乳がん(読み)にゅうがん(英語表記)breast cancer

日本大百科全書(ニッポニカ)「乳がん」の解説

乳がん
にゅうがん
breast cancer

定義

乳房内の乳腺(せん)に発生するがん(悪性腫瘍(しゅよう))。「乳管がん」と「小葉がん」に大別される。乳腺には腺葉という組織の集まりがあり、腺葉は乳管と多数の小葉で構成されている(母乳は小葉で産生され、乳管を通って乳頭まで運ばれる)。乳がんのうち約90%が乳管由来の細胞から発生する「乳管がん」、約5%が小葉由来の「小葉がん」で、まれに乳頭周囲のパジェット細胞とよばれる上皮細胞から発生する「パジェット病」などがある。病理診断に基づく組織型でも分類され、がん細胞が乳管や小葉の中にとどまっている状態を「非浸潤がん」、周りの組織(間質)に広がったものを「浸潤がん」とよぶ。浸潤がんではしこりが触知され、非浸潤がんに比べ転移や再発のリスクが高い。乳がんと診断される患者の80%以上は浸潤がんである。浸潤がんはさらに、その大半を占める一般型(乳頭腺管がん、充実腺管がん、硬がん)と特殊型(粘液がん、髄様がん、浸潤性小葉がんなど)に分けられる。

 乳がんがもっとも多く発生する乳房部位は外側上部(50%)である。次いで内側上部(20%)、外側下部(10%)、内側下部(5%)、乳輪部(5%)の順となっている。発症には女性ホルモンエストロゲンが深く関わっているため、「女性のがん」というイメージが強いが、男性もわずかながら罹患(りかん)する(罹患率は女性乳がんの1%程度)。乳腺には乳がんとの鑑別がむずかしい良性疾患が生じることもあり、乳腺症や乳管内乳頭腫、線維腺腫などがある。

[渡邊清高 2019年9月17日]

疫学・病因(危険因子)

統計

日本において乳がんで死亡する女性は2004年(平成16)に年間1万例を超え(1万0524例)、以後も増加を続け2017年に乳がんで死亡した女性は1万4285例で、女性のがん死亡全体(15万2936例)の9.3%を占めている。部位別にみると、大腸(2万3347例)、(2万1118例)、膵臓(すいぞう)(1万6823例)、(1万5481例)に次いで第5位の死亡数となっている。年齢階級別の死亡率は40歳以降大きく上昇し、50歳代後半でピークに達する。

 2014年に乳がんに罹患した女性は7万6257例(全国合計値)で、女性のがん罹患全体(36万5881例)の20.8%を占めている。部位別にみると、女性では乳がんの罹患数がもっとも多く、以下は大腸がん(5万7735例)、胃がん(3万9493例)、肺がん(3万5739例)、子宮がん(2万4944例)と続く。乳がんの罹患数は、2007年には5万6289例、2009年には6万1232例、2011年には7万2472例と年々増加している。年齢階級別の罹患率は30歳以降大きく上昇し、40歳代後半から50歳代前半にピークがある。

 経年的な推移をみるうえで、人口の高齢化の影響を除き、一定の年齢構成に調整した数値を比較する年齢調整死亡率は、近年は横ばい、年齢調整罹患率は増加傾向を示している。両指標ともに日本は欧米諸国より低値であるが、その差は縮まる傾向にある。

 また、欧米では閉経後の乳がん発症が多いのに対し、日本においては30歳代から増加し始める、比較的若い年齢から発症するがんとなっている(データ出典:国立がん研究センターがん対策情報センター)。

[渡邊清高 2019年9月17日]

要因

女性ホルモンのエストロゲンが乳がんの発症に深く関わっている。体内のエストロゲンレベルやエストロゲンへの暴露期間がリスク要因とされ、初経年齢が早い、閉経年齢が遅い、出産歴がない、授乳歴がないことなどが発生の危険性を高める。また閉経後の肥満、飲酒習慣、良性乳腺疾患の既往歴などもリスクとされる。経口避妊薬や閉経後の女性ホルモン補充療法など、体外からのホルモン追加でリスクが高まる可能性も指摘されている。

 2017年の世界がん研究基金(WCRF)と米国がん研究協会(AICR)による報告では、乳がんとの関連が確実な食物・栄養・身体要因として、閉経前乳がんでは「成人期の身長の高さ」、閉経後乳がんでは「飲酒習慣」「肥満」「成人期の体重増加」「成人期の身長の高さ」、可能性がある要因に、閉経前乳がんでは「飲酒習慣」「重い出生時体重」、一方、乳がんリスク低下の可能性がある要因として、閉経前乳がんでは「活発な運動」「減量」「授乳」、閉経後乳がんでは「運動」「若年期(18~30歳)の減量」「授乳経験」があげられている。また遺伝性乳がんの存在も知られており、乳がん患者全体の5~10%を占める。BRCA1遺伝子もしくはBRCA2遺伝子の変異が原因で、これらは同側乳房の乳がん再発、反対側乳房の乳がんや卵巣がんのリスクにもなる。

[渡邊清高 2019年9月17日]

分類

病理組織学的分類

日本乳癌学会の「乳癌取扱い規約」による組織学的分類(組織型分類)では、乳がんは「非浸潤がん」(14.0%)、「浸潤がん」(85.5%)、「パジェット病」(0.4%)の3型に大別される。非浸潤がんは「非浸潤性乳管がん」(13.8%)と「非浸潤性小葉がん」(0.2%)に、浸潤がんは「浸潤性乳管がん」(79.2%)と「特殊型」(8.6%)に分けられる。さらに浸潤性乳管がんは「乳頭腺管がん」(24.8%)、「充実腺管がん」(13.8%)、「硬がん(32.3%)」の3型、特殊型は「粘液がん」(2.9%)、「髄様がん」(0.4%)、「浸潤性小葉がん」(3.5%)など12種類に細分化されている。

[渡邊清高 2019年9月17日]

浸潤・転移様式

乳がんには、がん細胞が乳管の中を広がる「乳管内進展」と、乳管の壁である基底膜を破り、乳管の外の間質に広がる「浸潤」の、二つのおもな進展パターンがある。がん細胞が間質だけにとどまらず、他の部位で病巣を形成した状態が「転移」であるが、乳がんは他の固形がんと比較して、限局している状態であっても転移が起こりやすいがんと特徴づけられる。乳房近くの腋窩(えきか)リンパ節や皮膚、骨(椎体(ついたい)や肋骨(ろっこつ)、骨盤など)、肺、肝臓、脳などがおもな転移部位で、がん細胞が血液やリンパの流れにのって移行しそこで増殖する。骨や肺、肝臓、脳など、乳房から離れた臓器に発生する転移を「遠隔転移」とよぶ。

 再発については、乳房温存手術後、乳房内で起こる再発(乳房内再発)と、乳房切除術後、近傍の胸壁やリンパ節、周囲の皮膚に微小転移して発生する再発(局所再発)がある。

[渡邊清高 2019年9月17日]

症状・症候

初期には無症状のことが多く、乳がん検診マンモグラフィ検査)で指摘される例も少なくない。自覚症状としては、乳房や腋窩(わきの下)のしこり、乳首からの血性分泌物、乳首のびらん(ただれ)、乳房の皮膚のひきつれ、乳房の変形や左右差、乳頭の陥没などがみられることがある。転移した場合は部位によってさまざまな症状が現れる。乳房周辺のリンパ節に転移するとリンパの流れが滞って腕がむくんだり、神経が圧迫されて腕がしびれたり、骨転移では腰や背中、肩の疼痛(とうつう)、肺転移では咳(せき)や息苦しさを生じたりする。骨転移では骨折が起こることもある。脳転移によって頭痛、吐き気・嘔吐(おうと)、麻痺(まひ)、けいれんなどが起こることもある。肝臓への転移では症状は現れにくいことが多い。

 乳房のしこりは明確ではないが、皮膚が赤く、痛みや熱を伴う乳がんを「炎症性乳がん」とよぶ。ただし痛みやむくみなどは良性疾患の乳腺症や線維腺腫、細菌感染が原因の乳腺炎や蜂窩織炎(ほうかしきえん)などでも起こり、乳がんに特異的な症状ではない。

[渡邊清高 2019年9月17日]

検査・診断

検査・診断

(1)乳がん検診
対策型検診として実施されている乳がん検診は40歳以上の女性が対象で、2年に1回の受検が推奨されている。おもな検診内容は問診と乳房X線検査(マンモグラフィ検査)である。視触診はとくには推奨されていないが、実施する場合はマンモグラフィ検査と併用される。マンモグラフィ検査は40歳以上の女性の乳がん死亡リスクを低下させることが科学的に証明されており、乳がん検診の国際基準になっている。実際にアメリカやイギリスでは、マンモグラフィ検査の受検率の上昇に伴い、罹患率は上昇しているにもかかわらず死亡率は低下し続けている。日本ではがん検診受診率が先進諸国と比較し低いことが課題である(44.9%、2013年データ)。一方で近年では検査を受けることの不利益(偽陽性〈がんではないのに陽性と判定されること〉や過剰診断〈生命予後に関係のないがんが発見され治療されること〉)についても指摘されている。また、乳腺密度が高い40歳代では検診精度が低下することも知られている。

 従来、検診項目に含まれることが多かった超音波検査については、マンモグラフィ検査と併用した場合、マンモグラフィ検査単独に比べて40歳代の女性の乳がん発見率が高いことがわかっている。一方、超音波検査の実施により、治療不要の良性変化が過度に抽出される欠点もあり、乳がん死亡率を低下させるエビデンスは十分に示されていない。そのほかにもMRI検査やPET検査などが実施されることもあるが、いずれも対策型検診としての乳がん検診としては推奨されていない。

(2)原発巣の存在診断
マンモグラフィ検査などで乳がんが疑われた場合、病巣の一部を採取し、がん細胞の存在を顕微鏡で確認する病理検査・病理診断が行われる。がん細胞が確認されれば、その種類や性質などを精査する。病理検査には「細胞診」と「組織診」があり、前者は細胞、後者は組織を採取する。細胞診には乳頭からの分泌液を検査する分泌液細胞診と、病巣に細い針を刺し、吸引した細胞を検査する穿刺(せんし)吸引細胞診がある。細胞診は身体への負担が比較的少ないものの、偽陽性や偽陰性(がんなのにがんではないと判定されること)となる可能性がやや高い傾向がある。

 組織診は病理診断を確定するための検査で、「生検」とよばれる。生検では局所麻酔下で病巣組織を採取する。注射針より太い針を使用する針生検、さらに太い針を用いて十分量の組織を採取する吸引式組織生検(マンモトーム生検)、皮膚を切開して病巣の組織を採取する外科的生検がある。生検は腫瘍に関するより詳しい情報が得られ、確実な診断につながることから、近年では細胞診よりも生検が優先して行われることが多い。生検によって得られる具体的な情報は、がんの場合には浸潤の有無、腫瘍の大きさ、組織型、悪性度(グレードgrade)、増殖能(Ki67陽性細胞の割合)、ホルモン受容体の有無、HER2(ハーツー)タンパクの過剰発現あるいはHER2遺伝子増幅の有無などである。さらに、超音波検査やCT、MRIなどによる画像診断により、リンパ節転移の有無と個数、血管侵襲(病変周囲の血管やリンパ管にがん細胞がみられるか)、遠隔転移の有無などの評価が行われる。これらの情報と患者の年齢、卵巣機能(月経状況)などから治療法が検討されていく。

 がんの悪性度は細胞の形状から判断され、グレード1~3に分けられる。上位グレードほど悪性度は高く、転移・再発のリスクが高い。

 がん細胞の増殖能はKi67というタンパクが指標とされ、Ki67陽性細胞の割合(Ki67値)が高ければ増殖能が高く、悪性度も高いと判断される。

 HER2タンパクは細胞表面に存在して細胞増殖を調節しており、HER2タンパクが過剰発現した状態、あるいはHER2タンパクをコードする(もととなる)遺伝子が増幅した状態では転移・再発のリスクが高い。一方で、HER2タンパクは、特異的に結合する分子標的治療薬の標的になる。

 ホルモン受容体の存在は内分泌療法(ホルモン療法)の効果を左右する。ホルモン受容体陽性ではエストロゲンがホルモン受容体に結合してがん細胞を増殖させるため、エストロゲンの結合をブロックするホルモン療法が有効であることが推測できる。

 ホルモン療法をはじめとする薬物療法の選択では、これまでもホルモン受容体やHER2タンパクなどを指標に検討されてきたが、近年ではがん細胞の性質(生物学的因子)に基づいたサブタイプ分類が定着してきている。(a)ホルモン受容体(エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体)の有無、(b)HER2タンパクの有無、(c)Ki67値により乳がんを五つに分類するもので、このサブタイプによって治療方針を決定するという考え方である(後述)。

(3)その他の検査
乳がんと診断された後、治療前に実施する画像診断では、腫瘍の大きさ、反対側乳房内病巣の有無、腋窩リンパ節転移の有無と程度、遠隔転移の有無などが調べられる。これらはマンモグラフィ検査や超音波検査では完全に把握することが困難なため、造影剤を用いたCT検査やMRI検査、PET検査が実施される。これらの画像診断で腋窩リンパ節転移が認められれば、外科療法(手術)時に、乳房内の病巣とともに腋窩リンパ節の郭清(かくせい)(切除)が原則として行われる。画像診断で転移なし、あるいは転移の有無が判然としない場合にはセンチネルリンパ節生検が実施される。センチネルリンパ節とは、乳房内からがん細胞が最初に到着するリンパ節と定義され、このセンチネルリンパ節を同定して採取し、転移の有無を顕微鏡で確認する。センチネルリンパ節にがん細胞が認められなければ他のリンパ節にも転移がないと判断され、反対に転移があると判断されれば乳房の病巣とともに腋窩リンパ節の郭清が行われる。センチネルリンパ節生検を行うことによって、手術後のリンパ浮腫、腋窩や上腕の感覚異常などの、腋窩リンパ節郭清によって起こりうる後遺症を回避できる可能性がある。

 その他の検査として、骨転移の有無や位置を確認するために骨シンチグラフィ検査が行われることもある。また血液検査においてCEAやCA15-3などの腫瘍マーカーが上昇する可能性があるが、いずれも乳がんに特異的なマーカーでなく、おもに治療後の経過観察や再発の有無の確認、薬物療法の治療効果の評価などに用いられる。

[渡邊清高 2019年9月17日]

病期分類

乳がんの病期(ステージstage)は、腫瘍の大きさ、リンパ節転移の有無、骨や肺、肝臓や脳などへの遠隔転移の有無により分類され、治療方針の決定や予後の推測などの指標となる。日本においては「乳癌取扱い規約」(日本乳癌学会編)の進行度分類や、国際対がん連合(UICC)のTNM分類に基づいて病期分類が行われている。いずれも原発巣の大きさや状態を示すT因子(皮膚浸潤と胸壁浸潤の状況および腫瘍の最大径を評価)、リンパ節転移の有無を示すN因子(触診や画像所見をもとに評価)、遠隔転移の有無を示すM因子(画像所見などをもとに評価)の3因子から分類する。「乳癌取扱い規約」の進行度分類では、ステージ0(非浸潤がん)~Ⅳ(他臓器転移あり)まで8段階〔0、Ⅰ、Ⅱ(ⅡA、ⅡB)、Ⅲ(ⅢA、ⅢB、ⅢC)、Ⅳ〕に分けられている。UICCのTNM分類では手術後の検査結果によりステージⅠをⅠA期とⅠB期に分けているが、それ以外は進行度分類と同一である。

[渡邊清高 2019年9月17日]

治療

治療法の選択

乳がんの治療では、外科療法(乳房温存手術〈乳房部分切除術〉、乳房切除術〈乳房全摘術〉)、放射線療法、薬物療法(ホルモン療法、化学療法〈抗がん剤治療〉、分子標的治療〈抗HER2療法〉)が単独または複数組み合わせて行われる。基本治療は根治を目ざした外科療法であり、初期治療では他臓器への転移がみられない場合を中心に外科療法が検討される。転移・再発乳がんの治療では、延命や生活の質(クオリティ・オブ・ライフ、QOL)の維持に主眼が置かれ、薬物療法が治療の中心となる。

 「乳癌診療ガイドライン」(日本乳癌学会編)には、病期に応じた標準的な治療の方向性が提示されており、治療法の選択に際しての目安となっている。

[渡邊清高 2019年9月17日]

外科療法(手術)

手術可能と判断される乳がんの場合、乳房内のがんの大きさや進展範囲、患者の希望、身体状況などを考慮して術式が選択される。また必要に応じて乳房周辺の領域リンパ節郭清(切除)が行われる。

(1)乳房温存手術(乳房部分切除術)
乳房を全摘出せず、乳頭と乳輪を残した上で、腫瘍を周囲の正常乳腺を含めて部分切除する術式である。日本では現在もっとも実施割合の高い術式となっている(約60%)。乳房温存手術の目的は、乳房内再発率を高めることのないよう病巣を確実に切除しつつ、整容的に患者が満足できる乳房を残すことである。ステージ0~Ⅱに対する標準的な外科療法に位置づけられる。かつては乳房の4分の1程度を切除する扇状部分切除術が多く行われていたが、近年では術前の画像検査で腫瘍範囲を詳細に測定し、より狭い範囲を円形に切除する円状部分切除術が増加している。術後に放射線療法を実施し、乳房内再発を予防する。

(2)乳房切除術(乳房全摘術)
乳房全体を切除する術式で、がんが乳房の広範囲に広がっている場合などに選択される。胸筋を残すため、術後に腋窩が陥没したり、皮膚に肋骨が浮き出たりすることは少なく、従来行われてきたハルステッド法(胸筋+腋窩~鎖骨下リンパ節も切除する術式)や拡大乳房切除術(ハルステッド法+鎖骨上リンパ節と胸骨傍リンパ節の切除も加えた術式)などに比べると整容性にも配慮されるようになっているが、治療成績は乳房温存手術に放射線治療を併用した場合と同等との報告があり、近年は実施割合が低下している(約30%)。

 一方で、乳房皮膚、乳頭、乳輪を残し、皮下の乳腺を全切除する乳頭温存乳房切除術が整容性の面からも普及してきている。

(3)腋窩リンパ節郭清
乳房内のがん細胞が最初に転移するリンパ節のほとんどは腋窩リンパ節(わきの下の脂肪組織の中に埋め込まれるように存在しているリンパ節)であり、腋窩リンパ節を周囲の脂肪組織も含めて一塊(ひとかたまり)に切除することを腋窩リンパ節郭清という。転移の有無や転移個数を調べることに加え、再発を防ぐことを目的に行われる。

(4)乳房再建術
手術によって失われた乳房を形成外科の技術によって再建する手術である。自家組織を用いる方法と人工乳房(インプラント)を用いる方法があり、乳房切除術と同時に行う一次再建と切除術後期間をあけて行う二次再建に分けられる。自家組織による再建ではおもに腹部や背中の組織を移植し、乳房の形状を再現する。人工乳房による再建では皮膚を伸ばすエキスパンダーを胸の筋肉下に挿入し、その内部に生理食塩水を注入して乳房の形に膨らませ、エキスパンダーをシリコン製の人工乳房に入れ替える。手術を担当するのはおもに形成外科医となる。

 治療によって変化した外見を補い、術後のQOLの維持や乳房を失うことで生じる心理的ショックを和らげることを目的に行われるもので、実施は患者の希望に基づくが、乳房切除を行うすべての女性において検討されるべきものである。

(5)術後合併症
乳がんの手術範囲は乳房周囲の限定された部位であるため、内臓機能などの全身への影響は小さく、術後比較的早期に通常の生活に戻ることができる。一方、手術した側の腕や肩の運動障害(動かしたりあげたりがしにくくなる)、痛み、むくみ、倦怠(けんたい)感、感覚障害(しびれなど)が生じることがある。このため、術後には肩や腕の運動リハビリテーションが行われる。また腋窩リンパ節を切除した場合には、リンパ浮腫のために腕にむくみが生じることがある。リンパ浮腫は、術後間もないときから起こることもあれば、数年後に起こってくることもある。

 その他、片側の乳房切除により左右の身体のバランスが崩れ、歩行時などに不安定感を覚えることがある。乳がん術後用の補正用品や補正下着(乳房パットなど)の使用は、術後の胸部を保護しつつ身体の左右バランスや外見の整容性を保つのに役だつ。

[渡邊清高 2019年9月17日]

放射線療法

高エネルギーのX線や電子線などの放射線を体外から照射し、がん細胞の遺伝子を損傷させることで増殖の活発ながんを抑制する。手術同様、局所療法に位置づけられる。放射線は正常細胞も通過するが、がん細胞に比べてダメージを受けにくく回復しやすいため、がん組織を効率よく攻撃できる。乳房温存手術後に、温存した乳房やリンパ節などからの再発を抑制する目的で予防的に実施されたり、あるいは再発後、がん細胞の増殖や骨転移に伴う痛み、脳転移による神経症状などを軽減する目的で実施される。近年では外来での治療が主流となっている。

 最近では陽子線や重粒子線という特殊な放射線を使った治療が種々のがんに対して行われるようになってきたが、乳がんでは治療標的とする病変が体表に近く、X線や電子線で安全かつ効率よく治療できるため、陽子線や重粒子線による治療は健康保険の適用にはなっていない。

 放射線治療による副作用として、放射線照射部位の皮膚炎(赤み、熱感など)が治療中~治療後1、2週間にみられることがあるほか、皮膚の乾燥、倦怠感、食欲不振などが生じることもある。また、治療終了後、数か月を経て起こりうる晩期副作用として、肺炎、咳や微熱の持続などがある。

[渡邊清高 2019年9月17日]

薬物療法

従来、腫瘍の大きさやリンパ節転移の有無など解剖学的な所見に基づいて薬物療法が選択されてきたが、前述の通り、近年ではエストロゲン受容体、プロゲステロン受容体、HER2タンパク、Ki67の各生物学的因子に基づいた薬剤の使い分けが提唱されている。これらの因子に基づく分類は「サブタイプ分類」とよばれ、(1)ルミナルA型、(2)ルミナルB型(HER2陰性)、(3)ルミナルB型(HER2陽性)、(4)HER2型、(5)トリプルネガティブの5型に分けられる。

 おのおのの臨床病理学的特徴として、(1)ルミナルA型はエストロゲン受容体およびプロゲステロン受容体陽性、HER2タンパク陰性、Ki67低値、(2)ルミナルB型(HER2陰性)は、エストロゲン受容体が陽性または陰性、プロゲステロン受容体が弱陽性または陰性、HER2タンパク陰性、Ki67高値、(3)ルミナルB型(HER2陽性)は、エストロゲン受容体陽性、プロテステロン受容体が陽性または陰性、HER2タンパク陽性、Ki67低~高値、(4)HER2型はHER2タンパクのみ陽性、(5)トリプルネガティブはエストロゲン受容体、プロゲステロン受容体、HER2タンパクがすべて陰性(ネガティブ)の状態である。

 選択される薬物療法の基本は、ルミナルA型がホルモン療法、ルミナルB型(HER2陰性)がホルモン療法に加え、場合により化学療法、ルミナルB型(HER2陽性)が化学療法+抗HER2療法+ホルモン療法、HER2型が化学療法+抗HER2療法、トリプルネガティブが化学療法とされている。

(1)ホルモン療法
乳がんでは、がん細胞の増殖に女性ホルモンを必要とするタイプが全体の7~8割を占める。このタイプには女性ホルモンの働きを阻害する「ホルモン療法」の効果が期待される。対象となるのはエストロゲン受容体かプロゲステロン受容体のいずれかが認められるホルモン受容体陽性の乳がんである。使用されるのは抗エストロゲン薬(タモキシフェン、トレミフェン、フルベストラントなど)、アロマターゼ阻害薬(アナストロゾール、エキセメスタンなど)、LH-RHアゴニスト(黄体ホルモン放出ホルモン抑制薬。ゴセレリン、リュープロレリンなど)などで、閉経前患者では卵巣からのエストロゲン分泌を抑制するLH-RHアゴニストや、女性ホルモンのエストロゲン受容体への結合をブロックする抗エストロゲン薬、閉経後患者では微量に放出される男性ホルモンからのエストロゲン合成に関わるアロマターゼという酵素を阻害するアロマターゼ阻害薬、あるいは抗エストロゲン薬が用いられる。

 手術可能なホルモン受容体陽性乳がんでは、腫瘍を縮小させて手術を行うことで、切除範囲を小さくして術後の合併症や組織欠損を小さくすることを企図して、術前ホルモン療法が行われることがある。一方、手術後に微小な残存病変の根絶や再発リスクの低下を目的としてホルモン療法を行う場合には、薬剤の種類や再発のリスクなどにもよるが5~10年間程度治療が続けられる。

 ホルモン療法の副作用は殺細胞性の抗がん剤による治療に比して少ないものの、更年期障害様の症状(ほてり、のぼせ、顔面紅潮、発汗、動悸(どうき)など)、体重増加、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)が現れる場合があり、必要に応じて症状を緩和させる薬剤などを併用しながら治療を継続していく。

(2)化学療法(抗がん剤治療)
がん細胞は正常細胞と異なり、際限なく増殖し続ける性質がある。化学療法は殺細胞性の抗がん剤を用い、細胞増殖を制御している遺伝子の複製や転写機構に作用したり、がん細胞の分裂を阻害したりすることで異常な増殖を抑制する。

 根治目的で手術療法に併用して化学療法が行われる場合、術前に実施される化学療法(術前補助化学療法)と術後に実施される化学療法(術後補助化学療法)があり、前者は、腫瘍が大きい、術後の合併症や組織欠損が大きいなどのために手術困難な場合に、手術の根治性を高めることを目的に3か月~半年ほどかけて術前化学療法を行うことで、あらかじめ腫瘍を縮小させて手術を行うものである。後者は、手術による治療効果を高め、術後の転移・再発を防ぐため、潜在している微小転移を滅することを目的に行われる。術後補助化学療法では、作用が異なる複数の抗がん剤を併用し、効果的にがん細胞を攻撃する。

 また、手術が困難な進行がんや再発がんに対しても化学療法が検討される。手術不能・再発・進行乳がんの場合の殺細胞性抗がん剤の使用においては、効果と不利益(副作用や後遺症のリスク、コストなど)のバランスが重視される。殺細胞性抗がん剤による治療は、肺・肝臓・脳など生命予後に影響を及ぼす病変がある場合に、腫瘍の縮小や症状の軽減効果を期待して検討される。一方、転移を有する場合であっても生命予後への影響が少ないと考えられる場合には、がんの特性(ホルモン受容体の有無、HER2の発現、悪性度など)、患者の状態(全身状態、閉経の前後、臓器機能)、患者の希望(生活への影響、整容、治療方法やコストなど)などさまざまな側面からの検討が行われ、なるべく負担の少ない治療法が検討される。

 乳がんに使用されるおもな抗がん剤には、アントラサイクリン系薬剤(ドキソルビシン、エピルビシンなど)、タキサン系薬剤(ドセタキセル、パクリタキセルなど)、代謝拮抗(きっこう)薬(フルオロウラシル、カペシタビン、ゲムシタビンなど)、ビンカアルカロイド、エリブリンなどがある。がんの進行状態や患者の状態、治療反応性、過去の治療歴など複数の要素を考慮して治療薬が選択され、薬剤により経口または経静脈的に投与される。

 殺細胞性の抗がん剤は正常細胞にも影響を及ぼすため、使用にあたっては副作用が生じる。毛髪、口腔(こうこう)や消化管などの粘膜、血球をつくる骨髄などの新陳代謝が盛んな部位はとくに影響を受けやすく、脱毛、口内炎、下痢、白血球(好中球)や血小板の減少などが発生する。全身倦怠感、吐き気、手足のしびれ、筋肉痛、関節痛、皮膚や爪の変化、肝機能異常などがみられることもある。これらの副作用に対しては、予防や対策を講じながら、治療を円滑に進められるよう配慮される。好中球減少に対するG-CSF(顆粒球(かりゅうきゅう)コロニー刺激因子)製剤や、貧血に対する輸血の実施、吐き気・嘔吐のリスクが高い薬剤を使用するときの制吐剤の予防的な使用など、副作用に対する予防や治療・ケア(支持療法という)が、治療と同様に重視されている。

(3)分子標的治療(抗HER2療法)
分子標的治療は、がん細胞の増殖に関わる分子を標的とし、その働きをピンポイントで阻害する治療法である。乳がんではHER2タンパクががん細胞の増殖に強く関わっているため、この働きを選択的に阻害する抗HER2療法が行われる。使用される分子標的治療薬には、トラスツズマブ(商品名:ハーセプチン)、ペルツズマブ(商品名:パージェタ)、トラスツズマブエムタンシン(商品名:カドサイラ)、ラパチニブ(商品名:タイケルブ)などがある。乳がん患者の15~20%を占めるHER2陽性患者が対象になる。

 抗HER2療法は一般に、化学療法に比して副作用は少ないが、心機能低下や呼吸機能障害、インフュージョンリアクション(発熱、悪寒、頭痛、発疹、嘔吐などの一過性の急性輸注反応)、手足症候群(手足の赤み・腫(は)れ・ひび割れ・痛みなど)など、特有の副作用が生じることがある。

 分子標的治療薬の仲間には、がん細胞に栄養や酸素を供給する血管の新生を阻害するベバシズマブ(商品名:アバスチン)や、がん細胞の増殖に関わるmTOR(エムトール)タンパクの働きを阻害するエベロリムス(商品名:アフィニトール)、細胞分裂の制御機構を治療標的としたCDK4/6阻害薬であるパルボシクリブ(商品名:イブランス)やアベマシクリブ(商品名:ベージニオ)などもあり、乳がんの治療に用いられている。

 なお、若年発症の乳がん、乳がんや卵巣がんなどの家族歴を有する乳がん患者においては、BRCA1BRCA2遺伝子変異の検査が考慮される。遺伝性乳がんの治療薬として、BRCA1/2陽性の場合には、PARP阻害薬であるオラパリブ(商品名:リムパーザ)が適応となる。BRCA1/2遺伝子変異はDNAの損傷応答経路に異常をきたすことによって、乳がん・卵巣がんなどの若年発症をもたらす。オラパリブはがん細胞に特異的に作用し、BRCA変異をもつがん細胞に細胞死を誘導することで抗腫瘍効果を発揮する。一方で、BRCA1/2変異は生殖細胞系列変異であり、血縁者の発症リスクや、家族性卵巣がん・乳がん症候群(HBOC)の同定につながる可能性がある。ゲノム情報に基づく医療・予防の実施、患者・血縁者への検査前・検査後の遺伝カウンセリングの実施など、ゲノム医療提供体制の整備が進められている。

[渡邊清高 2019年9月17日]

経過・予後

集学的治療の進歩を背景に、乳がんの予後は他臓器のがんに比して比較的良好である。全国がんセンター協議会(全がん協)が公表している加盟32施設院内がん登録から算出された乳がんの5年相対生存率(2007~2009年診断症例)は、ステージⅠが100%、ステージⅡが96.0%、ステージⅢが80.8%、ステージⅣが37.1%と報告されている。一方で、治療後長期にわたって再発リスクがあるがんであり、たとえば根治的手術を行ったあとのホルモン療法について、再発のリスクや副作用のバランスを考慮した上で、10年間継続されることがある。

 分子標的治療薬の登場や効果的な治療レジメン(薬剤の組合せ)の開発、治療の副作用を軽減する支持療法の進歩などが、治療成績の向上、再発の抑制、症状緩和などに寄与している。

[渡邊清高 2019年9月17日]

その他

高濃度乳房

乳房内の乳腺濃度が高く、その分布が不均一である状態を「高濃度乳房」といい、日本人に多いことが知られている。乳がん検診(マンモグラフィ検査)の特性上、高濃度乳房では乳がんの病巣が発見されにくい傾向がある。そこで期待されているのが高濃度乳房に対する超音波検査の活用である。がん対策のための戦略研究「超音波検査による乳がん検診の有効性を検証する比較試験」(J-START(ジェイスタート)試験)が実施され、感度およびがん発見率が向上する結果が得られている。一方で死亡率減少効果は明らかではなく、超音波検査を検診に導入することの利益と不利益について、さらなる検討が進められている。

[渡邊清高 2019年9月17日]

糖尿病と乳がんの関連

糖尿病患者では一部のがんのリスクが高くなることが明らかにされている。乳がんはその一つで、インスリン抵抗性に伴う高インスリン血症や高血糖などが要因と考えられている。糖尿病と乳がんの関連については多くの臨床研究が行われ、糖尿病患者では非糖尿病患者に比べ、約1.2~1.3倍のリスク増であることが海外報告で示されている。

[渡邊清高 2019年9月17日]

『日本乳癌学会編『患者さんのための乳がん診療ガイドライン 2016年版』(2016・金原出版)』『日本乳癌学会編『乳癌取扱い規約』第18版(2018・金原出版)』『日本乳癌学会編『乳癌診療ガイドライン 2018年版』(2018・金原出版)』『〔WEB〕国立がん研究センターがん情報サービス『一般の方向けサイト(乳がん)』』『〔WEB〕国立がん研究センターがん情報サービス『がん登録・統計』』

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EBM 正しい治療がわかる本「乳がん」の解説

乳がん

どんな病気でしょうか?

●おもな症状と経過
 乳腺(にゅうせん)に発生するがんが乳(にゅう)がんです。乳房(にゅうぼう)のしこりで発見されます。しこり以外には、乳頭(にゅうとう)からの出血や乳汁分泌(にゅうじゅうぶんぴつ)、がん組織による乳房の皮膚にひきつれや、えくぼのようなくぼみができることがあります。患者さんの年齢や状態、考え方、がんの性質、大きさ、病期の進行度によって、手術療法、放射線療法、化学療法、内分泌療法(ホルモン療法)、および症状に対する緩和(かんわ)療法を組み合わせて治療方針が決定されます。
 近年、とくに再発・転移がんの生命予後が著しく改善したがんです。また、早期がんであっても、治療期間が年を超えることが多く、さらに根治(こんち)したかを確認する方法がないため、長期の経過観察が必要です。進行したがんでは、治療しながら社会生活をおくる患者さんが増加しています。このため、生命予後の改善のみならず、治療中および治療後の生活(サバイバーシップ)の質の改善が課題となっています。

●病気の原因や症状がおこってくるしくみ
 女性ホルモンとの関連が指摘されています。女性ホルモンにさらされている期間が長い環境である(出産経験がない、出産年齢が高い、授乳の経験がない)人は、そうでない人と比較すると発症のリスクが上がります。大量のアルコールや肥満との関連も指摘されています。(1)
 また、日本の乳がん患者の5~10パーセントで遺伝性の関与が推測されます。遺伝子の異常として、BRCA1(breast cancer gene Ⅰ)、BRCA2(breast cancer gene Ⅱ)などがあります。

●病気の特徴
 日本の女性で乳がんに新たにかかった人は2010年で約7万人と推定されています。女性のかかるがんのなかでもっとも多いがんです。(2)
 乳がんによる死亡者数は、2013年で13,230人でした。(3) 40歳代後半と、60歳代前半に患者数が多く報告されています。腫瘤(しゅりゅう)を自覚して診断された人が約半数、自覚症状がなく健康診断で発見された人が4分の1でした。(4)
 ごくまれ(1パーセント未満)に男性にも発病することがあります。


よく行われている治療とケアをEBMでチェック

[治療とケア]マンモグラフィーによる乳がん検診について
[評価]☆☆☆☆
[評価のポイント] 40~74歳の女性では、年1回もしくは2年に1回のマンモグラフィーによる検診で、15パーセント程度、乳がんによる死亡が減少します。(5) 近年、マンモグラフィーによる検診の有無で乳がんによる死亡率に差がないという報告もされるようになりました。乳がんの治療成績が改善したためと考えられています。(6)
 乳腺組織が発達しているためにマンモグラフィーが白っぽくなり、乳がんが発見しにくい40歳代については、2年に1回のマンモグラフィーに超音波検査を追加すると乳がんの発見率は高くなります。しかし、同時に過剰診断の率も上がります。乳がん死亡率を減少できるかはまだわかっていません。(7)
 また、検診の有無にかかわらず、胸に腫瘤を自覚した段階で、乳腺外科などを受診することが大切です。さらに、母親や姉妹に乳がんや卵巣がんにかかった人がいるといった、遺伝性の関与の高い女性は、25歳ごろから定期的な乳がん検診が強く勧められます。(8)

[治療とケア]患者さんの状態・がん細胞の特性、病期などに応じて治療法を選択する(手術療法、放射線療法、化学療法、内分泌療法、緩和療法)
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] 組織を取って、乳がんの確定診断がついた場合、各種の画像診断などでがんの広がりを確認します。がんの治療効果は、患者さん本人の年齢や体の状態、がんの広がり(病期)、がん細胞のもつ特性によってエビデンスが異なります。がんの進行度は、腫瘍(しゅよう)の数や大きさ、リンパ節や他の臓器へがんが転移しているかどうかなどで判断します。
 がん細胞のもつ特性としては、がん細胞にHER2(ハーツー)というたんぱくがあるか、女性ホルモンであるエストロゲンやプロゲステロンの受容体があるか、増殖の速さ、がん細胞の遺伝子発現解析(いでんしはつげんかいせき)であるMammaPrint(マンマプリント)(健康保険適用なし)などで評価されています。これらを総合的に考えて、さらに、患者さんの考え方を考慮して、手術療法、放射線療法、化学療法や内分泌療法、および症状をやわらげる緩和療法を組み合わせて治療を行います。
 再発・転移乳がんの場合は、画像で治療効果を確認しながら治療方法を変更していきます。(9)~(13)

[治療とケア]手術療法
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] 乳房温存術(にゅうぼうおんぞんじゅつ)や乳房切除術(にゅうぼうせつじょじゅつ)があります。もっとも転移しやすい場所にある、腋窩(えきか)のリンパ節であるセンチネルリンパ節への転移があるかどうか、手術中に確認し、転移がある場合は、腋窩リンパ節を取り除く郭清(かくせい)が同時に行われます。乳がんの治療に支障をきたさないかぎり、切除した乳房の形を整える、乳房再建術(にゅうぼうさいけんじゅつ)を行うことができます。乳房再建には、人工物を挿入する方法、自分の筋肉や脂肪を移植する方法などがあります。(9)~(13)

[治療とケア]化学療法・内分泌療法
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] 化学療法には抗がん薬療法と分子標的療法があります。
 抗がん薬療法では、がん細胞を壊したり増殖を抑える効果のある薬剤を、定期的(毎日、1~3週間おきなど)に点滴や経口で服用します。この薬によって、増殖速度の速いがん細胞のほうが健康な細胞よりも壊され、健康な細胞は次の治療の日までに回復してきます。このサイクルをくり返し、残ったがん細胞をできるかぎり体のなかからなくしてしまう、という治療法です。健康な細胞も薬の作用を受けるため、強い副作用を各種の方法でコントロールしながら、治療を行う必要があります。
 分子標的療法は、標的になる物質ががん細胞に発現している場合、その物質を標的にしてがん細胞の増殖をおさえ込む治療法です。患者さんによっては、強いアレルギー反応や心機能障害、高血糖などの副作用があり、全身管理のもとで使用する必要があります。
 内分泌療法では、女性ホルモンを抑える薬が使われます。がん細胞に女性ホルモンであるエストロゲンやプロゲステロンの受容体がある場合にのみ有効です。
 患者さんの全身状態とがんの進行度とがん細胞のもつ特性によって、これらの治療法を行うかどうかを決めます。(9)~(13)

[治療とケア]放射線療法
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] 乳房温存術を選択した場合や、病期によって放射線療法を行います。再発・転移乳がんの治療や、症状の緩和にも使用されます。(9)~(13)

[治療とケア]早期がん治療後に長期に経過観察を行う
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] 早期がんであっても、完全に治っているか否かを証明する方法がありません。再発の多くは発症から3年以内におこりますが、10年を超えて再発することがあるため、長期の経過観察が行われます。(14)


よく使われている薬をEBMでチェック

化学療法 術前・術後化学療法
[薬用途]AC→T(15)(16)
[薬名]エンドキサン(シクロホスファミド水和物)+アドリアシン(ドキソルビシン塩酸塩)終了後、タキソール(パクリタキセル)
[評価]☆☆☆☆☆

[薬用途]FEC→T(17)
[薬名]ファルモルビシン(エピルビシン塩酸塩)+エンドキサン(シクロホスファミド水和物)+5-FU(フルオロウラシル)終了後、タキソール(パクリタキセル)またはタキソテール(ドセタキセル)
[評価]☆☆☆☆☆
[薬用途]TC(18)
[薬名]タキソテール(ドセタキセル水和物)+エンドキサン(シクロホスファミド水和物)
[評価]☆☆☆☆☆

[評価のポイント] 患者さんの状態と、がん細胞の特性によって抗がん薬の組み合わせや投与方法の治療効果がそれぞれ報告されています。
 乳房温存術の前に、がんを小さくすることを目標として行われる術前化学療法と、手術後、体に残ったがん細胞をたたくことを目的に行われる術後化学療法があります。(15)
 ここで紹介する以外にも、さまざまな抗がん薬投与方法があります。

再発・転移乳がんに対する化学療法
[薬名]タキソール(パクリタキセル)
[評価]☆☆☆☆☆
[薬名]タキソテール(ドセタキセル水和物)
[評価]☆☆☆☆☆
[薬名]ナベルビン(ビノレルビン酒石酸塩)
[評価]☆☆☆☆☆
[薬名]ゼローダ(カペシタビン)など
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] 体のなかのがん細胞を減少させ、全身状態を改善することが目標となります。副作用の点から、1種類の抗がん薬の使用が勧められています。(19)
 ここで紹介する以外にも、さまざまな抗がん薬があります。

分子標的療法
[薬用途]HER2に関連する分子標的薬
[薬名]ハーセプチン(トラスツズマブ)(20)(21)
[評価]☆☆☆☆☆
[薬名]パージェタ(ぺルツズマブ)(22)
[評価]☆☆☆☆☆
[薬名]タイケルブ(ラパチニブトシル酸塩水和物)
[評価]☆☆☆☆☆
[薬名]カドサイラ(トラスツズマブエムタンシン)(23)ほか
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] がん細胞だけにある物質を標的にして、がん細胞の増殖をおさえ込む薬です。標的になる物質ががん細胞に発現している場合のみ、効果があります。患者さんによっては、強いアレルギー反応や心機能障害、高血糖などの副作用があり、全身管理のもとで使用する必要があります。
 ペルツズマブ、ラパチニブトシル酸塩水和物、トラスツズマブエムタンシンは、日本では転移・再発乳がんでのみ健康保険適用があります(2015年現在)。

[薬用途]HER2たんぱく以外の分子標的薬
[薬名]アフィニトール(エベロリムス)(24)ほか
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] 細胞の増殖に関連する遺伝子異常をもつ乳がん細胞に対して、効果があります。再発・転移乳がんで使われます。

内分泌療法
[薬用途]抗エストロゲン薬
[薬名]ノルバデックス(タモキシフェンクエン酸塩)(25)(26)
[評価]☆☆☆☆☆
[薬名]フェソロデックス(フルベストラント)(27)
[評価]☆☆☆☆☆
[薬用途]アロマターゼ阻害薬
[薬名]アリミデックス(アナストロゾール)
[評価]☆☆☆☆☆
[薬名]フェマーラ(レトロゾール)(28)
[評価]☆☆☆☆☆
[薬名]アロマシン(エキセメスタン)
[評価]☆☆☆☆☆
[薬用途]LH-RHアゴニスト
[薬名]ゾラデックス(ゴセレリン酢酸塩)(29)
[評価]☆☆☆☆☆
[薬名]リュープリン(リュープロレリン酢酸塩)(29)
[評価]☆☆☆☆☆

[評価のポイント] がん細胞に、女性ホルモンであるエストロゲンやプロゲステロンの受容体がある場合にかぎり、有効です。診断時に閉経前であれば、抗エストロゲン薬か、LH-RHアゴニストとアロマターゼ阻害薬の併用療法が使用されます。閉経後であれば、アロマターゼ阻害薬が使用されます。内服期間は、5年から10年です。ホルモン感受性の乳がんについては、術後の補助療法として、年齢、閉経の有無、リンパ節転移の有無、化学療法併用の有無、転移再発にかかわらず有効だったという複数の非常に信頼性の高い研究があります。(25)

骨転移治療薬
[薬名]ゾメタ(ゾレドロン酸水和物)など
[評価]☆☆
[評価のポイント] 骨転移に対する痛みの軽減および、内分泌療法中の骨粗(こつそ)しょう症(しょう)薬としての効果が証明されています。日本では骨転移にのみ健康保険適用があります。(30)


総合的に見て現在もっとも確かな治療法
乳がん健診を定期的に受ける
 40~74歳の女性では、乳がん検診の意義と問題点を理解したうえでマンモグラフィーでの検診を受けることが勧められています。とくに、母親や姉妹に乳がんの家族歴がある人には、年1回の乳がん検診が強く推奨されます。

患者さんの状態、がん細胞の特性、病期などに応じて治療を選択
 乳がんの治療には、手術療法、抗がん薬や分子標的薬による化学療法、内分泌療法、放射線療法、さらには痛みなどの症状に対する緩和療法といった、たくさんの治療法があります。乳がんの診断がついた場合、患者さんの年齢や状態、考え方、がん細胞の特性、病期に応じていくつかの治療法を選び、組み合わせて行います。
 治療後は、早期がんでも再発の可能性があるため、長期にわたって経過観察を行います。乳がんは転移・再発であっても、化学療法・分子標的療法、内分泌療法の効く可能性が高いがんです。緩和療法とあわせてそれらの治療を継続し、社会生活を維持しながら、長くつきあう疾患となってきています。

手術は乳房温存術や乳房切除術が行われる
 手術には乳房温存術や乳房切除術があり、手術中にセンチネルリンパ節への転移が確認された場合は、同時に腋窩リンパ節の郭清が行われます。乳がんの治療に支障をきたさないかぎりは、切除した乳房の形を整える乳房再建術を行うことができます。

がん細胞の増殖を抑える化学療法、女性ホルモンを抑える内分泌療法
 化学療法では、がん細胞を壊したり増殖を抑えたりする抗がん薬を、副作用をコントロールしながら定期的に服用します。また、がん細胞にHER2などの特殊なたんぱくがある場合、たんぱくを標的にしてがん細胞の増殖をおさえ込む分子標的薬が使用できる可能性があります。
 また、がん細胞に女性ホルモンの受容体がある場合は、抗エストロゲン薬やアロマターゼ阻害薬を長期に服用する内分泌療法も検討します。
 患者さんの状態やがん細胞の特性などによって、薬の組み合わせや投与方法の治療効果は異なります。

放射線療法を行う場合もある
 乳房温存術を追加した場合や病期によっては放射線療法を行います。

(1)McTiernan A. Behavioral risk factors in breast cancer: can risk be modified? Oncologist. 2003;8(4):326-34.
(2)国立がん研究センターがん対策情報センター. 罹患データ(全国推計値). http://ganjoho.jp/professional/statistics/monita.html アクセス日2015年1月7日
(3)厚生労働省. 平成25年(2013)人口動態統計(確定数)の概況-悪性新生物の死亡数・死亡率. http://www.mmjp.or.jp/kawakami-clinic/data/h25gan-n.htm アクセス日2015年1月7日
(4)日本乳癌学会. 全国乳がん患者登録調査報告 2011年度. http://www.jbcs.gr.jp/people/nenjihoukoku/2011nenji.pdf アクセス日2015年1月16日
(5)Gøtzsche PC, Jørgensen KJ. Screening for breast cancer with mammography. Cochrane Database Syst Rev. 2013 Jun 4;6:CD001877.
(6)Miller AB, Wall C, Baines CJ, et al. Twenty five year follow-up for breast cancer incidence and mortality of the Canadian National Breast Screening Study: randomised screening trial. BMJ. 2014;348:g366.
(7)Ohuchi N, Suzuki A, SobueT,et al.Sensitivity and specificity of mammography and adjunctive ultrasonography to screen for breast cancer in the Japan Strategic Anti-cancer Randomized Trial (J-START): a randomised controlled trial. Lancet. 2016;387:341-8.
(8)J. Balmana, O. Diez, I.T. Rubio, F. CardosoBRCA in Breast Cancer :ESMO practical guidelines. Ann Oncol 2011; 22 (Suppl 6): vi31-vi34.
(9)日本乳癌学会. 科学的根拠に基づく乳癌診療ガイドライン1.治療編 2013年版. 金原出版. 2013.
(10)日本乳癌学会. 患者さんのための乳がん診療ガイドライン 2014年版. 金原出版. 2014.
(11)National Comprehensive Cancer Network ホームページ(NCCN:全米がんセンターガイドライン策定組織)NCCN Guidelines. Breast Cancer 2014 Ver.3. http://www.nccn.org/professionals/physician_gls/pdf/breast.pdf アクセス日2015年1月7日, 日本語版 http://www.tri-kobe.org/nccn/ アクセス日2015年1月9日
(12)F. Cardoso, S. Kyriakides, F. Penault-Llorca, P. et al.  Primary Breast Cancer ESMO Practice guidelines. Ann Oncol 2013; 24 (Suppl 6): vi7-vi23.
(13)F. Cardoso, S. Kyriakides, F. Penault-Llorca, et al. Advanced Breast Cancer. Ann Oncol2014;25: 1871-1888.Breast. October 2014;23: 489-502 (欧州ガイドライン).
(14)Early Breast Cancer Trialists' Collaborative Group (EBCTCG). Effects of chemotherapy and hormonal therapy for early breast cancer on recurrence and 15-year survival: an overview of the randomised trials.  Lancet. 2005;365:1687-717.
(15)Early Breast Cancer Trialists' Collaborative Group (EBCTCG), Peto R, Davies C, Godwin J, et al. Comparisons between different polychemotherapy regimens for early breast cancer: meta-analyses of long-term outcome among 100,000 women in 123 randomised trials. Lancet. 2012;379:432-44.
(16)Ferguson T, Wilcken N, Vagg R, et al. Taxanes for adjuvant treatment of early breast cancer. Cochrane Database Syst Rev. 2007 Oct 17;(4):CD004421.
(17)Joensuu H, Bono P, Kataja V, et al. Fluorouracil, epirubicin, and cyclophosphamide with either docetaxel or vinorelbine, with or without trastuzumab, as adjuvant treatments of breast cancer: final results of the FinHer Trial. J ClinOncol. 2009 ;27:5685-92.
(18)Jones S, Holmes FA, O'Shaughnessy J, et al. Docetaxel With Cyclophosphamide Is Associated With an Overall Survival Benefit Compared With Doxorubicin and Cyclophosphamide: 7-Year Follow-Up of US Oncology Research Trial 9735. J ClinOncol. 2009;27:1177-83.
(19)Carrick S, Parker S, Wilcken N, et al. Single agent versus combination chemotherapy for metastatic breast cancer. Cochrane Database Syst Rev. 2005 Apr 18;(2):CD003372.
(20)Moja L, Tagliabue L, Balduzzi S, et al.Trastuzumab containing regimens for early breast cancer. Cochrane Database Syst Rev. 2012 Apr 18;4:CD006243.
(21)Balduzzi S, Mantarro S, Guarneri V, et al.Trastuzumab-containing regimens for metastatic breast cancer. Cochrane Database Syst Rev. 2014;6:CD006242.
(22)Baselga J, Cortés J, Kim SB, et al.; CLEOPATRA Study Group.Pertuzumab plus trastuzumab plus docetaxel for metastatic breast cancer. N Engl J Med. 2012;366:109-19.
(23)Verma S, Miles D, Gianni L, et al.; EMILIA Study Group.Trastuzumabemtansine for HER2-positive advanced breast cancer. N Engl J Med. 2012 ;367:1783-91.
(24)Burris HA 3rd, Lebrun F, Rugo HS, et al. Health-related quality of life of patients with advanced breast cancer treated with everolimus plus exemestane versus placebo plus exemestane in the phase 3, randomized, controlled, BOLERO-2 trial. Cancer. 2013;119:1908-15.
(25)Early Breast Cancer Trialists' Collaborative Group (EBCTCG). Effects of chemotherapy and hormonal therapy for early breast cancer on recurrence and 15-year survival: an overview of the randomised trials. Lancet. 2005 ;365:1687-717.
(26)Adjuvant Tamoxifen: Longer Against Shorter (ATLAS) Collaborative Group.Long-term effects of continuing adjuvant tamoxifen to 10 years versus stopping at 5 years after diagnosis of oestrogen receptor-positive breast cancer: ATLAS, a randomisedtrial. Lancet. 2013;381:805-16.
(27)Mehta RS, Barlow WE, Albain KS, et al.Combinationanastrozole and fulvestrant in metastatic breast cancer. N Engl J Med. 2012;367:435-44.
(28)Goss PE, Ingle JN, Martino S, et al. A randomized trial of letrozole in postmenopausal women after five years of tamoxifen therapy for early-stage breast cancer. N Engl J Med. 2003;349:1793-802.
(29)Francis PA, Regan MM, Fleming GF, et al. Adjuvant ovarian suppression in premenopausal breast cancer. N Engl J Med. 2015;372:436-46.
(30)Wong MH, Stockler MR, Pavlakis N. Bisphosphonates and other bone agents for breast cancer. Cochrane Database Syst Rev. 2012 Feb 15;2:CD003474.

出典 法研「EBM 正しい治療がわかる本」EBM 正しい治療がわかる本について 情報

家庭医学館「乳がん」の解説

にゅうがん【乳がん Breast Cancer】

◎ほとんどが乳管がん
[どんな病気か]
◎乳房のかたいしこりが特徴
[症状]
◎良性か悪性かの区別が必要
[検査と診断]
◎治療の基本は手術
[治療]

[どんな病気か]
 乳がんは、乳房(にゅうぼう)にできる悪性腫瘍(あくせいしゅよう)です。乳房の中には乳腺(にゅうせん)といわれる組織があります。乳腺は、乳汁(にゅうじゅう)をつくる腺胞(せんほう)という小さな腺組織の集まりで、ブドウの房のようになっていて、それぞれが乳管(乳汁を集め乳頭(にゅうとう)へ送る管)で連絡されています。乳がんの約90%は、乳管から発生する乳管(にゅうかん)がんで、ほかに腺胞から発生する小葉(しょうよう)がんや、乳頭に発生するパジェット病(びょう)(コラム「乳房パジェット病」)などいろいろあります。

[症状]
 乳がんは、乳房にできたしこりを触れて発見されることがもっとも多く、ほかに乳頭からの血性分泌(けっせいぶんぴつ)や、乳頭やその周囲のただれ、乳房・乳頭の変形などがきっかけで発見されることもあります。
●しこりの特徴
 乳がんは、乳房の中にかたいしこりとして触れますが、その性状はまちまちで、表面が凸凹(でこぼこ)で周囲との境界がはっきりせず、動きにくいものから、クリッとしてよく動くものまであります。とくに、表面がツルツルで、丸くよく動くものは、良性腫瘍(乳腺線維腺腫(にゅうせんせんいせんしゅ)(「乳腺線維腺腫」)など)との鑑別が必要です。
 乳がんの場合は一般に、ややかための乳腺の中に、境界がはっきりしないしこりを触れることが多いようです。
 しこりを押したときの痛みはほとんどなく、あってもあまり強くはありません。乳房の大きさにもよりますが、脂肪の豊かな人の場合は、冬がけの布団の上からさわっているようなもので、やや強めにさわらないとしこりの性状がわからないこともありますので、注意が必要です。
●しこり以外の特徴
 乳頭の血性分泌 がんからの出血が乳管を通って乳頭に出てくるもので、乳頭直下の早期がんの場合が比較的多く、しこりを触れないことがあります。
 乳頭の変形 乳頭直下やその近くにがんができると、がんのまわりの組織がひきつけられ、乳頭がへこんだり(陥凹乳頭(かんおうにゅうとう))、変形したりします。
 皮膚の陥凹(へこみ)・えくぼ現象 乳がんが、皮下組織やクーパー靱帯(じんたい)(皮下組織と乳腺をつないで乳腺を支えている)に浸潤(しんじゅん)(根を張るように入り込む)すると、その真上の皮膚がひきつれ、へこみます。これは、鏡の前でゆっくりと腕を上げ下げしてみるとわかります。
 また、親指と人さし指でしこりをつまむと、しこりの真上の皮膚がへこみ、えくぼのようになることがあります。これは、乳がんにみられる特徴的な現象で、えくぼ現象といわれています。
 オレンジ皮様皮膚(かわようひふ) 乳がんが進行し広範囲に浸潤してくると、乳房の皮膚が赤く腫(は)れぼったくなり、ちょうどオレンジの皮のように、毛穴のへこみが目立つようになります。もっとがんが進行すると、小さなぶつぶつが盛り上がり、さらに進行すると、潰瘍(かいよう)をつくったり、不快なにおいや出血がみられるようになります。このような皮膚の変化は、炎症性乳がん(「炎症性乳がん」)にもみられます。
●乳房以外の特徴
 腋窩(えきか)(わきの下)のリンパ節腫脹(せつしゅちょう)(腫れ) 乳がんが進行すると、周囲の血管やリンパ管に波及し、転移をおこします。
 乳房のリンパ管は、腋窩を通り鎖骨(さこつ)の下の静脈(じょうみゃく)に合流しています。がん細胞がそのリンパ液の流れにのり、途中のリンパ節にひっかかると、リンパ節転移をおこすわけですが、さらに静脈にまで流されると、肺や肝臓などの離れた臓器にまで転移します。
 転移したリンパ節内でがん細胞が増えると、そのリンパ節は腫れて触れるようになるのです。

[検査と診断]
 乳房にしこりが発見されたら、良性腫瘍か悪性腫瘍かをみきわめることが必要です。
●問診
 乳房の診察の前に行なうもので、いつ、どのようにして気づいたのか、また、月経・出産・授乳などのからだの生理についてや、既往歴・家族歴などについてたずねるものです。
 乳がんは、女性ホルモンの分泌と深い関係があります。初潮(しょちょう)が10歳以下の人や、妊娠・出産の経験がない人、授乳の経験がない人、閉経(へいけい)年齢の遅い人などは、乳がんができやすいといわれています。そこでまず、ホルモンに関係する内容を詳しくたずねます。
 月経の状況(初潮・周期・閉経の年齢など)、結婚の有無、妊娠・分娩(ぶんべん)の回数、授乳の状況(乳汁の出・左右のちがい・人工乳授乳の割合など)などです。
 ついで、乳腺炎(にゅうせんえん)や乳房腫瘤(にゅうぼうしゅりゅう)などの乳腺の病気にかかったことがあるか、女性ホルモンや副腎皮質(ふくじんひしつ)ホルモンなどの治療を受けたことがあるかなどの既往歴をたずねます。
 また、乳がんは遺伝的要素が強いといわれてきましたが、最近、がん抑制遺伝子と呼ばれる、乳がんの発生を抑える特殊な遺伝子が見つかり、乳がんにかかる人の多くは、その遺伝子が欠損していることもわかってきました。
 このように、乳がん発生の遺伝的要因も、しだいに解明されつつあります。
 したがって、血縁者のなかに乳がんの人がいないか、他のがんについてはどうかなどの家族歴についてもたずねます。
●視診
 上半身の衣類は全部脱ぎ、座った状態で、腕を下ろしたり、頭の後ろに上げて、乳房のひきつれ・へこみ・盛り上がりなどの変化を観察します。
●触診
 乳腺専門の医師であれば、触診で65%以上の確率で悪性・良性の鑑別ができます。
 まず、診察台にあおむけに寝て、肩の力を抜きます。肩に力が入ってしまうと、乳房が自然な形で胸の上に広がらず、よい触診ができません。最初に手のひら全体で乳房を触れ、ついで指の腹で乳房を輪を描くように触れます。さらに、わきの下および乳房外側上方から乳頭にむかって触れます。異常があれば、指先で詳しく調べます。つぎに、座った状態で、両側のわきの下や、頸部(けいぶ)のリンパ節が腫れていないかを調べます。
●補助診断法
 問診・視診・触診だけでは、しこりを触れない早期の乳がんは発見できませんし、良性か悪性かの鑑別も必要となります。そこで、以下のような補助診断法が行なわれ、それらの組み合わせで最終的な診断が下されます。
①単純乳房撮影法(マンモグラフィー)
 胸部や腹部のX線より被曝線量(ひばくせんりょう)の少ないX線で、乳房の中を撮影するものです。乳房を上下と左右から板ではさみ、乳房用X線装置で撮影します。乳がんの場合、砂をまいたような非常に小さな石灰化像(せっかいかぞう)や、不整形な腫瘤(しゅりゅう)(こぶ)の陰影がみられます。この診断法の正診率(せいしんりつ)(正確な診断が得られる確率)は、約63%です。
②乳管造影法
 乳頭から造影剤を注入して、乳管の状態を調べるX線検査です。乳頭から出血がみられるような、乳管から発生した早期の腫瘍の診断に役立ち、乳管の変形やとぎれの状態により、病巣のようすが診断できます。
③乳管内視鏡検査
 非常に細いファイバースコープを乳頭から挿入し、乳管の状態を調べます。乳管内腫瘤の状態や出血部位などが診断できます。
④超音波検査(エコー)
 乳がんの検査でもっとも苦痛の少ないもので、乳房の表面から超音波をあて、そのはね返ってくる反射波を測定することにより、腫瘍の性状を調べます。また、その腫瘍の周囲や内部の血液の流れによって、良性・悪性の鑑別もできます。
 この検査は、副作用の心配がないのでくり返し行なうことができます。正診率は、最近では約80%に上昇しています。
⑤細胞診
 細胞の性質を調べる顕微鏡検査で、X線検査やエコーとちがい、直接がん細胞の確認をするものです。
 細胞診には、乳頭異常分泌物細胞診と穿刺吸引(せんしきゅういん)細胞診があります。
 乳頭異常分泌物細胞診(にゅうとういじょうぶんぴつぶつさいぼうしん) 乳頭から出る異常分泌物を顕微鏡で調べ、細胞の異型度を診断します。乳頭分泌だけでしこりを触れない早期がんや、乳房パジェット病などの診断に有効です。
 穿刺吸引細胞診(せんしきゅういんさいぼうしん) 静脈注射用の細い針で乳房の中のしこりを直接刺し、微量の細胞を吸いとって、顕微鏡でその性質を調べる検査です。1.0cm以下の小さなしこりでも的確に診断ができ、乳がんを診断するうえでもっとも有効な検査です。正診率は93%以上といわれています。
⑥その他の診断法
 最近では、磁石を使った磁気共鳴断層撮影(MRI)や、放射性同位元素によるアイソトープ検査などが試行されていますが、まだ一般的ではありません。

[治療]
 乳がんに対する基本的な治療法は手術ですが、その補助療法として、抗がん剤による化学療法や免疫療法、ホルモン剤による内分泌療法、局所治療の放射線療法などがあります。
●手術
 乳房全部と胸の筋肉(大胸筋(だいきょうきん)・小胸筋(しょうきょうきん))および、わきの下のリンパ節を全部とってしまう胸筋合併乳房切除術(きょうきんがっぺいにゅうぼうせつじょじゅつ)という手術が、かつてはもっとも多く行なわれてきました。しかし、術後の胸の変形や、腕のむくみ、しびれ、運動機能の低下などが問題となり、日本では、1990年前後を境に、胸の筋肉を切除しないか、一部だけ切除する胸筋温存乳房切除術(きょうきんおんぞんにゅうぼうせつじょじゅつ)がもっとも多く行なわれるようになりました。現在では、胸筋合併乳房切除術は、よほど進行した乳がんでないかぎり行なわれません。
 早期の乳がんであれば、乳房の一部や4分の1を切りとる扇状乳腺切除(せんじょうにゅうせんせつじょ)などの乳房温存手術が行なわれますが、その場合、術後に残った乳腺に対し、放射線治療などの補助療法が追加されます。これにより、乳房切除術と比べても遜色(そんしょく)のない治療成績が得られるようになりました。
 以上のように、最近では乳がんの手術の縮小化が進んではいますが、まだまだ乳房切除術のほうが多いのが現状です。
 また一方では、乳がんの手術と同時に、切除手術により欠損した部分に、自分の背中や腹部の脂肪と筋肉を移植し、乳房を復元する即時乳房再建術(そくじにゅうぼうさいけんじゅつ)も積極的に行なわれるようになってきました(形成外科ここまでできるの「がん切除後の再建」の乳がん切除後の再建)。これは、かつてのシリコンなどの人工異物とちがい、新たな乳がん発生の懸念はありません。
 このような即時乳房再建術を行なうことにより、術後の精神面・肉体面での落ちこみを最小限にくいとめ、生活の質の向上が得られるようになりましたので、担当の医師によく相談してみるとよいでしょう。
●手術後の補助療法
 乳房温存手術の場合、残った乳腺の中に、手術前の検査ではわからなかった目に見えないわずかながん細胞が残されていることが考えられます。そのがん細胞を撲滅(ぼくめつ)するために、術後の放射線療法が多く行なわれています。
 そのほか、閉経の前と後で使用薬剤が異なりますが、ホルモン分泌を抑える内分泌療法があります。
 さらに、進行した乳がんの場合は、化学療法(抗がん剤)を中心に、免疫療法を組み合わせた治療が行なわれますが、最近では、抗がん剤の副作用を最小限に抑える薬剤も開発されていますので、大量の抗がん剤の使用が可能となり、再発の防止に役立っています。
●乳がん治療後の妊娠
 乳がんは女性ホルモンと関係が深く、とくにエストロゲンの影響を受けるといわれています。妊娠すると、このエストロゲンが急激に増加し、がん再発の危険度が高くなります。ですから、再発の危険がなくなったと判断されないかぎり、妊娠は避けたほうがよいでしょう。
 しかし、まったく妊娠不可能というわけではありませんので、担当の医師に相談してみましょう。

出典 小学館家庭医学館について 情報

六訂版 家庭医学大全科「乳がん」の解説

乳がん
にゅうがん
Breast cancer
(女性の病気と妊娠・出産)

どんな病気か

 乳汁を分泌する乳腺小葉上皮(しょうようじょうひ)、あるいは乳管までの通り道である乳管の上皮が悪性化したものであり、近年の日本人女性の悪性腫瘍のなかでは最も頻度の高いものとなっています。

 乳がんは、小葉由来の小葉がんと乳管由来の乳管がんとに大別されます。乳管内、あるいは小葉内にとどまっていて血管やリンパ管に浸潤していないものを、非浸潤がんといいます。非浸潤性(ひしんじゅんせい)乳管がんは比較的少数です。欧米では非浸潤性小葉がんは悪性疾患としては扱われず、経過観察が原則になっています。浸潤がんは血管やリンパ管から全身への血流にのり、リンパ節、骨、肺、肝臓、脳などに転移します。

 特殊な乳がんとして乳頭や乳輪の湿疹状のただれを症状とするパジェット病がありますが、予後は非浸潤がんと同様に良好です。また乳房全体が炎症状に腫脹(はれる)し、すみやかに全身への転移を起こす炎症性乳がんという極めて予後不良のタイプもあります。

原因は何か

 乳がんの原因は単一ではありません。乳がんを発症する危険因子(リスク)としては、近親者に乳がんにかかった人がいること、過去に乳頭腫(にゅうとうしゅ)線維腺腫(せんいせんしゅ)などのリスク病変にかかったこと、片側の乳がんにかかったことなどが最も重要視されます。これらは遺伝的要因によるものです。そのほかにも出産を経験していないこと、授乳をあまりしていないことなどもリスクになります。

 これらは乳がんの発生の母地となる乳腺が、萎縮せずに長期間存在することを意味します。また卵胞ホルモンであるエストロゲンの関与が発がんや増殖、転移に関係していることも知られており、経口のホルモン薬も長期にわたって服用すると発がんのリスクを上げるといわれています。しかし、近年の日本における乳がんの急増は、これだけでは説明しきれません。未知の要因が多く関係しているものと思われます。

症状の現れ方

 乳がんの症状は、90%以上は痛みを伴わない乳房腫瘤(にゅうぼうしゅりゅう)です。患者さんは自分で腫瘤を触れることができます。また一部の乳がんでは乳頭からの分泌物を症状とすることがあります。乳がんによる乳頭分泌物は血液が混じったものが多い傾向にあります。その他、乳頭や乳輪の湿疹様のただれを症状とするものもあります。

 骨や肺に転移して手術不能の状態になって初めて病院を受診する例もあります。症状があった場合に、専門医の診察を受けるかどうかで患者さんの運命は大きく変わります。検診によって発見される無症状の乳がんは数%以内です。

検査と診断

 乳がんの診断は視触診が基本です。しかし、これらの理学的診察法は担当医の経験や患者さんの体型により、大いに精度が左右されます。そのための補助的画像診断としては乳房X線撮影(マンモグラフィ)、超音波検査を行います(図3)。X線撮影で腫瘍の陰影や石灰化など典型的な所見があれば、乳がんが強く疑われます。超音波検査では、特徴のある不整形の腫瘤像が認められれば乳がんが疑われますが、典型的な所見を示さない乳がんもあるので、理学的診断や画像診断のみに頼るのは危険があります。

 乳がんの疑いが濃厚であれば、細胞診、針生検などの顕微鏡的検査を行います。細胞診は腫瘤を注射針で刺して細胞を注射針内に吸引したり(穿刺吸引細胞診(せんしきゅういんさいぼうしん))、乳頭分泌物を直接プレパラートに付けて(スメア)、顕微鏡で観察して良性か悪性かを推定する診断法です。比較的容易に検査ができるので乳がんの診断に広く用いられていますが、正確な診断にはかなりの熟練を要し、誤判定がありえます。

 針生検では特殊な針を用いて腫瘤から組織を一部採取し、病理組織診断を行います。細胞診よりは正確さで勝りますが、太い針を用いるために正確に腫瘤を穿刺しないと組織が得られません。そのため、乳頭腫のような良性と悪性との境界病変、非浸潤がんか浸潤がんかの区別がつかないものがあります。また、良性か悪性かの診断がついても、病変の広がりはわかりません。

 乳がんが乳腺内にどのくらい広がっているか、あるいはリンパ節、肺、肝臓などへの転移があるかどうかを調べるには、造影CTが用いられています。MRIを用いた広がり検査もありますが、一方の乳腺しか検査できなかったり、偽陽性(ぎようせい)の所見がかなりあることから、診断には経験を必要とします。そのほか乳管内視鏡検査なども行われていますが、消化管の内視鏡検査ほどの有用な情報は得られません。腫瘍マーカー、骨シンチグラムなどの全身転移を検査する方法もありますが、以前ほどは重視されなくなりました。これらの検査が陽性であれば、すでに全身転移が起こっていることを意味します。

 以上の検査により乳がんの臨床病期(ステージ)が決まります。このステージにより、治療方針や予後が異なります。乳がんのステージを表1に示します。

治療の方法

 2期までの乳がんであれば、乳房の温存療法も可能です。乳房の部分切除、腋窩(えきか)リンパ節の郭清(かくせい)(きれいに取り除く)、放射線照射、薬物治療(抗がん薬、内分泌療法薬)を組み合わせた集学的治療です。

 乳がん組織のホルモン受容体が陽性なら、内分泌療法をメインにします。受容体が陰性の場合やリンパ節転移がある場合、腫瘍の組織学的悪性度(グレード)が高い場合は、抗がん薬治療を考慮します。閉経前の患者さんは受容体陰性でグレードが高いことが多いので、抗がん薬治療が行われることが多い傾向にあります。閉経後の患者さんでは内分泌療法が有効であることが多いようです。ただし、日本の多くの施設ではグレードについて検査をしていません。

 多発腫瘤(たはつしゅりゅう)や、乳腺内に広汎に広がった乳がんの場合は、非定型的乳房切断術(ひていけいてきにゅうぼうせつだんじゅつ)を行います。3期以後の乳がんであれば、まず薬物治療を行い、有効な症例については手術を行うことがあります(術前化学療法)。4期は根治的治療の対象とはなりません。

 乳がんは術後5年以上経過してからの再発もめずらしくないので、治療成績は10年生存率で計算されます。

病気に気づいたらどうする

 乳腺の専門医がいる総合病院を受診します。病理医が常勤し、放射線治療まで可能な施設が望まれます。いちばん重要な役割を担う化学療法医がいる施設は限られています。乳がんの治療は長期にわたるので、担当医との信頼関係が重要です。他の医師のセカンド・オピニオンも活用し、納得のいく施設で治療を受けるべきです。

関連項目

 乳腺症乳管内乳頭腫

馬場 紀行


出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

四訂版 病院で受ける検査がわかる本「乳がん」の解説

乳がん

 日本の乳がん患者数は近年増加しています。その要因として、動物性脂肪のとり過ぎ、出産率の低下、初産年齢の上昇など、生活様式の欧米化、女性の社会進出の一般化などが関連していると考えられています。

●おもな症状

 90~95%の人が、乳房にしこり(腫瘤しゅりゅう)が触れることで発見されています。その他、乳頭からの血液のような、あるいはさらっとした感じの液の分泌などがあります。

①触診

  ▼

②マンモグラフィ/超音波検査/MR /PET-CT

  ▼

③穿刺吸引細胞診(病理診断)

  ▼

④試験切除による生検(病理診断)

自分でしこりを発見

 症状のところでも述べたように、乳がんでは自己チェック法がかなり広く知られているため、自分で定期的に調べてみることが好発年齢(40~60歳)になった人では、早期発見のために最も大切だといえます。

 専門医による検査でも、まずは触診から始まります。多くの人がしこりを訴えて受診していますが、実際にがんである率は低いので、あまり怖がらずに受診してみることが大切です。鑑別する病気として乳腺症、乳腺炎、良性の腫瘍などがあります。

画像診断でおおむね診断できる

 しこりから乳がんが疑われる場合には、マンモグラフィ(→参照)や超音波でさらにくわしく調べることになります。マンモグラフィは乳房単純X線撮影で、乳房を上下左右、あるいは斜めにはさんで撮影し、腫瘍の影や石灰化像を写すことで診断します。

 ただし、若年の人では乳腺実質が豊富にあるため、マンモグラフィではうまく検出できません。そのため超音波が行われます。50歳以上の人では、マンモグラフィのほうがはっきりと検出することができます。とくに触診でしこりがはっきりしなくても、マンモグラフィではがんへの微細な石灰の沈着が写って診断できます。その他、MR(→参照)、PET-CT(→参照)を行うこともあります。

確定診断は細胞診で

 以上の検査の組み合わせで、乳がんの約80%は診断できます。

 それでもまだ確定できない場合には、穿刺せんし吸引細胞診(細い針を刺して細胞を採取し、病理検査する)を行います。とくに小さい腫瘤しゅりゅうでは、細胞診は有効です。

 それでも確定できない場合には、試験切除(腫瘤部分を小さく切り取る)による生検を行います。

出典 法研「四訂版 病院で受ける検査がわかる本」四訂版 病院で受ける検査がわかる本について 情報

食の医学館「乳がん」の解説

にゅうがん【乳がん】

《どんな病気か?》


 乳(にゅう)がんは、乳房の外側から触ってもわかるため、早期に発見しやすく、治りやすいがんの1つです。日本は欧米にくらべて発症率がかなり低いとはいえ、30歳代と若年層から発症し、女性では罹患率(りかんりつ)第1位にあげられます(2014年地域がん登録全国推計)。
 乳がんは、出産経験がない人、早くに初経を迎えた人、閉経が遅かった人、高齢で初産を経験した人に多くみられます。このようなことから、乳がんの発生には、女性ホルモンが大きく関係していると思われます。
 また、統計的に肥満女性に多くみられるのも特徴です。これも、脂肪組織内でのホルモンの変化が原因と考えられています。そのため、肥満を解消する以外、予防することがむずかしいので、30歳をすぎたら定期的に検診を受けるようにしましょう。

《関連する食品》


○栄養成分としての働きから
 がん予防にビタミンは欠かせません。さまざまな野菜、くだものからとることができます。
〈DHAとファイトケミカル、食物繊維が有効〉
 また、細胞のがん化を防ぎ、とくに女性特有のがんに効果があるといわれているのがDHAです。魚を食べるときは、サバやサンマ、イワシなど、青背の魚を選ぶようにしましょう。
 ホルモンと関係のあるがんには、フラボノイドも予防する働きがあります。ダイズ製品、とうふや納豆などの常食を心がけましょう。
 エストロゲンというホルモン値を下げることも乳がん予防につながります。食物繊維は豊富に摂取することで排便をうながし、エストロゲンを体外に排出するため、積極的に摂取したい食品です。

出典 小学館食の医学館について 情報

知恵蔵「乳がん」の解説

乳がん

日本人女性の乳がん死亡率は、胃、肺、大腸がんに次いで第4位だが、患者数(罹患率)は胃がんとほぼ同様。欧米に比べると少ないが、ハワイに移民した日本人に増えていることから、欧米風の生活習慣が関係しているものと考えられる。国内では主として閉経後の女性に増えている。乳がんは自己診断で発見されることが多く、視触診に加えて、乳腺の乳房X線撮影(マンモグラフィー)で診断される。乳がんのがん抑制遺伝子として、BRCA‐1とBRCA‐2が分離されている。前者は卵巣がん、後者は男性の乳がんにも関与している。遺伝性乳がんの発症前の遺伝子診断にこれらの遺伝子が使われているが、陽性でも必ずがんになるわけではない。乳がんは治しやすいがんの1つで、5年生存率は83%に達する。早期には外科的摘出が基本だが、手術によって乳房を失うという心理的負担は女性にとって大きい。このため、できるだけ拡大手術を避け、必要最低限に手術するようになってきた。がん細胞が女性ホルモン(エストロゲン)に対する受容体を持ち、反応する可能性がある場合にはホルモン療法を行う。HER‐2というがん遺伝子を発現している場合には、抗体療法が有効。

(黒木登志夫 岐阜大学学長 / 2007年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

からだと病気のしくみ図鑑「乳がん」の解説

乳がん
ビジュアルで見る病気⑪

女性に多くみられるがんの代表格--乳がん。その約90%は乳腺の乳管から、約5~10%は腺小葉から発生します。乳がんはしだいに乳腺の外に広がっていきます(浸潤がん)。また、リンパ管や血管を通ってわきの下のリンパ節(腋窩リンパ節)やその周辺のリンパ節に転移することもあります。

出典 法研「からだと病気のしくみ図鑑」からだと病気のしくみ図鑑について 情報

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