改訂新版 世界大百科事典 「仁風一覧」の意味・わかりやすい解説
仁風一覧 (じんぷういちらん)
1732年(享保17)西日本に発生したイナゴの害による大凶作に際し,飢人に施しをした人々を賞するため刊行された施行(せぎよう)者名簿。35年幕領分のみ上・下2巻が刊行され,続いて36年(元文1)私領分も付録として刊行された。近世の災害時,公私を問わず施行はほぼ慣例化していた。とくに,飢饉時に飢人の大量発生をみる都市社会では享保の飢饉を契機に,富裕町人による組織的な施行が展開されるようになった。このため《仁風一覧》にならって,大坂で1837年(天保8)《仁風便覧》,京都で67年(慶応3)《仁風集覧》が刊行された。近世の三大飢饉と言われる天明の飢饉に際しては,官製の施行者名簿は刊行されなかった。しかし,施行者書留《救済録》全5巻が残されており,幕府に刊行の意図がなかったとは言えない。なお注目すべきことは,天明期ごろより瓦版の施行付が民間で発行され,広く巷間に流布したことである。
執筆者:北原 糸子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報