先制攻撃論(読み)せんせいこうげきろん

知恵蔵 「先制攻撃論」の解説

先制攻撃論

2006年7月5日の北朝鮮ミサイル発射後、「(ミサイルが)日本に向けられる場合、被害を受けるまで何もしないわけにはいかない」(麻生外相)など閣僚たちが先制攻撃論を唱え、読売新聞06年7月11日付の社説のように、敵基地攻撃を支持する論調も出ている。日本海に突き出た岬、舞水端(ムスダン)からミサイルが発射される映像を見れば、それが可能なように思えるのだろうが、これは「試射場」にすぎず、実戦用のノドンなどは移動発射機に載せて山間部トンネルに隠し、出してからミサイルを直立させて発射する。大体の地域は分かっても詳しい位置は不明で、場所が分からないものはたたけない。 偵察衛星は約90分で地球をほぼ南北に回り、地球は東西方向に自転するから、各地の上空を1日に1、2回、高度数百kmで通過する。時速3万km近いから北朝鮮を撮影できるのは1日に2、3分で常時監視は無理だ。赤道上空3万6000kmの静止衛星はミサイル発射の大量の赤外線を常時探知できるが、この高度ではそれ以外は分からない。無人偵察機を旋回させておけば、発射機が出たのが分かるとしても、平時に外国内陸の山間部を監視するには領空侵犯を続けざるを得ず、撃墜されやすい。 仮に発射機が出て、ミサイルを立てる光景を撮影できても、それが訓練なのか、実験発射か、弾頭を積んでいるのか、日本向けか否か、は判断しにくい。また反撃を考えれば一挙にすべてのミサイルを破壊しなければならず、これも不可能だ。軍事知識に欠けたタカ派観念論の典型的な例だ。

(田岡俊次 軍事ジャーナリスト / 2008年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

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