イナゴ(読み)いなご

日本大百科全書(ニッポニカ) 「イナゴ」の意味・わかりやすい解説

イナゴ
いなご / 稲子
[学] Oxya spp.

昆虫綱直翅(ちょくし)目イナゴ科イナゴ属の種類の総称。日本に生息するもっとも普通のバッタ類で、イネ害虫として知られるものが多いが、川原草地草原にいるものはイネ科植物を食べる。漢字で「蝗(こう)」と書かれることがあるが、これは誤用である。この字は飛蝗トノサマバッタの集団移動をする個体)をさし、イナゴのことではない。

[山崎柄根]

形態と生態

イナゴ類は、体長は雌20~40ミリメートル、雄17~33ミリメートル程度で、コイナゴはこれよりやや小形である。体はどの種も複眼が紅褐色で、複眼の後方から前胸背板にかけて黒帯が走るほかは、黄緑色ないし明緑色を帯びるが、褐色がかることもある。全体にイネ科植物の色彩によく似ている。体形も似通っているが、コバネイナゴのように体長や翅長に個体差があるものなど、種の判別はむずかしい。

 1年に1回の発生で、成虫は夏から秋にかけて現れ、秋ごろ地中やイネ科植物の根際に産卵する。卵は泡の中にまとめて産み付けられ、卵包をつくる。卵で越冬し、5~6月に孵化(ふか)、6~7回脱皮をし、7~9月に成虫になる。成虫、幼虫ともイネ科植物の葉や茎を食べ、ウンカニカメイガなどとともにイネの大害虫である。稲作の一毛作地ではそれほど目だたないイナゴも、二毛作地ではよく繁殖することが観察される。第二次世界大戦前の日本国内の被害は莫大(ばくだい)なものであった。1950年代に殺虫効果の強力な農薬が出現して以来、急激に個体数が減ってしまった。しかし、農薬の散布を中止すると、ふたたび勢力を盛り返すので、害虫としてのイナゴ類にはつねに監視が必要である。

[山崎柄根]

種類

イナゴ属のバッタは、日本および沿海州あたりから東南アジアを経て、アフリカにまで分布し、18種が記録されている。日本には、本州以南に普通に分布するコバネイナゴOxya japonica japonicaハネナガイナゴO. chinensis、北海道や東北地方に分布するエゾイナゴO. yezoensis、南西諸島に分布するコイナゴO. hyla intricataの4種が知られている。

[山崎柄根]

食用

かつては全国的に食用とされていたが、現在では長野県、東北地方などで食べられているにすぎない。イナゴはタンパク質、ミネラルに富み、栄養的に価値が高い。食用にする際は、イナゴを生きたまま袋に入れて1日置き、糞(ふん)などを十分に出させてから、熱湯にさっと通し、とげのある飛び足と羽をとり、砂糖としょうゆで炒(い)り上げる。保存性があり常備食となる。味は小エビに似てかりかりとした歯ざわりがある。

[河野友美・大滝 緑]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「イナゴ」の意味・わかりやすい解説

イナゴ
Oxya

直翅目バッタ科イナゴ属に属する昆虫の総称。中型,緑色のバッタで,体長は雌 40mm内外,雄はこれより小さい。頭は大きく,触角は短く糸状。複眼後方から中胸両側に黒色条線が伸びる。年1回発生し,幼虫,成虫ともイネの害虫として有名で,地方により食用とする。コバネイナゴ O. yezoensisとハネナガイナゴ O. japonicaは本州以南に産する普通のイナゴで,コバネイナゴは翅が腹端を越えないが,ハネナガイナゴでは長く,腹端を越える。北海道と本州の寒冷地には,やや小型で頭部が比較的とがる通称エゾイナゴと呼ばれる種がみられるが,コバネイナゴの寒冷地型である。なおバッタ科には,本属以外のものでもナキイナゴ Mongolotettix japonicusやツチイナゴ Patanga japonicaなどイナゴの名のついているものがある。 (→直翅類 )

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