日本大百科全書(ニッポニカ) 「光線追跡」の意味・わかりやすい解説
光線追跡
こうせんついせき
光を波動ではなく粒子として扱い、その運動を直線で表したとき、運動のようす(軌跡)を光線とよぶ。光線を光学系の初めから入射させ、鏡で反射させたり、レンズで屈折させながら順次光線を追跡し、光学系を設計・評価する方法。
カメラや望遠鏡などの光学系を設計するとき、レンズの前面から複数本の光線を光学系に入射させ、それらの光線が光学系の中で、反射・屈折を繰り返して到達したフィルムやCCDイメージセンサーなどの光学受光素子上での光学像の理想状態(点像)からのズレ(収差)を評価しながら、レンズの曲率半径や厚さ、間隔などを変化させ、収差を最小にするように設計する。コヒーレンス(可干渉性)のよいレーザーを使った光学系(レーザースキャナーやレーザーディスプレーなど)の場合は、光線による収差だけでなく、波面(位相)収差も考慮した設計を行う。光線追跡は、屈折や反射などを数学に基づいて計算する。以前は膨大な光線追跡の計算を手計算で行ったため、非常に手間のかかる作業であったが、現在はコンピュータにより高速で計算できるようになった。最近では光線追跡は光学系の設計だけでなく、コンピュータグラフィクスComputer Graphicsで物体への光の当たり方(陰影)や質感までも表現するためのレイトレーシングray tracingとしても使われている。
[山本将史 2022年2月18日]