日本大百科全書(ニッポニカ) 「人税・物税」の意味・わかりやすい解説
人税・物税
じんぜいぶつぜい
personal taxes, in rem taxes
納税者の置かれた個人的諸条件を斟酌(しんしゃく)して、各納税者の担税力にあわせて課される税を人税とよび、納税者の個人的状況とは切り離して、客観的に課税物件の物的諸条件に着目して課される税を物税とよぶ。人税は主体税ともよばれるが、所得税がその典型的な例であり、種々の所得控除、税額控除などにより、納税者の担税力をきめ細かに考慮して課税することが可能である。他方、客体税ともよばれる物税の場合には、課税物件の選択において納税者の担税力を考慮はするが、特定の課税物件とその潜在的利用者であり、したがって当該税を負担することになる者との間に大まかな対応を想定するのみで、人税と比べると、納税者の個人的事情を考慮する点では劣る。たとえば一般消費税と総合消費税とは、経済的にみれば、ともに課税標準は消費全体であるから等価となるが、前者は物税であり、後者は人税である。いずれも消費という事実に担税力をみいだして課される税であるが、一般消費税の場合には、個別の各種財・サービスの消費の事実に着目するが、消費主体である特定の個人の置かれた条件は直接的には斟酌しない。生活必需品などを免税にしたり税率を低くすることによりある程度まで消費主体の条件を考慮できるが、間接的な形においてである。他方、総合消費税の場合には、各納税者の年間消費額を課税標準とするから、当該納税者の置かれた条件を反映するような各種控除制度などにより、きわめて直接的な形で納税者の担税力を考慮できる。
[林 正寿]