新聞が自社の意見として掲載する論説。通常,論説委員会で論議のうえ,そのテーマの分野を担当する委員が執筆する。イギリスでは1695年特許検閲法の廃止によって数多くの新聞が創刊された。ホイッグ,トーリーの二大政党の対立を背景にD.デフォーの《レビュー》(1704-13),J.スウィフトが半年間論説を担当した《エグザミナー》(1710-12),J.アディソンの《スペクテーター》(1711-12)などが解説,論説を載せて評論新聞essay paperと呼ばれた。これらを社説の祖とみることができる。日本では1867年(慶応3),江戸幕府の大政奉還による混乱期に柳川春三の《中外新聞》,福地桜痴(源一郎)の《江湖新聞》など数種の新聞が創刊されたが,その大半は佐幕的な立場からの報道,主張を掲げた。とくに福地の〈強弱論〉は薩長の敗北を論じて,明治新政府の忌諱に触れ,政府は68年(明治1)福地を逮捕し,最初の筆禍事件となった。これ以後,言論弾圧が続くことになる。欧米でも日本でも,新聞の創始期には報道と論説は未分化であって,新聞は報道とともに主張を広めることもその主要な任務としたのであり,同時に社説の歴史は言論の自由獲得の歴史と密接に結びついていた。
イギリス,アメリカでは19世紀後半にペニー・ペーパーpenny paperと呼ばれる廉価大衆新聞が続出した。これらの新聞は,定価の引下げを広告収入の増加で穴埋めをはかったので,広告主への気がねなどから社の主張よりも報道が重視されるようになった。日本でも1880年代から報道新聞時代となって〈不偏不党〉を掲げる新聞が現れるようになってから,社説の位置は低下し,また読まれなくなってきた。欧米では無署名の社説よりも,著名なコラムニストによる署名入り評論のほうが愛読される傾向にある。これに対して,日本では,読者の価値観の多様化,新聞が大部数になったことによる歯切れの悪さなどが,社説を魅力の乏しいものとしたといわれる。しかし最近はアメリカでは2ページを割いて,3,4本の社説のほか,コラムニストの評論,読者からの投稿,他紙の社説やテレビの解説の要約などを載せ,エディトリアル・ページeditorial pageと呼んで意見の広場とする有力紙がふえる傾向にあり,日本でも有力紙の多くが同様の編集を始めている。
執筆者:新井 直之
放送で特定の放送局が,なんらかの争点となっている問題について,局の立場を明確にした意見を放送すること,また,そうした放送番組をいう。放送は印刷物と異なり,情報をのせる媒体である電波が,周波数帯域の割当て上から有限であり,そのことを主たる理由として一般に免許事業として運営されている。そのような放送の性格から,放送では争点となっている問題について放送局が一方的な意見を表明することは好ましくないとし,禁止されている国が多い。アメリカでは社説放送editorial broadcastingが認められてはいるが,原則として反論を申し出る者に同等の時間の放送を認めねばならないことになっている(反論権)ため,大きな争点についての本格的社説放送は普通はあまり多くない。しかし,周波数帯の開発,CATVの多チャンネル化など,多様な電波メディアの登場が予想される今後においては,社説放送を制限したり,現実に社説放送の実施をしぶっている状況は変化することと思われる。
執筆者:後藤 和彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
国内・国外で日々生起する政治、経済、社会などの時事問題について、新聞社、出版社が、社の責任において、その理非を論じたり、説明したりするために紙(誌)上に掲げる意見、主張のこと。現在の日本の新聞の社説は一般に匿名であり、社が責任を負う形になっている。新聞が発生した初期のころは、時事問題を論じた投書または著名な学者、政治家、有識者の寄稿を「論説」として掲載して、民衆の啓蒙(けいもう)にあたっていた。欧米の新聞、出版物でも、初期のころは投書(レター)の形式をとっていたが、19世紀初期から、発行者、編集者が自ら論説を執筆、掲載するようになり、しだいに現在の社説の形になってきた。
日本の新聞に社説が登場したのは1874年(明治7)からで、『日新真事誌』『朝野(ちょうや)新聞』『東京日日新聞』などの、いわゆる政論新聞が社説欄を常設、著名な論客が執筆するようになり、社説の影響力が認識されるようになった。明治から大正にかけ、自由民権、国会開設、条約改正、憲政擁護、普通選挙運動などに社説が果たした役割は大きかった。第二次世界大戦後、新聞をはじめ各種のマス・メディアが発達・普及し、情報伝達機能が高まるとともに、民衆の情報・知識が豊富になるにつれ、筆者の権威による論説から、しだいに匿名の社説に変化してきた。
現在の社説は、日々生起する時事問題に、民衆の代表としての新聞の立場から、ことの理非を論じ、批判するとともに、その問題に対する民衆の理解を助ける解説的役割を果たすという性格が強くなっている。これは、現在の新聞が客観報道を旨とし、政治的には中立・公正、不偏不党を社是とするものが多くなったからである。しかし、こうした社説の変化に対し、「批判的精神が貧弱で、主張に魅力がなくなった」「社説の呼びかける対象がはっきりしない」「構成がわかりにくく、論旨があいまいである」「抽象語が多く、具体性に欠ける」などの批判が高まっており、社説を読む人が少なくなっている。この意味で社説がもつ社会的影響力はかならずしも高いとはいえないが、社説を通して各紙のさまざまなトピックに対する姿勢を理解できることから、新聞の重要な要素であることにはかわりない。
なお、アメリカでは、放送の分野でも放送局が社説放送editorial broadcastingを行っているが、日本のラジオ、テレビでは「放送の中立性」というたてまえから、社説放送は認められていない。
[高須正郎・伊藤高史]
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