改訂新版 世界大百科事典 「免疫学的寛容」の意味・わかりやすい解説
免疫学的寛容 (めんえきがくてきかんよう)
immunological tolerance
特異的に免疫応答性が低下している状態。一般に自己の抗原物質に対して生体は免疫応答を示さない。この状態は自己免疫寛容あるいは自然免疫寛容と呼ばれている。また外来抗原(タンパク質抗原や同系組織適合抗原)に対しても,さまざまな方法で免疫応答を特異的に低下させることができる。この状態は獲得免疫寛容と呼ばれている。F.M.バーネットは,胎生期~新生期に自己抗原に触れた特異的リンパ球は消滅して自然免疫寛容が成立すると考えた。これは,P.B.メダワーらの新生期に異系脾細胞の移入により異系皮膚移植が可能になる(獲得免疫寛容が成立する)実験で証明された。その後の研究から免疫寛容は,(1)クローンの消滅のみでなく,(2)サプレッサーT細胞の関与,(3)血清中のリンパ球機能の阻止因子の存在,によっても成立することがわかってきた。しかし,(2)(3)は特殊な場合にみられる現象で,自然免疫寛容は通常(1)によって成立しているものと考えられる。
なお,動物体に多量の抗原を与えたとき免疫応答が抑制される現象を免疫麻痺immunological paralysis(免疫パラリシスともいう)といったが,現在では,この語は広い意味で免疫学的寛容の一種と考えられている。
→免疫
執筆者:藤原 道夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報