瓦版(読み)かわらばん

日本大百科全書(ニッポニカ)「瓦版」の解説

瓦版
かわらばん

江戸時代に、ニュース速報のため、木版一枚摺(ずり)(ときには2、3枚の冊子)にして発行された出物。版という名称幕末に使われ始め、それ以前は、読売(よみうり)、絵草紙(えぞうし)、一枚摺などとよばれた。土版に文章と絵を彫り、焼いて原版とした例もあったという説もあるが不明確である。最古の瓦版は大坂夏の陣を報じたもの(1615)といわれるが明確ではない。天和(てんな)年間(1681~1684)に、江戸の大火、八百屋(やおや)お七事件の読売が大流行したと文献にみえ、貞享(じょうきょう)・元禄(げんろく)年間(1684~1704)には上方(かみがた)で心中事件の絵草紙が続出したと伝えられる。これが瓦版流行の始まりである。

 江戸幕府は、情報流通の活発化を警戒してこれらを禁圧し、心中や放火事件などの瓦版は出せなくなった。江戸時代中期には、1772年(明和9)の江戸大火、1783年(天明3)の浅間山大噴火など災害瓦版が多く現れ、打毀(うちこわし)を報じたものもあったが、寛政(かんせい)の改革(1787~1793)以後、取締りがいっそう厳しくなった。しかし、文政(ぶんせい)年間(1818~1830)以後になると、大火、地震、仇討(あだうち)などの瓦版が、禁令に抗して幾種類も売られ、また、米相場一覧、祭礼行列図、琉球(りゅうきゅう)使節行列図なども刊行された。安政(あんせい)の地震(1855)の瓦版は300種以上も出回り、その後、明治維新に至る政治的事件の報道、社会風刺の瓦版が続出した。瓦版の値段は、半紙一枚摺で3~6文、冊子型は16~30文ほどであった。作者、発行者は絵草紙屋、板木屋、香具師(やし)などであろう。安政の地震の際には、仮名垣魯文(かながきろぶん)、笠亭仙果(りゅうていせんか)などの作者や錦絵(にしきえ)板元が製作販売にあたってもいる。

 明治に入って瓦版は近代新聞にとってかわられるが、その先駆的役割を果たしたといえよう。

[今田洋三]

『小野秀雄著『かわら版物語』(1960・雄山閣出版)』『今田洋三著『江戸の災害情報』(西山松之助編『江戸町人の研究 第5巻』所収・1978・吉川弘文館)』


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精選版 日本国語大辞典「瓦版」の解説

かわら‐ばん かはら‥【瓦版】

〘名〙
① かためた粘土に文字や絵を掘りこんで焼き、これを原版として用いた印刷。また、その印刷物。
② 江戸時代、種々の事件を木版で印刷し、市中を売り歩いた一枚刷りの出版物。心中、仇討ち、刑死、火事などの新奇な事件を街頭で読み売りした。読み売り。
※評判記・嗚久者評判記(1865)「とにも角にも瓦板の中興、イヨおやだまア」
[語誌](②について) (1)名の由来は、瓦に文字を彫って印刷したから、または、それを思わせるほどに粗末な木版印刷だったからなどの説があるが、確証はない。
(2)「かわらばん」という呼称は幕末になって文献に現われる。それ以前は、「えぞうし(絵草紙)」、「よみうり(読売)」などと呼ばれていた。同種のもので現存する古いものは、慶長二〇年(一六一五)大坂夏の陣の際に発行された「大坂安部之合戦之図」と「大坂卯年図」であるといわれる。

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百科事典マイペディア「瓦版」の解説

瓦版【かわらばん】

江戸時代の印刷ニュース媒体。大小さまざまの木版一枚刷り,また半紙二つ折りを数枚綴じたものもある。絵を中心にしてそのまわりに説明を配している。幕府の禁制のため政治的なニュースを扱ったものはまれで,天変地異,仇討(あだうち),孝子忠僕の表彰などのほか,俗謡,戯文などをも扱い,街頭で売られた。瓦版の名称が一般化したのは明治以後で,それ以前は売り手が大声で読みながら売ったところから,〈読売り〉と呼ばれた。17世紀に始まるといわれ,化政期〜幕末が最盛期で,幕府の禁令を犯して秘密出版までなされたが,明治以後,新聞の発達に伴い衰えた。
→関連項目仮名垣魯文

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典「瓦版」の解説

瓦版
かわらばん

江戸時代に売出されたパンフレット類。初期の頃「絵草紙」といった。多くは木版で,天変地異や仇討ちなどのニュースのほか,浄瑠璃や小唄などを題材にしたものもある。街頭で読みながら売ったため,当時は「読売」と呼ばれた。現存する最古の瓦版は,大坂夏の陣を描いた元和1 (1615) 年のもの (『大坂安部之合戦之図』) 。ドイツにもフルークブラットという瓦版のような印刷物が 15~16世紀にあった。明治に入り,新聞の登場で姿を消した。

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旺文社日本史事典 三訂版「瓦版」の解説

瓦版
かわらばん

江戸時代の新聞風の出版物
読み売りともいう。街頭で売り歩き,木版の半紙1枚刷で,江戸中期ころに3〜4文したらしい。時々のニュースや三面記事,替歌・はやり唄までのせ,絵入りのものが多い。明治時代,新聞に押されて衰亡

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デジタル大辞泉「瓦版」の解説

かわら‐ばん〔かはら‐〕【瓦版】

江戸時代、天災地変・火事・心中などの事件を速報記事にして街頭で売り歩いた印刷物。ふつう半紙一枚刷り。原版として木版が残るが、もとは粘土に文字や絵を彫り、瓦のように焼いて作ったという。読み売り。

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世界大百科事典 第2版「瓦版」の解説

かわらばん【瓦版】

江戸時代に行われた不定期刊行の印刷ニュース媒体。多くの場合,絵画を中心として説明文を書き添えたもので,形態は大小さまざまな木版一枚刷りのものと,半紙二つ折りを数枚綴じたものとがある。事件発生の都度,街頭で読売りされたので〈読売り〉または〈辻売りの絵草紙〉などと呼ばれていた。瓦版という名称は幕末ころの文献に初めて見られ,いわゆる〈読売り〉の粗末なものに対する蔑称(べつしよう)として用いられていた。今日のように瓦版が〈読売り〉の代名詞となったのは明治の末年からのことである。

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世界大百科事典内の瓦版の言及

【新聞】より


【日本】
 17世紀初めから19世紀後半まで,日本では社会的事件が起きたときに,文字または文字と絵でそのニュースを伝える1枚刷のビラが大都市で売られた。これを〈読売〉あるいは〈瓦版〉と総称する。〈瓦版〉とは,粘土版に文字や絵を彫り,それを焼いて刷版としたからだが,木版刷のものも多い。…

【フルークブラット】より

…多く街頭で呼び売りされた。日本の瓦版とある程度類似した機能をもち,定期的に発行される新聞の先駆形態の一つである。フランス(カナールcanardと称される),スペインなどヨーロッパ各国で出されたが,ドイツの印刷業者の手になるものが最も多い。…

※「瓦版」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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