出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報
頭痛は臨床上最も頻度の高い訴えで,医師に治療を求める患者の半数以上において認められる。頭痛があっても受診しない患者を考慮に入れると,さらに多くの人がなんらかの頭痛を経験していると思われる。頭痛は頭蓋内外の器質的疾患や感染などさまざまな全身性疾患の部分症状としても起こり,また頭痛そのものが疾患の主要症状であるいわゆる機能性の慢性頭痛も多い。前者には適切な治療を欠くと生命の危険のある疾患もあり,他方後者では遺伝素因が大きく関与したり,不安,緊張などの精神的要因によって起こるものもある。したがって頭痛はつねに注意深い鑑別診断を要し,それを訴える患者の診療にあたっては,医学的診察のみならず,生活環境をも含んだ全人格的立場から接しなければならない。
頭痛は頭蓋内外の組織の刺激によって生ずる。頭部における頭蓋外の痛覚感受性組織は,頭蓋の皮膚,頭蓋外の動脈,鼻腔・副鼻腔粘膜,外耳・中耳,歯,頭蓋・顔面・頸部の筋肉などである。これらの障害による疼痛は通常限局しているが,ときにはかなり広範囲のこともある。頭蓋内の痛覚感受性組織は,頭蓋内の静脈洞とそれに注ぐ大静脈,頭蓋底部の硬膜,硬膜動脈,脳底部の動脈とその大分枝,第2・第3頸髄神経,第5・第9・第10脳神経などから成る。
頭蓋内疾患における頭痛の基本的発症機序は,痛覚感受性組織の直接的あるいは間接的牽引,頭蓋内血管の拡張,痛覚感受性組織そのものあるいは近傍の炎症,脳室内圧の上昇による痛覚感受性領域のゆがみ,あるいは腫瘍による脳神経,脊髄神経への直接的圧迫などである。これらの一つあるいはいくつかが組み合わさって作用していると考えられる。頭蓋外疾患における頭痛の機序は,頭皮の血管の拡張,持続的筋収縮および痛覚感受性組織あるいはその近傍の炎症である。
小脳天幕上の組織からの痛みは,第5脳神経を介して前頭部および側頭・頭頂部前方の頭痛として感ずる。天幕下および後頭蓋窩(か)の組織からの痛覚は,舌咽・迷走神経および第2・第3頸髄神経を介して後頭部に頭痛として感ずる。
頭痛が頭蓋内外の器質的疾患による部分症状であるか,あるいは頭痛を主症状とする機能性の頭痛であるかの鑑別は,家族歴や既往歴を含む患者の病歴,頭痛の性状,神経学的検査により比較的容易であるが,頭痛の原因を明らかにすることはしばしば困難である。しかし片頭痛の各型と三叉(さんさ)神経痛は問診だけでほぼ診断がつく。すなわち頭痛についての問診としては以下の項目が必要である。(1)1日のうちいつ頭痛が起こりやすいか,(2)頭痛は持続性か発作性かまたは周期性か,(3)頭痛の強さと性質(ずきずき痛む拍動性,ずーんと痛む圧迫性,きりきり痛む乱切性など),(4)頭痛の部位,(5)頭痛の誘因(疲労,不眠,月経,天候,職業など),(6)薬物の効果,(7)随伴症状(吐き気,嘔吐,閃輝暗点,半盲,視力低下,複視,流涙,鼻汁,角膜や顔面の潮紅など)の有無と頭痛との時間的関係,(8)患者の生活歴,(9)合併症の有無,(10)家系内の類症者など。
発症のしかたについては,突発性の強い頭痛はとくに意識障害や局所的神経症状を伴う場合や,脳出血や髄膜炎などにみられる。高齢者で初発した再発性あるいは持続性の頭痛は,頭蓋の動脈炎,緑内障,頸動脈などの循環不全あるいは高血圧によることが多い。
頭痛の生ずる時間的関係については,高血圧や腫瘍あるいは前頭洞の炎症などによる頭痛は,覚醒時や早朝に多い。これに対して上顎洞の炎症による頭痛はふつう午後に始まり,群発性頭痛は夜間,とくに就眠後間もないころに多い。一般に緊張性頭痛にはこのような関係はなく,朝,覚醒時からあるいはやや遅れて始まることもあるが就眠まで続くことが多い。
部位については,片頭痛はふつう前頭部に多く,2/3は片側性で,患側が一側から他側へと変わる傾向がある。一側に限局した繰り返す頭痛のときは脳腫瘍を考慮しなければならないが,進行して頭蓋内圧が亢進してくると両側性となる。副鼻腔,歯,眼,上部頸椎などの疾患による頭痛は,その病変のある領域に感じられることが多い。
頭痛の性状については,拍動性頭痛は片頭痛,高血圧あるいは発熱などに伴う血管拡張による。神経痛では,一過性のショック様の刺すような激しい疼痛が生ずる。脳腫瘍ではふつう持続的なうずくような痛みであるが,初期には間欠的であることもある。筋収縮性頭痛は,一定の圧迫性あるいは締めつけられるような痛みである。
頭蓋内疾患による頭痛は,なんらかの神経症状を伴うことが普通である。髄膜腫のような腫瘤形成性の病変は頭痛を訴える前に局所症状を呈しやすいが,浸潤性の神経膠腫(こうしゆ)などは大脳半球全体を占めるほどになっても頭痛を訴えないことがある。転移性脳腫瘍もよく頭痛を伴うが,必ずしも激しいものでなく,また一定したものでもない。髄膜癌腫症も頭痛を伴いやすく,何ヵ月も他の症状に先行することすらある。結核菌,真菌あるいは寄生虫などによる慢性の髄膜炎では,頭痛はふつう早期症状である。
日常の生活様式との関係も重要で,頭蓋内の血管の障害に随伴する頭痛は,その原因が二日酔であれ脳腫瘍であれ,頭を急に動かしたり,咳をしたり,いきんだりすることで増悪する。性交は緊張性頭痛および血管性頭痛をもたらすことがあり,ときにくも膜下出血のきっかけとなることも知られている。多くの頭痛は,精神的なあるいは生活環境からのストレス要因によって増悪する。
診察は,頭頸部のみならず全身について行われなければならない。とくに詳細な神経学的検査が重要である。そして必要に応じてX線写真,CTスキャン,MRI,脳波等の特殊検査も行って,正確な診断をつけることが適切な治療のために最もたいせつである。
頭痛は表のように分類される。偏頭痛は,繰り返し起きる拍動性頭痛を特徴とする。機序としては,発作性に生ずる脳動脈の攣縮(れんしゆく)に引き続く外頸動脈系の拡張(血管説),あるいは三叉神経と血管の両動障害が考えられている。最近は神経伝達物質のセロトニンや遺伝子異常などが注目されている。臨床的には閃輝暗点などの前兆が頭痛発作に先行するものと,そうでないものとに大別されるが,後者が多い。随伴症状として悪心,嘔吐などを伴い,数時間持続したのちに,睡眠とともに消失することが多い。緊張性頭痛は,頭部および頸部の諸筋肉の持続的な収縮によって生ずるが,精神的緊張を背景としていることが多い。日常最も頻度が高い頭痛で,慢性の頭痛には多かれ少なかれこの頭痛が関与する。
脳腫瘍,髄膜炎,脳出血,高血圧,眼・耳・鼻・歯・頸椎の疾患など,原因が明らかな場合はその治療を行う。対症的には消炎鎮痛剤や精神安定剤などを用いるが,その頭痛の発症機序を考慮しつつ対応することが必要である。
片頭痛発作に対しては,外頸動脈系の選択的収縮剤のエルゴタミン製剤が用いられる。これは発作の前兆期あるいはごく初期に用いることが重要である。また一般の鎮痛剤や精神安定剤も補助的に使用する。発作間欠期には精神的緊張を避け,過労や不安などの誘因を除去することがたいせつで,このために鎮静剤を用いることもある。
筋収縮性頭痛に対しては,まず精神的緊張をとるようにし,加えて筋弛緩剤,精神安定剤,消炎鎮痛剤などを用いる。頸部のマッサージや温熱療法などの理学療法が有効なこともある。
執筆者:水沢 英洋
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頭の中に感じる痛みを頭痛といい、頭皮の表面に感じる痛みは頭痛とはいわない。しかし実際には、頭蓋(とうがい)骨の外側にある筋肉・筋膜・動脈・神経などの軟部組織に起因する投射痛を頭の中の痛みとして感じている場合が多く、頭の中には痛みを感受する場所はごくわずかしかない。
頭痛の原因としては、頭蓋内外の血管の異常な拡張および頭蓋筋の持続性収縮によるものが多い。前者による頭痛は血管性頭痛とよばれ、片(へん)頭痛がその代表である。後者による頭痛は筋収縮性頭痛である。これらは機能障害性頭痛ともよばれ、頭痛はそれ自体が一つの疾患とみなされる。頭痛は繰り返しおこり、慢性に経過するのが特徴で、種々の精密検査をしても身体的な原因はみいだしえない。このような頭痛の治療としては、単に鎮痛剤が用いられるだけでなく、片頭痛に対しては発作時には血管を収縮させる作用のあるトリプタン系薬剤やエルゴタミン製剤を用いることが多い。予防には、カルシウム拮抗(きっこう)薬の塩酸ロメリジン、β(ベータ)遮断薬、精神安定剤などが用いられ、また筋収縮性頭痛に対しては筋弛緩(しかん)作用をもった精神安定剤や抗うつ剤などが用いられる。日常生活では精神的な緊張を避け、過労にならないよう注意する。筋収縮性頭痛では軽い体操、頸部(けいぶ)筋のマッサージ、入浴などが効果がある。また、かぜ、高熱、二日酔い、血圧異常などの際みられる急性頭痛も血管が拡張するためにおこり、機能障害性頭痛に含まれる。
このほか、頭痛の原因には、頭蓋内の器質的な病気、眼・耳・鼻・歯疾患など頭蓋外の病気などがある。頭蓋内の器質的な病気のうち、脳腫瘍(しゅよう)や脳出血のように頭蓋内の一定の空間を占拠するような病気による頭痛は、頭蓋内にある血管、神経、硬膜の一部など痛覚感受部位が圧迫、牽引(けんいん)されておこり、牽引性頭痛とよばれる。これに対して髄膜炎など炎症による頭痛は炎症性頭痛といい、頭蓋内外の痛覚感受部位が刺激を受けておこる。一方、眼・耳・鼻・歯疾患による頭痛は、三叉(さんさ)神経、舌咽(ぜついん)神経、迷走神経などを介する投射痛となるが、頭蓋筋の持続的収縮も関与する。このようななんらかの病気の際にその症状の一つとして現れる頭痛では、治療の対象となるのは頭痛の原因疾患で、それが治れば頭痛も消失する。とくに「脳腫瘍」「脳出血」「くも膜下出血」「髄膜炎」「硬膜下血腫」など生命にかかわる原因疾患は重要である。関連する疾患の項目を参照されたい。
[海老原進一郎]
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…〈首〉の項目を参照。 頭痛は脳または脳膜の症状であるが,英語でheadache,ドイツ語でKopfschmerz,フランス語でmal à la têteとすべて頭で代用する。ケルススもcapitis doloresとラテン語の頭の語を使った(《医術について》)。…
…〈首〉の項目を参照。 頭痛は脳または脳膜の症状であるが,英語でheadache,ドイツ語でKopfschmerz,フランス語でmal à la têteとすべて頭で代用する。ケルススもcapitis doloresとラテン語の頭の語を使った(《医術について》)。…
※「頭痛」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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