲン化鉱物(岩塩,NaCl),硫酸塩鉱物(セッコウ,CaSO4・2H2O),炭酸塩鉱物(方解石,CaCO3),リン酸塩鉱物(りん灰石,Ca5(PO4)3・(F,Cl))などである.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
…無機質ともいう。食物中には少量しか含まれないが,動物にとって必要な無機成分のこと。体を構成する諸元素のうち,炭素,水素,酸素,窒素を除いた成分で,ヒトの場合は,カルシウム,リン,ナトリウム,カリウム,塩素,マグネシウムなどがこれにあたり,食物中の量として1日当り100mg以上摂取する必要がある。ミネラルの生理作用は,(1)タンパク質やその他の化合物と結合して,生体構成成分となる,(2)血液や体液の浸透圧やpHを正常に保つ,などがある。…
※「鉱物」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
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