実定法上,この語には二つの意味がある。第1に,国税通則法上は,納税義務者のうち第二次納税義務者,保証人,源泉徴収等による国税の納税義務者を除外したもの,および徴収納付義務者の両者をあわせて納税者という(2条5号)。第2に,国税徴収法上は,国税通則法上の納税者に第二次納税義務者と保証人を含めたものを納税者という(国税徴収法2条6,7,8号)。しかし,実定法とは別に一般的には,納税者という語は,国民を納税義務の負担者という側面からとらえた概念として用いられることが多い。消費税等をも考慮すれば,国民はすべてなんらかの形で租税を支払うことを余儀なくされているし,また,外国人といえども,日本に住んでいれば日本の租税を支払うことは不可避である。そこで,こうした国民と外国人とを包括して納税者という範疇でとらえるわけである。納税者の権利保護の根本に存在する憲法上の原則は租税法律主義,すなわち,何人も国民を代表する機関である国会により制定された法律の定めに基づくことなくして租税を課されないという原則である(憲法84条)。
租税法律主義の原則は,絶対主義国家のもとで,王の恣意的な課税に反対する市民階級が市民革命をとおして,〈代表なければ課税なし〉という原則をしだいに定着させていった結果成立したものである。したがって納税者の権利保護制度の確立の過程は,近代民主主義国家の成立過程と表裏一体の関係にあり,今日,租税法律主義は法治国家において広く承認されている憲法原則となっている。そして,現代国家においては,租税国家とよばれるほど国の収入に占める租税の重要性が高まり,納税者の権利保護の必要性はますます大きくなっている。大衆課税化の進行によって納税者が増加していることもそうした必要性を高める要因となっている。
しかし,納税者の権利保護とからむ租税政策上の問題もいくつか生じている。たとえば,納税者間の不平等の問題がある。租税負担を納税者に公平に配分しなければならないという租税公平主義は租税法律主義とならぶ租税法上の大原則であるが,現実には,所得捕捉率の職種による差異,経済政策等のための各種の租税特別措置の存在,利益団体による立法への圧力等のためにさまざまな不平等が存在している。これに対しては,日本においても強い批判がなされている。また,租税による所得再分配をどの程度行うべきかという問題も世界的な問題として存在する。すなわち,福祉の充実のために国の財政支出が増加し,それが租税負担を重くしているという状況に対して,そのために高負担を甘受すべきか,それともチープ・ガバメントでいくべきかという争い,受益者負担的租税の問題,所得税の累進度をどの程度にするかといった問題がこれである。こうした租税政策上の問題の解決のためにも,国民一人一人が納税者としての権利および義務を自覚することが必要である。
執筆者:中里 実
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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