日本大百科全書(ニッポニカ) 「世界同時株安」の意味・わかりやすい解説
世界同時株安
せかいどうじかぶやす
世界のほとんどの国を巻き込む株式相場の一斉急落。金融危機、信用不安、企業業績の悪化が連鎖的に広がり、手元資金を確保するための株式売却が世界規模で起きる現象。1929年から始まった大恐慌、1953年3月5日のスターリン暴落、1987年10月19日のブラック・マンデー、2008年9月のアメリカ大手証券会社リーマン・ブラザーズの破綻(はたん)に端を発するリーマン・ショックなどが該当する。世界同時株安は個人資産の減少(逆資産効果)を通じて住宅、自動車、家電製品などの消費を冷え込ませ、これが広範な産業の生産縮小や企業倒産につながり、賃金削減や労働者の解雇を通じてさらなる消費減退を招くという悪循環に陥る傾向がある。この結果、世界各国が同時不況に陥るケースが多く、大恐慌時にアメリカ大統領フランクリン・ルーズベルトがニューディール政策をとったように、各国とも公共投資拡大などの景気刺激策を打ち出すことが多い。また自国産業を保護するため、保護貿易主義や自国通貨安定策をとりがちである。国際取引所連合は世界同時株安を防ぐための共通ルール作成などに取り組み、各株式取引所は値幅制限や一時的な緊急取引停止措置(サーキット・ブレーカー制度)などをとっているが、世界同時株安に歯止めをかける機能を果たしているとはいい難い。
一般に世界同時株安が起きる前は、実体経済が吸収しきれない過剰流動性が運用先を求めて世界各国の株式、為替(かわせ)、商品市場に流入し、実勢以上に高い相場が出現している。この状況下で、経済指標の変調、要人発言、自然災害、紛争・戦争などをきっかけに不安要因が顕在化し、株式市場から一斉に大量の資金流出が起きて世界同時株安が生じるとされている。21世紀に入って金融のグローバル化や貿易の自由化が進んだため、世界のほとんどの国に波及する傾向がある。2008年のリーマン・ショック以降、主要国が金融緩和政策をとっているため、ギリシア債務危機、中国経済の変調などが顕在化するたびに世界同時株安が起きている。また、千分の1秒単位で売買を繰り返す超高速取引(HFT)が普及したことで、売買が一方向に傾きやすく、これが世界同時株安を引き起こしやすくしている面もある。
[編集部 2016年3月18日]