日本大百科全書(ニッポニカ) 「乳腺腫瘍」の意味・わかりやすい解説
乳腺腫瘍
にゅうせんしゅよう
乳腺に発生する腫瘍で、良性と悪性に分けられる。乳腺の良性腫瘍として多くみられるのは、乳腺線維腺腫と乳管内乳頭腫で、悪性腫瘍の大部分は乳癌(がん)である。ここでは良性腫瘍について述べる。
[山本泰久]
乳腺線維腺腫
乳腺組織の上皮および間質の両成分(線維性結合組織)からなる腫瘍で、一般に球形をした単発性限局性腫瘍の形態をとる。15~30歳の若年者に多い。腫瘤(しゅりゅう)は2センチメートル以下のものが多く、表面平滑、境界鮮明、可動性に富み、硬いが弾力性をもつ。自発痛、圧痛、乳頭分泌を伴うようなことはない。普通は経過観察を続け、増大傾向がみられる場合には腫瘤摘出術を行う。
[山本泰久]
乳管内乳頭腫
乳管内上皮から発生する腫瘍で、発生頻度は線維腺腫より少なく、年齢的には40~45歳に多くみられる。腫瘤は乳頭近傍にみられ、柔軟な球状あるいは索状で、圧迫すると乳頭分泌が促される。この乳頭分泌が特徴的な症状で、とくに血性分泌が多くみられる。
[山本泰久]
嚢胞内乳頭腫
乳頭腫のある乳管が拡大して嚢胞(のうほう)状になったものは嚢胞内乳頭腫とよばれ、この場合は腫瘤が大きくなる。治療としては、悪性化のみられない限り、腫瘍を含む乳管周囲の局所切除術、または腺葉切除術が行われる。
[山本泰久]
単純嚢胞
乳管の退行性病変と考えられる疾患で、一般に単純嚢胞とよばれる。乳管上皮の増殖による腺管の閉塞(へいそく)によるものと、発生機序が不明のものがある。5センチメートル以上の大嚢胞と2センチメートル以下の小嚢胞があるが、疼痛(とうつう)を伴い多発することが多い。内容は透明、淡黄色、茶褐色、暗黒色と多様で、粘度もさまざまで乳汁成分の濃縮したものもある。30~45歳に多発する。穿刺(せんし)吸引すれば治癒するが、しばしば再発する。癌の合併は1~3%といわれている。
[山本泰久]