側頭動脈炎(読み)そくとうどうみゃくえん(その他表記)Temporal arteritis

六訂版 家庭医学大全科 「側頭動脈炎」の解説

側頭動脈炎
そくとうどうみゃくえん
Temporal arteritis
(脳・神経・筋の病気)

どんな病気か

 高齢者の頭痛の原因として重要な疾患ですが、日本人では白人ほど多くありません。側頭部の皮下を走っている浅側頭(せんそくとう)動脈に起こる血管の炎症血管炎)で、50歳以上で発症し、60~70代をピークに高齢者にみられます。

原因は何か

 この血管に起こる炎症の原因はまだわかっていません。

症状の現れ方

 片側または両側の側頭部に、拍動性の強い痛みを自覚するようになり、場合によっては、ものを噛む時に、ものを噛んだり咀嚼(そしゃく)したりする筋肉に痛みを伴います。典型的な場合には、側頭部に発赤を認め、索状(さくじょう)(ヒモのように細長い形態)になった肥厚した浅側頭動脈が触れます。

 この病気では、頭痛ばかりではなく、約4~5割の患者さんで視力障害が認められ、約1割の患者さんで失明することがあります。眼動脈にも炎症が生じ、視神経や網膜の血流障害が起こるからです。

 また、リウマチ性多発筋痛症(たはつきんつうしょう)に類似した全身の筋肉痛を伴うこともあります。

検査と診断

 血沈が著しく亢進していることが多くみられます。血管撮影では外頸動脈系(がいけいどうみゃくけい)狭窄(きょうさく)などを認めます。診断を確実にするには、浅側頭動脈の生検(組織をとって調べる)が必要になります。

治療の方法

 副腎皮質ステロイド薬を用います。早期から治療することが大切です。服用する期間が短いと再発することがありますので、専門医とよく相談しながら治療を受けてください。

病気に気づいたらどうする

 強い頭痛を感じたら、早めに神経内科あるいは脳外科の専門医の診察を受け、診断を確実にして、早期から適切な治療を受けてください。

荒木 信夫


側頭動脈炎
そくとうどうみゃくえん
Temporal arteritis
(膠原病と原因不明の全身疾患)

どんな病気か

 60歳以上の高齢者に多い中・大型動脈の血管炎です。「巨細胞性(きょさいぼうせい)動脈炎」とも呼ばれています。

原因は何か

 原因は不明です。白人に多くみられ、人種差があります。

症状の現れ方

 発熱、体重減少、倦怠感などの全身症状と、頭痛、頸部・肩甲部痛、顎関節の疲れ、視力障害が現れます。頭痛は圧痛(押すと痛む)があり、拍動性で、片側が多く、有痛性の側頭動脈を触れます。また、視力障害、失明(約10~20%)にも注意が必要です。「リウマチ性多発筋痛症」は本疾患の亜型です。

検査と診断

 年齢や先述の症状と、採血でCRPや赤沈が高値であり、他の疾患が否定された場合、側頭動脈の生検が重要です。側頭動脈の病変がない亜型が報告され、大動脈から大腿動脈までのCT(コンピュータ断層撮影)やMR(磁気共鳴画像)による血管造影をすすめます。FDP­PET/CTが検査感染症や悪性腫瘍との鑑別にも有用です。

治療の方法

 ステロイドを1日30~40㎎内服し、症状や検査所見が改善すれば漸減・中止します。視力障害は早期に生じ、失明の可能性が高いため、眼科を受診し、ステロイド・パルス療法を行うことが重要です。抗血小板・抗凝固薬の内服もすすめられます。

病気に気づいたらどうする

 初期は失明を避けることが重要で、まず眼科を受診し、それから内科(膠原病内科)を受診してください。その後は、ステロイドによる合併症を予防することが大切です。


側頭動脈炎(巨細胞性動脈炎)
そくとうどうみゃくえん(きょさいぼうせいどうみゃくえん)
Temporal arteritis (Giant cell arteritis)
(お年寄りの病気)

高齢者での特殊事情

 50歳以上の年齢層に発症し、男女比はほぼ1対1.6程度で、女性にやや多い傾向があります。理由は不明ですが、日本ではまれな疾患です。側頭動脈のみでなく、全身の中・大動脈の炎症を来し、原因は不明です。典型的な例では、有痛性または肥厚性の側頭動脈を触れることができます。

 発熱、倦怠感、体重減少などの全身症状を伴います。頭痛は拍動性(ズキズキする痛み)で、片側のことが多く、夜間に悪化しやすい特徴があります。虚血症状として、頭痛のほか、視力障害(時に失明)、舌壊死(ぜつえし)咀嚼筋筋痛(そしゃくきんきんつう)大動脈弓(だいどうみゃくきゅう)症候群がみられることがあります。

 検査による所見は、リウマチ性多発筋痛症と同様、炎症所見が主体で、特異的なものはなく、赤血球沈降速度の高度亢進がみられます。側頭動脈の生検(組織を採取して調べる検査)によって診断できます。

治療とケアのポイント

 治療には副腎皮質ステロイド薬が有効です。視力障害など重篤な血流障害に基づく症状が認められる場合には、治療を急ぐ必要があります。

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

家庭医学館 「側頭動脈炎」の解説

そくとうどうみゃくえん【側頭動脈炎】

 巨細胞性動脈炎(きょさいぼうせいどうみゃくえん)とも呼ばれる、側頭部にある側頭動脈に炎症がおこる病気です。
 55歳以上の高齢者に発症し、男女差はみられません。比較的まれな病気です。
 炎症によって動脈が赤く腫(は)れ蛇行(だこう)し、押すと痛みます。それと同時に高い熱が出て、頭痛がおこります。体重減少、全身のだるさ(倦怠感(けんたいかん))なども現われてきます。
 炎症が目の動脈におよぶと、目のかすみ、ものが二重に見えたり(複視(ふくし))、重症の場合は失明することもあります。
 約50%にリウマチ性多発筋痛症(せいたはつきんつうしょう)(「リウマチ性多発筋痛症」)を合併することがあります。
 治療には、大量のステロイド(副腎皮質(ふくじんひしつ)ホルモン)薬の使用が必要となります。

出典 小学館家庭医学館について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「側頭動脈炎」の意味・わかりやすい解説

側頭動脈炎
そくとうどうみゃくえん

側頭動脈に限局した特殊な動脈周囲炎として1932年にアメリカの医師ホルトンBayard Taylor Horton(1895―1980)らにより定義された疾患で、病理学的所見では動脈周囲の炎症のほか、中膜に多核性巨細胞が多数みられるのが特徴である。したがって巨細胞性動脈炎ともよばれる。症状は、側頭動脈に沿って持続する頭痛や発熱、食欲不振、白血球増加や血沈亢進(こうしん)などで、60歳以上の高齢者に多い。侵された動脈は怒張し、結節をつくって蛇行し、触ると固く、圧痛がある。全身のほかの動脈にも動脈炎を併発することがあり、とくに網膜血管がよく侵され、網膜中心動脈に血栓を生じて失明することもある。治療としては副腎(ふくじん)皮質ステロイド剤が早期から使用され、しばしば奏効する。

[荒木五郎]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

内科学 第10版 「側頭動脈炎」の解説

側頭動脈炎(血管炎)

(1)側頭動脈炎(temporal arteritis,giant cell arteritis)
 おもに60歳以上の高齢者に発症する頸動脈とその分枝動脈,特に側頭動脈に起こる巨細胞性動脈炎(肉芽腫性動脈炎)を主徴とする原因不明の血管炎である.動脈炎は側頭動脈以外にも,頭蓋内血管(眼動脈など)や大動脈にも起こり,神経症状を呈することがある.原因は前駆症状としてウイルス感染症や遺伝的素因としてHLA-DR4との相関などが報告されているが詳細は不明である.【⇨10-2-4)】[阿部康二]

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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