翻訳|modulation
広義には,送りたい情報を通信路で送るのに適した形の信号に変換する操作をいう。狭義には,電気通信において,正弦波やパルス列などの搬送波が有するパラメーター(振幅,周波数,位相など)を,送りたい情報に従って変化させる操作をいう。単に変調という場合は,広義の意味で用いられることが多いが,振幅変調,周波数変調などという場合は,狭義の意味である。
広義の意味での変調は,要するに通信路容量との整合である。情報理論におけるシャノンの基本定理によれば,適当な符号化(変調)を行えば,情報源と通信路の整合(通信路容量を完全に利用し,しかも誤りのない情報伝送を行うこと)ができる。しかし,これは理想的な状態であって,現実には通信路容量を完全に利用することはできない。したがって,変調においてはできるだけこの理想的な状態に近づけることが重要である。
狭義の意味での変調も,目的は広義の意味の変調と同じである。具体的には,変調信号(情報)を伝送周波数帯に周波数変換すること,伝送路上での雑音や干渉などに強い波形に変えることである。変調方式の呼称は,変調信号,搬送波の種類によって異なってくる。変調信号がアナログで,搬送波が正弦波の場合の変調方式としては,振幅変調(AM),周波数変調(FM),位相変調(PM)がある(図1)。ただし,AM,FM,PMという用語は,変調信号がアナログで搬送波が正弦波の場合以外にも,それぞれ搬送波の振幅,周波数,位相を変化させる変調方式の総称としても用いられている。AMには,さらに両側波帯変調(DSB),単側波帯変調(SSB),残留側波帯変調(VSB)などの種類がある。また,搬送波を送るか送らないかの別もある。基本的なAMは全搬送波DSBで中波のラジオ放送などで用いられている。SSBは,上または下側波帯の一方のみを送る方式である。SSBは,DSBと比べて占有周波数帯域幅が半分ですみ雑音にも強い。SSBは,有線,無線の電話で広く用いられている。VSBは,片方の側波帯の全部ともう一方の側波帯の搬送波周波数に近い部分を伝送する方式である。この方式の占有帯域幅は,SSBよりもいくらか大きいが,SSBでは伝送がむずかしい変調信号の低周波分もひずみが少なく伝送できる。VSBは,テレビ放送の映像伝送に用いられている。FMとPMは,合わせて角度変調と呼ばれ,ほぼ同じ性質を有している。角度変調で広帯域伝送を行えば,広帯域利得が得られるため雑音に強くなる。この方式は,超短波のラジオ放送(FM放送)やテレビ放送の音声伝送などで用いられている。従来,移動無線においてもFMが用いられていたが,周波数有効利用の観点から最近はSSBに変わってきている。
変調信号がディジタルで,搬送波が正弦波の場合の基本的な変調方式としては,振幅偏移変調(ASK),周波数偏移変調(FSK),位相偏移変調(PSK)がある。PSKは,比較的簡単な復調回路でかなりよい誤り率特性を実現できる。そのため,PSKはデータ伝送において広く用いられている。一方,FSKの誤り率特性は,復調回路が簡単な場合はPSKよりも悪いが,複雑な復調回路を用いるとPSKよりもよくなる。そのため,FSKは前者の形では有線の低速データ伝送などで用いられている。また,後者の形では衛星通信におけるデータ伝送で用いられつつある。ASKは,データ伝送であまり用いられないが,ASKとPSKを組み合わせた振幅位相偏移変調(APK)という方式がある。この方式は,ASKやPSKと比べて,同一占有帯域幅で伝送速度を速くとれるため,有線,無線の高速データ伝送でしばしば用いられている。
搬送波がパルス列の場合の変調方式としては,パルス振幅変調(PAM),パルス周波数変調(PFMおよびPNM),パルス位置変調(PPM),パルス幅変調(PWM)などがある(図2)。これらは装置内や短距離伝送などで用いられている。
なお,広義の意味の変調は,情報源符号化と伝送路符号化に分けて考えることができる。このうち,伝送路符号化は狭義の意味の変調と誤り制御などの部分をいう。一方,情報源符号化とは伝送路符号化の前の段階における情報の変換操作をいう。情報源符号化のみを変調ということはほとんどないが,パルス符号変調,デルタ変調などの例外的な用語もある。パルス符号変調(PCM)とは,音声や画像の伝送を目的としたアナログ・ディジタル変換のことである。また,デルタ変調とは,標本値伝送において,前の標本値からの変化分を伝送することによって帯域圧縮を図る方式である。
執筆者:田中 良明
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
通信システムにおいて、伝送しようとする信号電流の振幅にあわせて搬送波の振幅、周波数、位相などのいずれかに変化を与え、情報をもった高周波電流を発生させる過程。音声や音楽などわれわれの耳に聞こえる音は、毎秒20ヘルツから10キロヘルツの範囲の空気の振動である。この空気振動をマイクロホンのような変換装置で同じ振動数と強さの電流に変換したものを信号電流といい、これを増幅してスピーカーに加えると元の音声や音楽が再現される。いまラジオを594キロヘルツにあわせるとすると、関東周辺ではNHKの第一放送が聞こえてくる。しかし594キロヘルツという高い周波数が耳に聞こえるはずはないから、この594キロヘルツの電波に20ヘルツから10キロヘルツの範囲にある信号がのって伝搬してきたと考えなくてはならない。この意味で信号をのせてくる電波を搬送波とよび、この搬送波に信号をのせる過程を変調という。搬送波は信号を伝送するための媒体で、信号の周波数より非常に高い周波数である。
信号を伝送するためにどうして高い周波数を変調する必要があるかというと、信号の周波数は低すぎて直接電波として放射させるには適さないからである。たとえば、音声信号のもっとも高い周波数成分である10キロヘルツの波長は30キロメートルで、4分の1波長のアンテナを用いても長さが7.5キロメートルとなる。送信や受信にこのような長さのアンテナを用いることは実際問題として不可能である。
この信号を、たとえば594キロヘルツの搬送波にのせて送信することができれば4分の1波長のアンテナの長さは約125メートルとなるから実用可能となる。さらに10メガヘルツの短波を搬送波として使用することになれば、2分の1波長のアンテナでも15メートルで足りることになる。これに伴って送信機や受信機を構成するコイルやコンデンサーも小型化され、通信システム全体が効率的なものになるのである。
変調には主として三つの方法がある。搬送波の振幅を信号電流の振幅に応じて変化させる方法を振幅変調、搬送波の周波数を変化させるものを周波数変調、搬送波の位相を変化させるものを位相変調という。搬送波が変調を受けると、搬送波を中心としてスペクトラム上で左右対称な側波帯が生じ、この側波帯と搬送波との合成されたものが、搬送波の振幅や周波数や位相の変化となるのである。
高い周波数を搬送波に使えば、より高い周波数の信号で変調することができる。これを利用して幅の広い信号周波数帯のスペクトラムを一定幅に分割して、その一つ一つに別の信号を与えて変調を行うと、一つの搬送波で周波数分割多重伝送を行うことができる。また、パルス技術を駆使して信号を符号化し、時間軸を個々の信号ごとに分割してパルスの流れをつくり、これを一つの信号と考えて搬送波を変調すれば、時分割多重伝送を行うことができる。前者は振幅変調に適し、後者は位相変調に適している。また、振幅変調は比較的簡易な通信システムに適し、周波数変調は必要な周波数帯幅に広げることによって周波数特性のよい高品質な信号の伝送に適する。位相変調はデジタル信号の誤りない高速伝送にもっとも適している点を利用してデータ伝送に用いられている。
また、光線やレーザーなどの強度を信号電流の振幅にあわせて変化させる過程、ならびにテレビのブラウン管などで走査画像を形成させるために、受信信号電流の強弱にあわせて画素に明暗を与える過程も変調という。
[石島 巖]
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
通信用の搬送波に信号に対応する変化を与えることで,これによって信号が搬送波にのって運ばれる.もっとも一般的な変調は振幅変調で,これは図のように一定振幅Aである搬送波の振幅が,信号の形に変化されるものである.
そのほか,搬送波の周波数を信号に応じて変化させる周波数変調があり,これはマイクロ波や雑音の少ない通信に用いられる.また,位相をかえる位相変調や,パルスを中間変調波とするパルス変調などがある.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 ASCII.jpデジタル用語辞典ASCII.jpデジタル用語辞典について 情報
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
宇宙事業会社スペースワンが開発した小型ロケット。固体燃料の3段式で、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発を進めるイプシロンSよりもさらに小さい。スペースワンは契約から打ち上げまでの期間で世界最短を...
12/17 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
11/21 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新