改訂新版 世界大百科事典 「九十五ヵ条提題」の意味・わかりやすい解説
九十五ヵ条提題 (きゅうじゅうごかじょうていだい)
1517年10月末,ウィッテンベルク大学の神学教授ルターが,教皇による贖宥の効力について,自己の見解を表明した個条文で,宗教改革の口火となったもの。贖宥は,本来,地上におけるキリストの代理としての教皇が,教会に対する信徒の特別な功労にもとづき,その犯した罪のつぐない(教会的刑罰)を赦免する慣行であった。ルターは,修道生活の中で,ひとの救いは善行によらず,もっぱら神の恵みへの信仰によることを確信していたので,当時ドイツで販売されていた贖宥状が,信徒を真の悔改めと唯一の救主キリストへの信仰から引き離すことをおそれ,贖宥問題をめぐる討論会のために,95の論題を公表したのである。しかし,ラテン語で書かれていたこの九十五ヵ条は,たちまち何者かの手でドイツ語に訳されて各地に広まり,大反響を生むこととなった。宗教改革の根本精神が,すでにそこに宿されていたためである。
執筆者:成瀬 治
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報