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免疫 めんえき

妊娠・子育て用語辞典の解説

めんえき【免疫】

「自分と違う異物」を攻撃し、排除しようとする人間の体の防御システム。動物にもこのシステムがあります。たとえばウイルスや細菌など病気の原因になる微生物(=病原体)が体内に侵入したときも、体は「自分とは違うものが入り込んだ」と判断し、排除しようとします。特定のもの(たとえば、麻しんのウイルス)などに対しては、細胞が「これは麻しんのウイルス」と覚えます。2度目に麻しんウイルスが入ってきたときは、記憶していた細胞が「麻しんウイルスだけに反応する対抗物質(抗体:こうたい)」をたくさん作り、撃退します。一度かかれば二度はかからない病気があるのは、このためです。予防接種もこの免疫システムを利用したもの。病気の原因となるウイルスの毒性を弱めたり活動しないように処理して(=ワクチンのこと)体内に入れ、抗体をつくります。

出典 母子衛生研究会「赤ちゃん&子育てインフォ」指導/妊娠編:中林正雄(愛育病院院長)、子育て編:多田裕(東邦大学医学部名誉教授) 妊娠・子育て用語辞典について 情報

デジタル大辞泉の解説

めん‐えき【免疫】

病原体毒素、外来の異物、自己の体内に生じた不要成分を非自己と識別して排除しようとする生体防御機構の一。本来は、ある特定の病原体に一度感染して回復できると抵抗性をもつようになり、同じ病気にかからなくなることをいう。先天的に備わる自然免疫と、後天的に得られる獲得免疫がある。機構としては細胞性免疫液性免疫の二つが働く。
物事が度重なってそれに慣れてしまうこと。「騒音に免疫になる」

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百科事典マイペディアの解説

免疫【めんえき】

生体が自己と異質な物質を識別し排除する現象およびその機構。病原体や毒素,花粉,ほこりその他の外来物,他人の臓器,自らの変性したタンパク質などの異物は抗原として認識され,生体防御機構としての免疫が発動する。
→関連項目アレルギー性疾患アレルギー反応アレルギー・マーチ異種間臓器移植移植片対宿主反応病感染巣キメラサイコオンコロジー自己血輸血自己免疫種痘スネル帯状疱疹多田富雄腸内細菌ツベルクリン反応DNAワクチン伝染病乳児脳内モルヒネ無輸血手術免疫不全症予防接種淋菌リンパ球

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栄養・生化学辞典の解説

免疫

 病原体や毒素に生体が反応した結果獲得するそれらに対する抵抗性.多くの機構が知られている.

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世界大百科事典 第2版の解説

めんえき【免疫 immunity】

免疫とは,まず字義どおり〈疫を免れる〉仕組み,ことに感染症から免れるための,一連の生体防御機構をさす。その機構の基本となるのは,生体が〈自己〉でないもの,すなわち〈非自己〉を〈自己〉と識別して,〈非自己〉から〈自己〉を守る,という反応能力である。そこから免疫を,単に感染症に対する自然の,あるいは獲得性の抵抗力としてとらえるのではなくて,生体が自己を他のあらゆるものと区別して,その全一性を守る,という生物学的恒常性の一つとしてとらえることができる。

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大辞林 第三版の解説

めんえき【免疫】

〔疫病を免れる意〕 感染症などに一度かかると、二度目は軽くすんだり、まったくかからなくなったりすること。生体が自己にとって健全な成分以外のものを識別して排除する防衛機構。細菌感染の防御のようにリンパ球が生産する抗体による体液性免疫と、移植片に対する拒絶反応のようにリンパ球自身が対象を攻撃する細胞性免疫とがある。
何度も経験して抵抗を感じなくなること。 「中傷記事には-になっている」

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

免疫
めんえき
immunity

体内に抗原に対する抗体がつくられ,同じ抗原によっては2度と発病しない現象をいう。抗体は,化学的には免疫グロブリンと呼ばれる一種の蛋白質で,特定の抗原だけに特異的に反応する性質をもっている。一般に抗体は,特定の細菌や毒素など,自分の体の成分外の異物に対してつくられ,体の構成部分に対してはつくられないが,例外的には自己 (自己抗原) に対して自己抗体のつくられることもある。膠原病や血液病のなかには,この自己免疫現象が原因になっているものもある。このため,こうした自己免疫病の治療や,臓器移植時の拒絶反応を防ぐために免疫抑制剤が使われる。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

免疫
めんえき
immunity

免疫の免とは、元来は税を逃れる意の免税とか、兵役から免除される意の免役などとして使われ、なんらかの義務から自由になるという意味をもつ語であった。しかし、近世になるとこの語が医学の領域に持ち込まれ、疫病から逃れる意味の「免疫」となり、さらに細菌またはウイルスなどの感染から免れる、または予防する意味として使用されるようになった。そして今日のライフサイエンス(生命科学)の観点からは、生体防御機構の重要な因子としての位置づけがなされている。なお、免疫現象を解明するための学問を免疫学immunologyとよぶ。[辻 公美]

免疫学の歴史

古代から経験的に、ある特定の病原体の感染を受け、これから回復した患者は、まったく同じ病原体に対して抵抗性を有することが広く知られていた。たとえば古代ギリシアでは、ペストが猛威を振るって次々に多くの死者を出したとき、すでにペストにかかって、しかも治癒した人のみが病人の看護をしたといわれている。また、15世紀の中国やアラブ諸国においては、天然痘(てんねんとう)(痘瘡(とうそう))の患者の膿(うみ)を接種したり、あるいはその痂皮(かひ)(かさぶた)を粉末にして吸入させたりして、重症にならないようにするという試みがなされていた。18世紀に入ると、イギリスの医師E・ジェンナーは、牛痘(ウシに痘疹(とうしん)のできる病気)に感染した乳搾りの女性は痘瘡にかからないことを知り、牛痘を人為的にヒトに接種することにより、天然痘を予防することに成功した。すなわち、1796年5月14日、8歳の牧童に牛痘を接種し、人為的に免疫を行い、天然痘に対する免疫を獲得させたわけである(これを獲得免疫という)。フランスの細菌学者L・パスツールは、このジェンナーの業績を記念するため、「種痘操作」に対してワクシネーションvaccinationの語を与えた。これは免疫原として使用した牛痘の元であるワクシニアウイルスvaccinea virus(vaccaはウシの意)の名をとったものである。
 さらに19世紀末には、R・コッホ、パスツールにより病原微生物が分離され、純粋培養ができるようになると、伝染病の原因も明らかとなった。これに伴ってニワトリコレラ、炭疽(たんそ)、狂犬病などの予防法も開発された。そして1881年、一度伝染病にかかっても、さいわいに回復できると、二度と同じ伝染病にかからないという、いわゆる「二度なし現象」とよぶ免疫の概念がパスツールによって提唱された。現在では、分子レベルでの研究が進み、多くのことが解明されたが、当時においては、この二度なし現象がどのような機序(メカニズム)でおこるかは明らかでなく、細胞説と体液説とが対立していた。今日の細胞性免疫の考え方を初めて唱えたのはロシアの細菌学者E・メチニコフといわれ、彼は細胞の貪食(どんしょく)機能の研究結果から、この機能が免疫現象に重要な位置を占めることを主張した。
 1890年、ドイツの細菌学者E・フォン・ベーリングと北里柴三郎(きたさとしばさぶろう)は、ジフテリアおよび破傷風菌に対する抗毒素がヒトの血清中にあることを発見し、免疫の本体が抗体の存在であることを明らかにした。これ以降、血清学(抗原抗体反応)は黄金時代を迎えることとなった。血清反応は、初めは細菌に対する抗体の反応と考えられていたが、やがて、病原微生物に限らず卵白や動物血清などのタンパク質に対しても血清反応がおこることが証明された。この結果、なんらかの免疫反応をおこし、抗体をつくる物質を抗原と総称するようになった。このような歴史を経て、20世紀の免疫学の基礎が築かれたわけであり、今日の驚異的な近代免疫学の進歩へと発展するのである。[辻 公美]

免疫の成り立ちとその構成因子

一般に免疫反応をおこす生物は、自分のものでないもの、つまり、なんらかの異物(これを非自己という)に出会うとこれを抗原と認識し、その体内に複雑多岐にわたる機構が働く。異物に対しては特異的な反応が生じ、抗原抗体反応がおこるわけである。この反応は、その生体にとってプラスになる場合とマイナスになる場合とがあるが、いずれも生体の防御反応となっている。これを生体の抵抗性という面からみると、生まれながらにして保有するもの(自然免疫)と、抗原にさらされて初めて獲得するもの(獲得免疫)とがある。この抗原と抗体との対応は厳密に特異性があり、これはよく「鍵(かぎ)と鍵穴」の関係に例えられる。
 免疫系(一連の免疫現象)は単純化して考えると、その免疫反応の主体性によって細胞性と体液性(液性)とに二大別され、簡単にいえば前者ではリンパ系細胞、後者では抗体分子が主役をなしている。一般にはこの両者の反応がおき、正常な生体の免疫反応が成立する。免疫系の中枢臓器は胸腺(きょうせん)、骨髄、リンパ節、脾臓(ひぞう)などであり、おおよそリンパ球は1012個(1兆個)、抗体分子は1020個という超天文学的な数で全身を回っている。また、抗原は無数に存在しうるため、これに対応して無数の種類の抗体がつくられていると考えられる。免疫学の進歩によって、いかにしてそれぞれの特異的な免疫反応が成り立つかがしだいに明らかにされつつある。この免疫系は、よく指揮者と個々の演奏者とからなるオーケストラに例えられる。つまり、指揮者(免疫反応)と個々の担当者(リンパ球と抗体分子)とがそれぞれの機能を果たしたうえ、全体性との調整によって、よりよい調和を保つというわけである。
 免疫を担当、ないしは免疫に関連する細胞群は、リンパ系細胞、形質細胞、網内系細胞、骨髄系細胞からなり、リンパ系細胞はさらにT細胞、B細胞、NK細胞などに判別される。そしてさらにT細胞は、サプレッサーsuppressorT細胞、ヘルパーhelperT細胞、ディレイドタイプdelayed-type反応性T細胞、キラーkillerT細胞などに細分されている。また、これらの細胞群は、細胞表面の特異物質あるいは単クローン性抗体(モノクローナル抗体)によって種々の機能的な分類が可能となっている。抗体はリンパ系の抗体産生細胞から産生されるが、血清中のグロブリンタンパクに属している。この免疫グロブリンにはA、G、M、D、Eの五つの種類が明らかとなっており、それぞれに特異的な機能を有している。[辻 公美]
CD分類と免疫
ヒト白血球分化抗原Human Leucocyte Differentiation Antigensに関する国際ワークショップが1982年に開催され、CD(Cluster of Differentiation)分類が用いられるようになった。当初、CD分類は字のごとく、白血球表面抗原に対する抗体の分類を目的としたものであったが、現在では細胞表面抗原または分子に対するものまで含まれる。したがってCD抗原すべてが免疫に関係していない。
 たとえば、T細胞系に関するものとして、CD1、2、3、4など、B細胞系にはCD10、19、20、21など、骨髄球・単球系に対してはCD13、14、15など、血小板にはCD9、31、36、41など、NK細胞にはCD12、44、45、46など、血管内皮細胞にはCD105、106、109、140など、接着分子としてCD11、18、29、43など、サイトカイン(生理活性物質)レセプター(受容体)はCDw137などがある。[辻 公美]
抗原認識・抗原提示
分子遺伝学、細胞工学などの急速な進歩により免疫反応の機構が解明され、生体が抗原に接したとき、どのようにして抗原抗体反応がおこるか明らかとなってきた。
 外来抗原が生体内に侵入すると、抗原提示細胞Antigen Presenting Cell(APC)であるマクロファージ(大食細胞の一つ)などに食べられ、細胞内で処理され、ポリペプチド(数個~十数個のアミノ酸で構成されている)に分解される。そして宿主のMHC(主要組織適合遺伝子複合体Major Histocompatibility Complex。Major Histocompatibility Antigen。ヒトではHLA=ヒト白血球抗原Human Leucocyte Antigen)クラス分子(後述「免疫反応と遺伝制御」の章参照)と立体的に結合し、この抗原分子をヘルパーT細胞(CD4陽性T細胞)上のT細胞レセプターT Cell Receptor(TCR)と結合させ抗原認識を完了させる。一方、内在性抗原ペプチドは、小胞体に運ばれながら細胞内処理過程を経て、MHCクラス分子と結合し、細胞表面に提現され、キラーT細胞(CD8陽性T細胞)に認識される。[辻 公美]
細胞接着分子と免疫
細胞接着分子(細胞と細胞または細胞と細胞外の基質タンパクとの接着を担う分子を総称する)は、生体内の細胞どうしの恒常性維持に必要である。免疫系においては、リンパ球、好中球などの遊走とか、前述のT細胞の抗原認識過程において細胞相互の接着現象が必要である。[辻 公美]

免疫反応と遺伝制御

生体はある抗原に対して免疫反応をおこすが、それは遺伝的支配を受けている。このことはマウスなどの実験を通してわかっていたが、合成ポリペプチド抗原をはじめとする種々の抗原に対する免疫応答に関して、マウスの第17染色体のH‐2遺伝子領域の研究が進み、特定の遺伝子の存在も証明された。これを「免疫応答遺伝子」とよんでいる。また、抗体である免疫グロブリンも抗原性を有することが明らかとなり、同種免疫によって証明される免疫グロブリンの抗原特異性を「アロタイプ」とよんでいる。現在、このアロタイプの遺伝的多型性を指標として免疫グロブリンの遺伝学的研究が進められている。ヒトの免疫応答遺伝子はHLA遺伝子と連鎖することが証明され、ヒト主要組織適合遺伝子複合体(MHC)であるHLA抗原のHLA遺伝子群は第6染色体短腕にあり、全遺伝子のほとんどの領域の解明が終っている。概説すると、HLA遺伝子群はクラスがあり、さらにクラスはA、B、C、クラスはDR、DQ、DPなどの遺伝子群を有することがわかっており、ヒトの生命現象に関して生物学的意義を有することが明らかとなっている。たとえば、
(1)臓器移植の成否は、提供者(ドナーdonor)と受容者(レシピエントrecipient)とのHLA抗原の一致度に影響されること
(2)HLA抗原と疾病との間には強い相関があるため、疾病の素因、鑑別診断、治療、予後因子、予防に役だつとともに、難病の遺伝要因の解明に利用できること
(3)HLA抗原は多型性を有し、さらに人類学的な差異があるため、人種の起源の検討などの人類学的研究に利用できること
(4)法医学的には親子鑑定などの個人識別に有力な手段として応用されていること
などである。[辻 公美]

免疫理論の歴史と抗体産生

ある特定の抗原に対して特異的に免疫反応が生じる、すなわち特異的に抗体が生じることは前に述べたが、これがいかなる機序によるものかについては、なおすべてが解明されていない。過去には種々の仮説が提唱された。免疫理論の仮説の歴史に少し触れる。これらの仮説は、現在のところ二大別される。一つはアメリカのハローウィッツF. Haurowitzなどによる「指令説」であり、もう一つはオーストラリアのバーネットF. M. Burnetによる「クローン選択説」である。すなわち、前者は、抗原自体が抗体をつくる細胞に直接指令を出すというもので、いわゆるオーダーメイド方式といえる。後者は、抗体はあらかじめ、すでに抗体をつくる細胞に存在するが、抗原は自分に対応する抗体をつくる細胞を選び出し、細胞の分裂増殖を促すというもので、レディーメイド方式といえる。歴史的にみると、「選択説」の前駆をなすのは、1900年、ドイツの血清細菌学者エーリッヒP. Ehrlichによって提唱された「側鎖(そくさ)説」である。これは、生体の細胞には抗原に対応できる側鎖があるとする考え方である。すなわち、もし、ある抗原に対応できる側鎖が存在すると、抗原はその細胞に結合し、その結合物は細胞から離れる。このため、細胞膜には傷ができるが、細胞はその傷を修復するために同じ側鎖をつくり、これを細胞膜外に放出する。この放出された側鎖が抗体であるとするもので、ある意味では選択説の立場にたっている。1971年、免疫学者ヤーンN. K. Jerne(国籍はイギリス、デンマークの2か国)は「ネットワーク説」を出したが、この考え方は、バーネットのクローン選択説とともに広く受け入れられている。
 種々の仮説は、その後多くの研究成果を経て、分子遺伝学、分子免疫学の技術により、免疫反応および抗体産生機序が明らかとなった。
 免疫系が外来抗原を認識して、特異的な免疫反応あるいは応答をおこすには、一つはT細胞抗原レセプター(前述の「抗原認識・抗原提示」の章を参照)と、もう一つは抗体―免疫グロブリンとの関与が必要である。一般に抗体産生をつかさどるのはB細胞系で(T細胞は細胞性免疫をつかさどる)、骨髄の造血幹細胞から産生され分化しさらに成熟する。B細胞は、B細胞表面上のレセプターにより抗原を直接認識し、また一方でT細胞に抗原提示を行う。そして抗原を認識したB細胞は形質細胞へ分化して抗原特異的抗体を産生する。
 さらに遺伝子工学技術を用いた免疫グロブリンの遺伝子操作を行うことにより、種々の目的に対応した抗体(たとえばヒト型抗体など)の作成が可能となり、副作用を最小限に抑えた臨床投与が行われ始めた。[辻 公美]

免疫反応の種類と分類

免疫反応の種類には、(1)自然免疫・獲得免疫、(2)細胞性免疫・液性免疫、(3)高免疫反応・低または無免疫反応(免疫不全ともいわれる)などがある。
 免疫反応の異常は、免疫反応の強弱により免疫過剰と免疫不全に分けられる。免疫反応に関与するすべての因子が過剰反応をおこすとき、免疫過剰となり、たとえばアレルギーがおこる。一方、免疫反応低下、またはまったく免疫反応がおきないとき、免疫不全とよばれる。免疫不全には、不全遺伝子(欠損分子)と臨床像により種々の免疫不全症あるいは免疫不全疾患が分類されている。たとえば、アデノシンデアミナーゼAdenosine Deaminase欠損症(ADA欠損症)に対して、その欠損遺伝子であるADA遺伝子を挿入する遺伝子治療が行われ成功を収めている。今後は種々の欠損遺伝子、抑制遺伝子、促進遺伝子などの人体への挿入による遺伝子治療が期待されている。
 現在の免疫学において主流をなしているのは、生体防御反応の立場からの位置づけである。一個の生体がいかなる機構のもとで生命維持がなされているかを考えたとき、その生体にとって有利に働く免疫反応と、逆に不利に働く免疫反応とが区別されるが、実際にはこの両者が複雑に錯綜(さくそう)することによって生体防御反応がおこっている。以下、生体防御反応における免疫の種類について述べる。[辻 公美]
アレルギー(免疫反応による組織障害)
生体の防御に対して不利に働く免疫反応がおこり、体の組織になんらかの障害をもたらすとき、一般にこれをアレルギー(過敏症)とよぶ。つまりアレルギーとは、抗原が一度体の中に入り、なんらかの免疫反応がおきたあと(これを感作(かんさ)されたという)、ふたたび抗原と遭遇しての二次反応が生体にとって不利に作用する場合である。分類的にみると、古くは、この二次反応が数分から30分以内のものを即時型、2日から4日の長時間を要するものを遅延型とよんでいたが、その後、型に分類されるようになった。[辻 公美]
自己免疫
生体は自己の体の構成成分に対して免疫反応をおこさないものと考えられていたが、実際にはこの基本原則に反して、自己の構成成分に対してその生体が免疫反応をおこす事実がみいだされた。これが「自己免疫疾患」とよばれるものである。歴史的には1907年、オランダのドナートW. F. DonathとオーストリアのランドシュタイナーK. Landsteinerによって初めて発見されたもので、両者は、発作性寒冷血色素尿症患者の血清が自己の赤血球を壊すということをつきとめた。自己免疫疾患の代表例としては、橋本病、悪性貧血、重症筋無力症、若年性糖尿病、全身性ループスエリテマトーデス、皮膚筋炎などがあり、ほとんど厚生労働省の難病指定を受けている。[辻 公美]
腫瘍免疫・癌免疫
20世紀の中葉、癌(がん)の移植実験を行った際、ある系統のマウスにメチルコラントレンなどで腫瘍(しゅよう)をつくり、それがなんらかの手段で縮小したり、切除されたり、治癒したあとで、同じ腫瘍を移植しても移植は成功しないことが発見された。これは、生体内になんらかの免疫反応がおこったためと考えられた。そして、このような抵抗性を導入する抗原を腫瘍特異性移植抗原(TSTA)または腫瘍特異性抗原(TSA)と名づけた。その後の1970年、バーネットは免疫学的監視機構の考えを導入し、腫瘍が免疫学的監視機構から逃れて増殖することができると、癌は発生増殖することがあると説明した。しかし、この点はなお完全には解明されていない。また、アメリカの外科医エバーソンT. C. EversonとコールW. H. Coleは、1900~1960年の間に世界中で確実に癌と診断された患者が、なんの治療も行わないのに自然に癌が退縮・治癒した症例176例を集計報告し、体液中のなんらかの因子が免疫に関与することを想定した。さらに臓器移植の成功例と長期生存例が増えるにつれ、移植後に高頻度に悪性腫瘍が発生すると報告されている。癌の免疫療法には、特異的なものと非特異的なものとがあるが、外科、放射線、化学療法などとともに癌の対策に導入され、効果をあげている。今後は新しい技術の導入により、さらに腫瘍免疫の解明と実用化が期待されており、とくに遺伝子治療、オーダーメイド癌治療が行われようとしている。[辻 公美]
移植免疫
移植を行うには、つねに提供者と受容者とが必要である。そして、移植免疫は、提供者と受容者との遺伝学的差異により、次の4種に分けられる。
〔1〕自己移植(自家移植) 自分のものを自分に植える場合で、まったく免疫反応(拒絶反応)はおきない。
〔2〕同系移植 一卵性双生児間などの移植で、提供者と受容者で個体は異なるが、遺伝学的には同一であり、拒絶反応はおきない。
〔3〕同種移植 同一種属内(たとえばヒトとヒト)における他人同士の移植であるが、遺伝学的には相異なる者同士の移植であるため、拒絶反応がおきる。いちおう細胞免疫が主体と考えられている。
〔4〕異種移植 相異なる種属間(たとえばイヌとブタ、サルとヒトなど)における移植で、液性免疫が主体をなすとされている。ヒトの提供臓器が絶対的に不足しているため、異種移植、再生医療の臨床応用の研究が盛んである。
 一般に移植という場合は、〔3〕の同種移植をさし、これを成功させるには、とくに次の2点がたいせつとなる。
(1)組織適合性検査 提供者と受容者との間の遺伝学的差異をできるだけ少なくして、生体にとって不利な拒絶反応を最小限にとどめるための検査である。ヒトの場合では、HLA‐A、B、C、D、DR、DQ抗原などを一致させるほど、移植の成功率は高くなる。HLA抗原は、臓器移植においては移植抗原としての機能をもつほか、疾患感受性(具体的には疾病の素因、原因、診断、治療、予後、予防を追求するうえでたいせつな因子)、および免疫応答機構を解明するための手掛りとなる。なお、HLA遺伝子は前述したように第6染色体の短腕に位置している。
(2)移植免疫反応の抑制 移植免疫反応を抑える(免疫抑制)には、特異的と非特異的な方法があるが、ともになんらかの手段で生体を免疫学的無反応状態、またはそれに近い状態にさせることが必要となる。具体的には免疫学的トレランス(耐性)、免疫学的エンハーンスメント(促進)などが行われる。この分野も今後の遺伝子工学の導入によって、さらに開発が期待される。[辻 公美]
免疫血液
現在の外科学の著しい進歩の裏には、さまざまな因子が寄与しているが、とりわけ完全な輸血と麻酔の進歩、および化学療法による感染防止が大である。1901年、ランドシュタイナーは、自分と5人の研究室員の血液から血球と血清を分離し、いずれの組合せにおいて凝集反応がおこるか否かを観察して、今日のABO式血液型(その当時はA、B、C型と命名した)を分類した。1940年、ランドシュタイナーとウィーナーA. S. Wienerは、アカゲザルの血球で、ウサギ、モルモットを免疫して得た抗体によってRh因子を発見した(1937年ごろに研究着手し、1940年発表)。この研究とほぼ前後する1939年、アメリカのレビンP. LevineとステットソンR. E. Stetsonは、25歳の女性が二度目の子供を死産したあと、出血が止まらないため、ABO型の適合した夫の血液を輸血したところ、激しい反応をおこすという臨床例を得た。この反応は抗体によるもの、つまりABO型のものではなく、妊娠による免疫抗体であると判定され、Rh式血液型と同一であるとされた。現在、Rh式血液型は新生児溶血症の原因であることが判明している。
 このほか、赤血球の血液型にはMN式(MNSs式)血液型、P式血液型、ケルKell式血液型、ルイスLewis式血液型、ダフィーDuffy式血液型などが発見されている。また、前述したように、白血球にもHLAという血液型があるほか、血小板や血清にもそれぞれ血液型のあることがわかっている。[辻 公美]

生体の防御機構と免疫および感染免疫

生体の防御機構は自然抵抗性と獲得抵抗性とによって支配されるが、さらに獲得抵抗性には、細胞性免疫と液性免疫を含む特異的抵抗性と、炎症、インターフェロンなどによる非特異的抵抗性とが考えられている。また、感染防御も生体防御の一つであるため、特異的機序によるものと非特異的機序によるものとが区別される。そして感染免疫にも細胞性と液性のほか、両者による感染防御機構が成立している。
 生体反応の恒常性維持については、免疫反応を広義に考える必要に迫られる。すなわちストレスと免疫、栄養と免疫、スポーツと免疫、精神と免疫、生活習慣と免疫、漢方治療と免疫、神経系と免疫、過労と免疫、ホルモンと免疫など、多くの研究課題がある。
 感染に対して発症または発病を防ぐ手段として予防接種があるが、この予防接種はこれからの医学(とくに予防医学)にとってたいせつな領域であり、この点に関しては、遺伝子工学の開発により種々の新しい技術導入が行われている。予防接種には能動免疫と受身(じゅしん)(受動)免疫とがある。能動免疫とは、抗原物質またはその病原体を接種して、能動的に免疫反応をおこさせて感染から予防しようとするもので、原則として効果発現までに時間を要する。また、受身免疫とは、抗血清などの投与をさしているが、この場合は即効性はあるが副作用をおこすことがある。このほか、受身免疫の一つとして、感作リンパ球による細胞レベルでの免疫法もある。この分野は細胞工学の新しい技術の導入とともに、今後はさらに発展することが期待される。
 既述したように免疫は古典的血清学から近代免疫学へと進み、さらに現在では遺伝子工学、細胞工学などとの関連において研究が急速に進んでいる。具体的には、抗原抗体反応の理論、生体防御機構、分子遺伝学、免疫細胞の相互作用などの各領域において、さらに大きな進歩を遂げようとしている。[辻 公美]
『山村雄一・多田富雄他著『免疫学入門』(1980・医薬の門社) ▽狩野恭一著『医学免疫学』(1980・東京大学出版会) ▽狩野恭一著『免疫学入門――ABCから中心テーマへ』(1980・東京大学出版会) ▽菊地浩吉・森道夫他著『医科免疫学』(1981・南江堂) ▽辻公美編著『移植学・分子レベルから臓器レベルまで』(1986・文光堂) ▽上出利光著『接着分子――免疫反応のコーディネーター』(1995・中外医学社) ▽笠倉新平編『サイトカイン』第2版(1997・日本医学館) ▽日本BRM学会編『CD分類ハンドブック――細胞膜分化抗原の国際分類1996』追補版(1998・癌と化学療法社) ▽菊地浩吉・矢田純一・奥村康編『Annual Review 免疫1999』(1998・中外医学社) ▽萩原政夫・辻公美著『異種移植概説』(1998・日本医学館) ▽菊地浩吉編著『周り道免疫学』(1998・メディカルレビュー社) ▽イワン・ロアット他著、多田富雄監訳『免疫学イラストレイテッド』第5版(2000・南江堂) ▽テレンス・A・ブラウン著、村松正實監訳『ゲノム――新しい生命情報システムへのアプローチ』(2000・メディカル・サイエンス・インターナショナル) ▽谷口克・宮坂昌之編『標準免疫学』(2002・医学書院) ▽小林芳郎他著『スタンダード免疫学』第2版(2003・丸善)』

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世界大百科事典内の免疫の言及

【インムニテート】より

…ヨーロッパ中世の法制史用語。ラテン語ではインムニタスimmunitas,英語ではイミューニティimmunityという。インムニタスは,古代末期のローマ帝国では,諸種の公的負担からの免除を意味する法技術的用語であったが,フランク王国では主として教会大所領の特別な国制上の地位を表すようになる。…

【アレルギー】より

…また,こうした外来の物質に対して過敏な状態にすることを感作sensitizationという。現在は〈抗原抗体反応が生体に及ぼす影響のうち病的過程を示すもの〉を総括した言葉であると考えればよく,同様に免疫はいちおう〈抗原抗体反応が生体に及ぼす影響のうち有利に作用するもの〉と考えるのが普通である。
[アレルギー研究の歴史]
 アレルギー反応は古くから知られており,前1世紀にはすでにルクレティウスが〈甲の薬は乙の毒〉ということわざを残しているが,現在での食事アレルギーに対する言葉として理解できる。…

【体】より

…器官は,その働きのうえから,植物性器官と動物性器官に分類される。植物性器官は,消化器,呼吸器,循環器,内分泌器,生体防御器官,生殖器,排出器に分けられ,体の代謝,免疫,種の保存などに関与する。これらの器官は,ほとんどが頭部の前下面,および体幹の腹側に集められている。…

【血球】より

…単球のライフサイクルも顆粒球とほぼ同じである。リンパ球の寿命は短いものでは数日,長いものでは数年~十数年にも及び,寿命の長いリンパ球は免疫の記憶に関係していると考えられている。血小板の母細胞である巨核球は,核は分裂しても細胞質は分裂せず,そのため細胞は肥大し,100μm以上の巨大細胞となる。…

※「免疫」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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