中世・近世において灌漑用水の管理・運営にあたった役人。井司と同じような役目を果たしたものを井守,井奉行,井行事,池司,池守等ともよんでいる。しかし井司,井守,井奉行がそれぞれ異なった職掌を分担している場合もあったようである。例えば904年(延喜4)和泉国大鳥社流記帳には〈禰宜を以て井司と為し,祝を以て井守と為す〉とある。灌漑用水の円満な管理・運営には,その用水について熟知するとともに,公平無私なることが求められるが,1550年(天文19)10月薬師寺領南北下井の井司を補任するとき,〈器用之仁〉をさがして任命したというのは,これを物語っている。井司に補任されるものの多くは在村の有力名主層であり,ときには下司職を兼帯するものもいる。井司には一定の給分・得分が与えられていた。一般的には給田・給米が与えられていたが,ときには一定の用水を利用する権限が与えられたり,荘民より徴収した井料(用水使用料)の一部を給与されることもあった。このような給分・得分をもつ井司の地位は,相伝譲与・売買の対象ともなった。
執筆者:福田 榮次郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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